ジャガーXF 20dプレステージ(FR/8AT)
2代目は正統派 2016.08.09 試乗記 モジュラー構造のアルミボディーなど、先端技術が惜しみなく投じられているジャガーの新型「XF」。その真骨頂は、個性の過剰な演出にあるのではなく、ジャーマンスリーを向こうに回しても善戦できる、誰もが受け入れやすい“オーソドックスないいクルマ”を目指しているところにあるといえそうだ。インジニウム・ディーゼルエンジンを搭載する中核グレードに試乗した。“モジュラー”が生んだ3兄弟
ジャガーはわずか1年ほどの間に、「XE」「XF」「Fペース」という完全新開発モデルを3つも発売した。実際の開発作業はほぼ同時並行でおこなわれたはずで、ジャガーの企業規模としては、これまでの常識ではちょっと信じられないくらいの大事業である。
最新のモジュラー設計技術では、今回のXEとXFのように、完全にクラスちがいのモデルまで同時進行で開発できるわけだ。ただ、基本構造や開発時期が一緒だと、見た目も乗った感覚も似てしまうが、ジャガーとしてはそれも意図的な戦略の一環だろう。
“新世代ジャガー”としてブランドと商品イメージを短期間で定着させる。そして、実際のショールームでは「こちらがお気に召さないなら、あちらもございます。どちらも最新モデルです」という売りかたができる。
モジュラー設計の利点を最大限に活用して、大量のフルモデルチェンジを短期集中させるという意味では、日本の「マツダ」のスカイアクティブ戦略も、ジャガーとは規模も顧客層もちがうが、ねらいは同じである。
ただ、XFは新世代ジャガーで唯一、既存機種の後継商品であり、ジャガー全体のラインナップでも中庸モデルの位置づけだ。XEやFペースとはちがって、既存ユーザーの代替需要も意識せざるをえない。
私たちのような職業の人間は新しモノ好き・目立つモノ好きなので、どうしても前例のない新種や、振幅の大きいタイプに目がいく。よって、ジャガーの新世代商品群でも、メディアの注目はXEやFペースにかたよってしまいがちだ。
……といった自省の念をいだきつつも、XFがXEやFペースと比較して、とんがった部分が少ないことも事実である。完成度が高い優秀なクルマであることは確かだが、あるポイントを取り上げて「ここがスゴイ!」といった表現がしづらいタイプでもある。
先端技術を満載
先代のXFは同世代の「XJ」よりも技術的にはオーソドックスで、競合車と比較しても先進的なタイプではなかったが、そのぶんパッケージレイアウトやデザインを大胆に割り切った屈指の“スポーツカーセダン”でもあった。
例のダイヤル式シフトセレクターも先代XFが最初。しかも、エンジン始動とともにダイヤルがせり上がるのと同時に、空調用のエアベントも動物のまぶたのように、グルリと回転して目覚めるギミックまで仕込まれていた。走りも、快適性より回頭性やステアリングフィールを優先した超ドライバーズカーだった。
実際に見て乗ったときの個性や独自性については、正直なところ、新しいXFは先代ほど濃厚で分かりやすくはない。インテリアデザインにも、先代ほどの情緒的独自性は感じられない。自慢の回転式エアベントは左右両端だけになって、あんまり目立たなくなった。
ただ、客観的な質感向上は飛躍的だ。基本デザインや各部の人間工学はXE/Fペースに酷似するが、実物は確実にXEより高級感に富む。最新基準にあるデジタル情報装備の操作をタッチパネル液晶に担わせることで、ジョグダイヤル式全盛のドイツ車よりデザイン的にスッキリとさせるのは、先代XFの流れをくむジャガーテイストだ。
モジュラー構造のアルミ車体を筆頭に、新しいXFは客観的にも最先端といえる技術がテンコ盛りである。ルーフやフロント外板までアルミ化しながら、トランクリッドにあえてスチール(バッテリーもトランクの床下)を選ぶあたりにも、重心や重量配分への、なみなみならぬ執念がうかがえる。
そして、室内空間や燃費などでクラストップ級をうたうのも、新世代ジャガーらしいところだ。従来のように情緒に逃げることはせず、「数字で示せる商品性に言い訳はしない」という姿勢はXE/Fペース同様である。
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運転が楽しいディーゼル
今回の試乗車は、新型XFでも売れ筋になることが期待されている2リッターディーゼル搭載車で、2種あるうち上級の「20dプレステージ」である。より大径な18インチホイールとレザーシートが標準となるのが、安価な「ピュア」との大きなちがいである。
動力性能は「BMW 523d」や従来型「メルセデス・ベンツE220d」など、日本で入手可能な競合車と比較しても、基本的にXFが最強である。最高出力値のみ523dにわずかにゆずるものの、XFは車重も軽いので、パワーウェイトレシオおよびトルクウェイトレシオでは現時点でクラストップだ。
ジャガーのディーゼルはアイドリングが意外と勇ましく、静粛性という点ではクラストップとはいえない感じ。ただ、ディーゼルとしては回転上昇がスムーズで、トップエンドまで落ち込みが少ないのが特徴でもある。
ちなみに、同じXFではディーゼルの「20d」とガソリン4気筒ターボの「25t」が維持費を含めたトータルコストで僅差の好敵手であり、迷う向きも多いだろう。トータル動力性能も両車は一長一短という感じで、市街地などの低速ではディーゼルのほうがパンチがあり、高速巡航も快感だが、高速追い越しなどでの“最後のひと伸び”ではガソリンに分がある。
