第105回:「トヨタiQ」でイークー!? 欧州導入1年、あれからどうヨ?
2009.08.22 マッキナ あらモーダ!第105回:「トヨタiQ」でイークー!? 欧州導入1年、あれからどうヨ?
スマート大国に切り込んで……
思えば、去年夏のことだった。イタリアの大都市で、奇妙な“ゲリラ戦”が展開されていた。
“実行部隊”は、「スマート・フォーツー」を発見するたび、ドアミラーにヒモつきのオーナメントを勝手にぶら下げて逃走。スマート以外のクルマが路上駐車していると、ノーズから巻尺で全長を測り、2985mmの位置にステッカーを貼って立ち去るというものだった。
彼らの正体は、トヨタが派遣したプロモーション部隊である。前者のオーナメントには、「キミが夢見た、あと2席」、後者のステッカーには「トヨタiQ(の全長)は、ここまで」とプリントされていた。
そう、世界で2番めにスマートが売れている国イタリアにおける、トヨタiQの発売告知パフォーマンスだったのである。
あれから1年。イタリアやフランスでiQはどうヨ? というのが今回のお題だ。
正直なところ、見かけるチャンスは、いまだ「大都市偏重型」である。ボクが住むシエナのような県庁所在地レベルだと、1週間に一度見るか? といったところだ。
統計を見てみよう。2009年5月のイタリアにおける引き渡し台数は648台である。シティカークラスでは、「スズキ・スイフト」の798台より少なく、起亜のスモールカー「ピカント」の594台よりも多いというポジションだ。
「ルノー・トゥインゴ」(446台)より売れているが、2000台ペースで売れているスマートには遠く及ばない。
イタリアのトヨタディーラーで、セールスマンに聞いてみた。
彼によると、最初iQに興味を示しても、最終的には「ヤリス(日本名ヴィッツ)」を買ってしまう人が多いという。
理由は価格だ。イタリアにおけるiQの1万2950ユーロ(MT車)は、ヤリスの1.3リッターモデルが買える値段なのである。
iQとヤリスの間に位置する「アイゴ」の存在もある。チェコにあるPSAプジョー・シトロエンとの合弁工場で製造されているリッターカーである。
このアイゴ、5ドア版も存在するうえ、驚くべきことに全グレードがiQより安い。つまり“下”のiQと価格の逆転現象が起きてしまっているのだ。トヨタ伝統ともいえる鉄の序列の中では、珍事である。
安くていいから、1人1台
「それでも、全長3メートル以下は魅力だろうに」とボクなどは思う。
しかしセールスのおじさんによれば、「大都市以外では、みんなそれほど駐車場に困っていないんだ」と言う。
たしかに、ちょっと郊外に出れば、大きな家と広い駐車場が確保されている。三大都市圏に人口の5割以上が集中している日本と違う点である。
そのうえイタリアでは都市に住んでいても、家族の数だけクルマが求められることが多い。その背景には公共交通機関の整備不足という嘆かわしい実態があるのだ。
たとえiQの高度な技術や高品質は理解できても、乗り物を複数所有するほうが優先なのである。そうなると少しでも安く、経済的なほうがいい。
たとえば、ボクの知る家庭は、お父さん(医師)が中古の「オペル・ザフィーラ」、奥さんはGM大宇製「シボレー・マティス」のLPG仕様、そして息子・娘がそれぞれスクーターを持っている。
各自の生活があるから、たとえiQに4人乗れても、ボディを四分割できないかぎり彼らの要求を満たすことができないのである。
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いっそのこと2座に割り切ったほうが……
そもそもイタリア人の間では、よほどのクルマ好きでないとiQの存在をいまだ知らない。“ライバル”であるスマートのユーザーでも、実用に徹して乗っている人は、iQを知らない人がほとんどだ。
ようやくiQの詳しい感想を述べてくれたのは、ボクの知るスマート大好き青年(22歳・大学生)だった。以下は彼の印象である。
まず外観は?
「ヘッドランプから、テールランプ、ドアミラー内蔵のウィンカーまで、ものすごく先進的で、よく研究された感じを受ける」
インストゥルメントパネルはどうよ?
「こっちもデザイナーの苦労が伝わってくる。でも人によって好みが分かれると思うよ。若者にはウケそうだけど、一般家庭のお父さんには派手すぎる」
肝心のパッケージングは?
「スペースを稼ぐために仕方ないのかもしれないけど、シート本体がボクには小さい。また、たとえ長身のドライバーでなくても、直後の席は事実上子供しか乗れない」
荷室は?
「後席に人が乗るとスーツケースはおろか、大きいバッグさえ積むのが難しいのも非現実的だね」と。さらに「iQの衝突安全性についてボク自身は理解しているけど、なんにも知らない人にとって、後席とテールゲートの近さは不安かも」とも。
で、値段はどう?
「シティカーとしては妥当なラインだね。それでも装備はもう少し充実させてほしい」
たとえば?
「室内は充分開放的だけど、やっぱりガラスルーフが欲しい」らしい。ガラスルーフ付きのスマートに乗っている彼としては、そう感じるのだろう。そのいっぽうで、「自分のスマートにないタッチスクリーン式大型ナビゲーションは、かなり魅力的」と言う。そして、「スタイルはかなりカッコいいんだから、いっそのこと2座に割り切っちゃったほうが潔かったと思う」と結んでくれた。
君よ、クルマ界のアップルとなれ
かくもさまざまな視点から眺められるiQだが、車両本体は多くのエンスージアストが知るとおり、きわめて真面目に考えられた自動車である。AT仕様がメインというのも、勇気ある試みだ。
事実、前述のセールスが言うには、「うちでは、お客さんの8割がAT希望」という。いままで闇雲にMT車至上主義のドライバーが多かったこの国で、画期的な出来事といえる。iQが欧州のドライバーのメンタリティを変えることができるか、興味深いところである。
ちなみに、セールス氏いわく、主な購入者は独身者か夫婦だけのカップル、よくある下取り車はスマートか他の小型車だそうだ。
残るiQ普及作戦はなにか?
iQはイタリア語で「イークー」。「iQでイークー?」なんていう駄洒落キャッチを作っても、面白さは理解してもらえないし。最終的に思いついたのは、ずばり「スマートがもっと売れてくれる」ことである。
理由を説明しよう。
イタリアの大学生の間では、近年ようやくアップルのコンピューターがはやり始めた。シエナの学生街でも、広場や街角に座り、MacBookで公衆LANのネットを楽しむ若者たちを数多く見かけるようになった。彼らにとってアップルは、「みんなが持っているウィンドウズ系よりもかっこいい」のだ。
日本からすると数歩遅れている感があるが、iPodのヒットやサービス網の充実によって、イタリアもようやくその段階まで到達した。
ともかく、他者との差異性を求める彼らにとって、あまりにスタンダードとなったアイテムは興味の対象外なのだ。
高感度な若者たちにiQが注目されるようになるには、スマートがウィンドウズパソコンのごとく、もっともっと街に溢れかえることである……というのは逆説的すぎるだろうか?
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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