第95回:日本語車名ブームの予兆? 私を「ロードスター “ニセコ”」で連れてって!
2009.06.13 マッキナ あらモーダ!第95回:日本語車名ブームの予兆? 私を「ロードスター “ニセコ”」で連れてって!
「フォード・グラントリノ」
日本では2009年4月から公開している、クリント・イーストウッド監督・主演の新作映画「グラン・トリノ」が、少し前にイタリアでも公開された。孤独で偏屈な老人(イーストウッド)と、アジア系少年の心の交流を描いた作品である。
この作品、タイトルを見て「グラントリノとは何ぞや?」と思った方は多いだろう。自動車ファン歴の長い人は「どこかで聞いたような」と首をひねったに違いない。
「グラントリノ」とは、米国フォードにおける1970年代の1モデルである。映画の中で、老人は元フォード工場の組立工ということになっていて、自ら携わった彼の愛車がグラントリノという設定だ。
グラントリノは“Gran Torino”と書く。フォードが姉妹車「トリノ」とともにイタリアにおける自動車の都トリノに敬意を払ってつけたものといわれる。
グラントリノ以外にも、1960-70年代のフォードは「コルチナ」「カプリ」といったように、イタリアの地名をつけるのが得意だった。背景には以前書いたように、当時の社主ヘンリー・フォード2世が大のイタリア好きだったことがあるのだろう。
フォードだけではない。GMはビュイックに「リヴィエラ」「エルドラード(黄金郷)」、クライスラーはプリマスに「ベルヴェデーレ(展望台)」なんていう名前をつけていた。北米メーカーはスペイン語名も好きだった。スペイン南部の都市名である「(フォード)グラナダ」をはじめ、道を意味する「(シボレー)エルカミーノ」、動物名である「(シボレー)インパラ」など、地名以外でも気になる車名を数多く見つけることができる。1976年から今日まで続く、あのフォード「フィエスタ(祭り)」もその名残といえる。
「カオリ」という名のダイハツ車も
そんなことを考えながら、先日近所のショッピングセンターを訪れたときのことだ。少し前から地元自動車ディーラーが、店内の廊下を借りてクルマを展示するようになっていて、その日はマツダ販売店の番であった。
「マツダ2(デミオ)」と「マツダMX-5(ロードスター)」が置いてある。後者のスペック表を見て驚いた。その名も「マツダMX-5 NISEKO(ニセコ)」なのだ。
家に帰ってちょっと調べてみると、「ニセコ」はMX-5の1.8リッターモデルの1バージョンとして、2009年からラインナップに加わっている。隣国フランスやスイスのMX-5には「ニセコ」名はなく、イタリアのみだった。
マツダは昨年、フランスで「6(アテンザ)」に「GINZA」という特別仕様を設定したことを本欄で紹介したが、今回はれっきとしたカタログモデルである。
実はこのイタリアにおける日本語車名ムーブメントには先人がいる。ずばり、ダイハツである。
2005年に「シリオン(ブーン)」のグレード名に「アキ」「ミオ」「カオリ」という名前を付けて売り出したのである。2008年には「マテリア(クー)」にも「ショウ」「タカ」「ヒロ」というグレード名が付いた。現在は、「トレヴィス(ミラジーノ)」と「コペン」を除くすべてのダイハツ車に「ショウ」「ヒロ」「タカ」が用いられている。
ボクとしてはマツダ、ダイハツにとどまらず、この勢いで他ブランドにも日本名が普及し、かつての米国系メーカーのイタリア/スペイン名に匹敵するブームに発展させてほしいと願っている。
「ニセコ」は女の子?
ふと思い出したのは、日本地名をつけたご先祖様的存在だ。
1970年代末から80年代初頭までアメリカで販売された「プリマス・サッポロ」である。当時三菱が「ギャランΛ(ラムダ)」のOEM版としてクライスラーに供給していたモデルである。
サッポロは札幌。いうまでもなく1972年冬季オリンピックで有名になったこの地にかけたものである。だが今回の「ニセコ」はボクが知るかぎり、日本の地名だと知っているイタリア人に会ったことがない。
いっぽう、こちらでも人気の「ルパン3世」の峰不二子の影響か、日本人女子名に「子」がつくのを知っているイタリア人は多い。「ニセコ」もムスメの名前だと思っている勘違いイタリア人のマツダファンもいるのではないか? とちょっと心配になってきた。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写=Ford、大矢アキオ)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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