ディーゼルでは8ATのSレンジがドンピシャだ。減速Gに応じて積極的にダウンシフトをかましてくれる制御もあって、ディーゼルのおいしい部分をうまくキープしてくれる。ジャガーの8ATは完全マニュアルモードにすることも可能で、トップエンドまで回しがいのあるガソリンでは、やはりマニュアルモードでシフトパドルをはじくのがなにより快感だ。しかし、回転幅のせまいディーゼルではマニュアルシフトはせわしないだけで、Sレンジで機械にまかせたほうが、ラクで速くて楽しい。
長く乗るほどに魅力的
18インチタイヤは45偏平というけっこう武闘派のサイズだが、操縦性や乗り心地は穏当そのものだ。今回はオプションの可変ダンパーも装着されておらず、どんなシーンや速度でも、ストローク感をいかして、適度にロールしながら……の自然な動きに終始する。
先代XFでは固定減衰ダンパーでも上屋の動きを明確に抑制して、足もとだけでショックを吸収する“ひたひた”というネコアシ感が濃厚だったが、新型ではそこに良くも悪くも“ふわふわ”という動きが少し加わっている。ステアリングレスポンスも、先代ほどきわだって強力でも俊敏でもない。完全なコーナリング姿勢に入れば、さすがの前後重量配分で素直な回頭性を見せてくれるものの、先代のようにステアリングだけでグイグイ曲がっていくタイプではない。
もっとも、設計年次が異なるので、新型XFが単純に鈍くなった、上屋の動きが大きくなった……というわけではない。ただ、最新ジャガーはかつてのようになにかを捨ててまで、独自性を追求するのではなく、まずは土台として“オーソドックスに優秀でいいクルマ”であることを最優先としているようだ。
実際、後席を含めた室内空間の余裕は、XFはクラスでもトップ級である。以前、弟分のXEと同時にステアリングを握ったときには、圧倒的に軽快で俊敏なXEに瞬間的に心をうばわれもしたが、長く乗るほどにXFの穏やかさや疲れにくさに感心して、後席に座って走ってみたり、トランクに荷物を積んでみたりするうちに「でも、予算が許すならやっぱりXFか」という気持ちにどんどん傾いた。
ツカミはXE(もしくはFペース)、物足りなくなったらXFをどうぞ……。これこそ新世代ジャガー商品群のキモにして、自動車ビジネスの王道である。
友人に薦められるクルマ
ひとクラス下となるXEのクラスでは、価格的にもすべてを詰め込むことはできず、優先順位をつけて取捨選択をしなければならない。その取捨選択にブランドごとの個性が出る。いっぽう、ひとつ上のXJのクラスとなれば、各社とも自前技術のすべてを注ぎ込む。各社の技術力の差がハッキリと出るし、そのメーカーが優先して取り組んでいる得意分野がそのまま、そのクルマの商品力となる。
XFのような中間クラスのセダンで分かりやすい個性を打ち出しにくいのは、ジャガーにかぎらず、高級車ブランドに共通するところだ。「Eクラス」や「5シリーズ」、さらに「アウディA6」「レクサスGS」なども、どれも平均点は高いが、ブランドの独自性は他のクラスよりも薄くなりがちなのも否定できない。
逆説的にいうと、新しいXFが先代よりも分かりやすく大げさにホメづらいのは、それだけ、このクラスとしての商品レベルが上がった証左でもある。
実際、XFは動力性能、燃費、室内空間、安全装備を含めた技術内容において、さすが後発らしいハイレベルな内容で固められている。ドライバーズカーとしての分かりやすさこそ先代より少し後退したものの、後席の居心地は飛躍的にレベルアップしているし、荷物もたっぷりと積めるようになった。
ある特定の嗜好をもつ人に向けて「絶対にXFがいい!」と強力にプッシュできるケースは減ったが、「新しいXFってどうかなあ?」と知人・友人にたずねられて「気に入ったんなら、買っても後悔はないよ」と素直にいえるようになった。
ただ、こうなると、先日デビューしたばかりのEクラス、そして近日上陸予定の「ボルボS90」、あるいは今年秋にも姿をあらわすとウワサの次期5シリーズのデキいかんで、XFの評価もそのつど変わるようになるだろう。それが新世代ジャガーの選んだ道だ。真のメジャープレーヤーとは、そういうものである。
(文=佐野弘宗/写真=小河原認)
テスト車のデータ
ジャガーXF 20dプレステージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1880×1455mm
ホイールベース:2960mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:180ps(132kW)/4000rpm
最大トルク:43.8kgm(430Nm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)245/45R18 100W/(後)245/45R18 100W(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト5)
燃費:16.7km/リッター(JC08モード)
価格:693万円/テスト車=742万9050円
オプション装備:メタリックペイント(オデッセイレッド)(9万3000円)/マニュアルリアサイドウィンドウブラインド(3万8000円)/アドバンスドパークアシストパック+サラウンドカメラ(36万8050円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1万821km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:301.5km
使用燃料:24.1リッター(軽油)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/12.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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