ジャガーXFR(FR/6AT)/XF 5.0ポートフォリオ(FR/6AT)【試乗記】
スポーツサルーンの伝統芸 2009.07.01 試乗記 ジャガーXFR(FR/6AT)/XF 5.0ポートフォリオ(FR/6AT)……1218.0万円/993.0万円
新開発の5リッターエンジンをラインナップに加えた、ジャガーのスポーツサルーン「XF」。2台の最新モデルに試乗したリポーターは、昔ながらの英国車を感じたという。
英国車の味わい
「ジャガーXF」みたいなクルマ作りは、このメーカーとしてはお家芸のようなものである。スポーツカーのルックスと性能を、豪華サルーンの洗練性とスペースの中で実現したとジャガーは説明する。メーカーによれば現代のXKがかつての「XK120」から「Eタイプ」に続くスポーツカーの精神を持ったグランドツアラーであるのに対し、こちらのXFは1950年代末期に登場した「マーク2」の流れを汲むという。
そのとおりで、たしかにはるかな昔、マーク2は独特の地位を得ていた。ツーリングカーレースで活躍し、町なかで見ると他の実用的なサルーンとはまったく違う、低いたたずまいの中で精悍さとエレガンスを同時に表現している格好が何とも魅力的だった。
XFは、そのマーク2の精神を生かすべく企画された。それゆえ、もともとはジャガーサルーン・ラインナップの中で、「XJ」と「Xタイプ」の間を受け持っていた「Sタイプ」の後継という使命を与えられながらも、微妙にポジションを変えた。スポーティでパーソナルな性格を強め、上級モデルはXJのスポーティ版といえるような立場になっている。
このXF、2007年秋にデビューして以来、我が国にも約1年前から輸入されているが、最近XKに続いて新世代のV8を採用したのを機会に、箱根で乗ってきた。
一日、付き合って知ったのは、XFはジャガーとしてはまったく新しいルックスを持ちながら、その裏には古典的なブリティッシュスポーツの味わいをフルに残しているクルマということで、それこそがこのクルマの魅力だった。
心地よく、秘密めいた場所
2007年のデトロイトショーで初公開された時、個人的に好ましく見えたコンセプトモデル「C-XF」に比べると、量産型XFはだいぶシャープネスに欠けてしまったし、ルーフも高くなって切れ味は鈍っている。だが従来のXJやXタイプとは違った造形テーマを開拓しながらも、伝統のジャガーテイストを見事に残しているのがいい。
アルミとウッドを多用し、これも英国高級スポーティサルーンの文法を現代流に翻案したという室内は、細かいところで凝った演出を見せる。シフトセレクターが丸いノブになり、それがエンジンスタートとともにちょっとせり上がったり、ベンチレーターのフラップ類が自動的に開閉したり、さらには淡いブルーのメーターが浮かび上がったりしてオーナーを喜ばせようとする。でもXKも含めて、最近のジャガーインテリアは、細部のデザインや仕上げが軽々しいというか、素材の質感の表現の詰めが甘いような感じがして個人的には好まない。たぶんそれは、意図的に若いユーザーを意識しているからなのだろう。
ただこのボディ、中にいると妙に居心地がいい。高いベルトラインと低いルーフというスポーツカー的プロファイルの中に5人を収めるために、シート座面は低くとられ、それによってヘッドルームもレッグルームも確保されている。結果として乗員は前後とも深いバスタブに浸かったような感じで、通常のクルマよりちょっと高い位置にサイドウィンドウ下端がくる。開放感や明るい室内とは逆に、全体が包み込まれたようだが、これはこれなりに安心感と外界から遮断されたような心地よさを感じさせる。つまり「心地よく秘密めいた場所」、というわけだ。ただし小柄なドライバーにとっては、目前のスカットルが相対的にやや高すぎるように思えるが、それも昔のスポーツカーのようで、これまた懐かしくもある。
ドライバーとともにある
今回のハイライトは新型エンジン。長年使われてきたAJ-V8は第三世代に進化した。排気量は4.2から5.0にアップしただけでなく、4カ所の主要パーツを除いてすべて新設計という。その結果、自然吸気ユニットがパワー、トルクが26%と23%増強され、R用のスーパーチャージャーユニットはそれぞれ23%、12%増しているが、その裏には新しいEC基準に合わせた燃費と排ガス改善もある。
絶対的な排気量拡大だけでなく、ダイレクトインジェクションの採用や、可変カムシャフトタイミング、バリアブルインテークシステムなどで、現代の高性能車として時代の要求にも対応している。
自然吸気エンジンと上質な内外装を組み合わせた新モデルのポートフォリオは、可能な限りジャガー特有の雰囲気を残そうとしつつも、パドルシフト付き6段ATと強化されたエンジンによって、エレガントな出で立ちとは裏腹に、元気の良さを見せる。
510psと63.7kgmを得たRのユニットは、さらにドラマに富んでいる。スーパーチャージャーの唸りは以前ほど聞こえず、それでいて強力なパワーがよどみなく溢れ出る感覚も痛快だが、どの回転域においても底力のあるトルクがドーンと支えてくれるのが気持ちいい。あたかもドライバーの右足の動きを予め感知していたかのごとく、機械の方が瞬間的に応答してくる。しかもそのときに高まるノートは、エンジン音といい排気音といい昔ながらのジャガー特有の咆吼で、加えてシルキースムーズというよりは、細かな目が残っているような肌触りともいうべき独特の回転感覚がそこにある。それは最新のハイテクユニットと違って、そのハイテクを裏に隠した古典機械のような感覚で、まさにこのクルマは、昔ながらの豪快な英国製マシーンであることが理解された。
このR、無段階可変のアダプティブダンパーと、電子でリアのスリップとトラクションを制御するアダプティブデフを持つ。路面と速度による、ホイールのトラベルと上下速度を読み込んだその反応もまた、常にドライバーの期待を予見したようで、しなやかさと芯が通った適度な硬さで返ってくる。そして望むだけの重さと応答を示すステアリングを操り、伝統のノートを奏でながら走っていると、昔とまったく変わらない、なつかしく、そしてちょっと男っぽい世界がそこに出現してきた。
その親会社がどこであろうと、ジャガーはやはり生粋の英国車なのである。最新のハイテクの塊でありながらも、オールドワールドの肌合いとスピリットを持ち、常にドライバーと対話していくようなクルマであることを、このXFで改めて理解した。
(文=大川悠/写真=高橋信宏)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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