ホンダの新型軽「N-ONE」デビュー
2012.11.01 自動車ニュースホンダの新型軽「N-ONE」デビュー
本田技研工業は2012年11月1日に新型軽乗用車「N-ONE(エヌワン)」を発表した。翌11月2日に発売する。
■レトロではなくタイムレス
2011年12月に発売された「N BOX」シリーズが、2012年度上半期(4〜9月)の軽四輪車新車販売台数のトップになったというニュースは、まだ記憶に新しい。ホンダの四輪事業の原点である軽自動車を根本から見つめ直し、市場の奪還を狙った「Nシリーズ」。第1弾の「N BOX」が、ホンダの分類上ではスーパーハイトワゴンと呼ばれる全高1700mm以上の市場をひとまず制したわけだが、いよいよ最大の激戦区であるハイトワゴン(全高1550〜1700mm)市場に「N-ONE」と名乗るニューモデルが投入された。
「N-ONE」は昨秋の東京モーターショーに参考出品された「Nコンセプト4」を市販化したものであり、往年の「ホンダN360」のデザインをモチーフにしている。二輪の世界では「ドリーム50」をはじめ過去の自社製品を引用したレトロ路線を少なからず手がけてきたホンダだが、四輪ではこれが初。よそを見渡しても、日本でこの手法を使ったのは初代「クラウン」をよみがえらせたトヨタの限定車「オリジン」と、同じくトヨタの40系「ランドクルーザー」をイメージした「FJクルーザー」くらいである。「N-ONE」は趣味性の高いそれらのモデルとはケタ違いに量産される軽であることを考えると、画期的と言っていいかもしれない。
モチーフとなった「N360」がどんなクルマだったかというと、1967年に誕生したホンダ初の量産軽乗用車である。それまでの常識を打ち破る高性能と高いスペース効率、そして低価格と「速い、広い、安い」が三拍子そろった軽の革命児で、爆発的にヒット。発売3カ月後には軽のベストセラーとなり、以後連続43カ月にわたってその座を独占した。市場への参入は最後発ながら、「N360」の成功によってホンダは一躍“軽のリーディングブランド”となり、四輪メーカーとしての礎を築いたのだった。
ホンダでは「N360」のモチーフの引用をノスタルジックなレトロではなく、タイムレス、すなわち時代を超えて愛され、暮らしになじむデザインと考えているという。また単なる造形上の手法にとどまらず、「N360」からもっとも色濃く受け継いだのは、革新と先進の提案という「志」であると主張する。
■ロングドライブできる軽
そもそも「N-ONE」の企画の原点は、いつでも自由にスピーディーに移動したいという人間の根源的欲求に応えるモビリティー=クルマの本質的な価値と魅力の追求。妥協なき理想の具体化のためにまず着目したのが、軽自動車がこれまで不得手としてきた高速・長距離移動。その解決のために、ターボ仕様を従来のようなハイパワーバージョンではなく、660ccで1.3リッター級の走りを実現するための「ダウンサイジング過給」と位置づけ、「One's MINI TOURER」というコンセプトを確立した。大人4人が快適にロングドライブできる走行性能とパッケージを基本に、親しみやすいデザインや高い質感を追求、「One's」すなわちユーザーひとりひとりにとってベストなマイカーとなることを目指したという。
「N BOX」で実証された、センタータンクレイアウトとミニマムエンジンルームで圧倒的な広さを誇るNシリーズの革新プラットフォームに、全高1610mm(4WDは1630mm)の安定感のある台形フォルムの軽量高剛性ボディーを構築。クラストップの室内有効長を達成するとともに、居住空間と荷室スペースを最適なバランスに設定。ゆったり足が組めるスモールカー以上の後席ひざまわり空間を確保しながら、荷室には20リッター入りのポリタンクが縦に4個積載できるという。
テールゲート開口部の地上高はクラスでもっとも低いため荷物の積み降ろしが楽で、荷室の床下にも収納スペースを用意。さらに振動・騒音対策を徹底して静粛性を追求、日常の使い勝手のよさとロングドライブでの快適さを両立した快適ツアラーパッケージとなっている。
シャシーも専用設計で、ロングホイールベースのもたらす優れた直進安定性に加え、サスペンションのスプリングレートの前後比率最適化により、ピッチングを抑えたフラットでスムーズな乗り心地を実現。サスペンションの専用チューニングやステアリングギアレシオの最適化などによって、リニアなハンドリングも達成。乗り心地、操縦安定性ともにスモールカーと同等以上のツアラー性能を身に付けたという。
■コンパクト以上の走りと低燃費を両立
パワーユニットは「N BOX」でデビューした新型の660cc3気筒DOHC12バルブエンジンをさらにリファインしたもの。特に推しているのが、コンセプトにも掲げられた「ダウンサイジング過給」をうたったターボエンジン。上級グレード専用のハイパワー版ではないという考え方から、「Tourer(ツアラー)」と呼ばれるターボエンジン搭載車はベーシックグレードにも設定されているが、実はこの発想も「N360」から継承したものだ。かつて「N360」が火をつけた軽の高性能化の波に乗って、続々とライバルがエンジンをチューンし、派手に装ったスポーツモデルを追加した。それに対して「N360」は、「T」シリーズと呼ばれるツインキャブレターの高出力エンジン搭載車を、スポーティー仕様のみならず全グレードに用意したのである。
最高出力64ps/6000rpm、最大トルク10.6kgm/2600rpmを発生するこのターボエンジンは、1.3リッター級を上回る走りとJC08モードで23.2km/リッターという低燃費を実現。いっぽうNA(自然吸気)エンジンも58ps/7300rpm、6.6kgm/3500rpmというクラストップの数値を誇りながら、全車にアイドリングストップシステムを備え、燃費はリッターあたり27.0kmを達成している。トランスミッションは全車CVTで、市街地走行で多用されるアクセルペダル中間開度での加速度特性を大幅に向上。ターボ車は1.5リッター、NA車は1.3リッター級の加速度特性を実現したという。また、スイッチひとつでエンジンやCVT、エアコンなどを協調制御して燃費向上に貢献する「ECONモード」を全車に備えている。
安全性能もクラストップレベル。コンパティビリティー対応ボディーで衝突安全性能に優れ、サイドカーテンエアバッグと前席用i-サイドエアバッグの装着車を設定。またVSA(車両挙動安定化制御システム)とヒルスタートアシスト機能、軽では初となる急ブレーキ時にハザードランプを高速点滅させ後続車に注意を促すエマージェンシーストップシグナルを全車に標準装備している。
■維持費は軽でも造りは立派
エクステリアとインテリアも質感と個性を重視している。「One's MINI TOURER」のコンセプトのもと、ユーザーの好みに合わせて選べるよう11色のボディーカラーを用意し、凝った仕上げの2トーンカラーもラインナップ。飽きのこない、居心地のよさを目指したインテリアはクラス最大級の大型ベンチシートを採用、2トーン仕上げのインパネにはタコメーターを含む3眼メーターが全車標準装備。メーカーオプションとして、スマートフォンのナビアプリとの連携機能、Bluetooth接続によるハンズフリー通話やワイヤレス音楽再生、さらにリアワイドカメラも備えた高機能オーディオが設定されている。
長く愛されるデザイン、大人4人がくつろげる居住性、快適な高速クルーズを約束する走行性能を高次元でバランスさせ、既存の軽はもちろん1.3リッター級のスモールカーをも超える新しいベーシックカーを維持費の少ない軽規格内で完成させたと胸を張る「N-ONE」。開発担当者から「軽規格の優遇のある『フィット』と考えていただければ」という大胆な発言が飛び出したほどの自信作である。
独自の価値を提案したNシリーズのブランドアイコンとして、軽ハイトワゴンおよび「スズキ・ラパン」や「ダイハツ・ミラココア」などの個性派軽のみならず、同門の「フィット」らが覇を競うコンパクトカー市場をも侵食して新市場を創出し、Nシリーズのブランド盤石化を図るという大きな使命を担っている。
バリエーションは基本となる「N-ONE」と専用の内外装を持つ「N-ONE Premium」に大別され、それぞれに装備の異なる2グレードを設定。さらに各グレードとも2トーンカラーが選択可能で、エンジンはNAとターボ(Tourer)、駆動方式はFFと4WDの双方が用意される。価格は「N-ONE G」(単色、FF)の115万円から「N-ONE Tourer・Lパッケージ 2トーンスタイル」(4WD)の170万7750円までとなっている。
かつての「N360」は、クルマとしての出来に加えて、F1にも参戦しているホンダのスポーティーなイメージと、既存の軽にはないフレッシュな感覚が特に若者層の圧倒的な支持を獲得して軽ブームを巻き起こした。「N-ONE」もそれにあやかって、およそ40年ぶりに軽ナンバーワンの座を奪回しようというわけだが、その狙いやいかに?
(文=沼田 亨)
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