トヨタ・アルファード350S “G’s”(FF/6AT)/マークX 350S “G’s”(FR/6AT)【試乗記】
G'sならではの気持ち良さ 2012.11.12 試乗記 トヨタ・アルファード350S “G's”(FF/6AT)/マークX 350S “G's”(FR/6AT)……442万円/420万円
富士スピードウェイで開催された報道関係者向けイベント「ワクドキ体験会」で、トヨタのスポーツブランド「G's」のオールラインナップ試乗会が行われた。スポーティーにチューンされた「アルファード」と「マークX」の走りを、サーキットで確かめた。
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「既成概念の打破」がテーマ〜「アルファード G's」
トヨタ「ワクドキ体験会」では、「トヨタ86」のサーキット試乗と同時に、「G's」モデルの試乗会も行われていた。G'sとはトヨタ自動車のスポーツブランドであり、コンプリートカーとして販売されるのがその特徴である。そしてその売れ行きは、下手なスポーツカー顔負けの数字をディーラーで刻んでいるのだという。
今回はそのなかでも、人気ミニバンである「アルファード」と、スポーツセダンである「マークX」のG'sモデルを試した。
まずはトヨタの看板ミニバンである「アルファード」から見ていこう。コンセプトは、「High End of Athlete Minivan」。その狙いは「既成概念の打破」だったという。
そして結果だけ述べれば、このもくろみは達成されていた。
スポーツカーはもちろん、いわゆる乗用車やステーションワゴンに対して、ミニバンというクルマは重心が極端に高い。その理由は言うまでもなく全高が高いからだ。
しかし、だからこそミニバンは、日曜日の慢性渋滞でも、運転手であるお父さん以外は、広々とした空間の中で、テレビやDVDを楽しみながら時間をつぶすことができる。たくさんの荷物と、家族を乗せることができる。
その代償として、いざ乗用車のように走ろうとすれば、当然ながらロールが大きくなる。乱暴な扱いをしたら、ひっくり返るかもしれない。
だからホンダなどは「低床化」を図ったわけだ。
またホイールベースが長くなるため、横滑りなどヨー方向の挙動に対しては安定化が図られるが(そもそもそんな運転をする者はいないだろうが)、回頭性に対しては鈍重なフィーリングをもたらす。つまりスポーティーなハンドリングとは言い難い。
何度も言うが、ミニバンとは“そういう乗り物”なのである。
しかしこの基本特性を、G'sは変えようとした。
そして、それはみごとに変わった。
そのメニューは以下の通りだ。
まず低重心化を図るため、フロント、リアともに車高を30mmダウンする。低められた車高に合わせ、底付き防止とスタビリティーアップのためにスプリングレートを上げる(2.4リッター車はフロント43%、リア25%。3.5リッター車はフロント42%、リア31%)。そして、これを専用のダンパーで制御する。
さらにボディー剛性を引き上げる。メンバーブレースといったお約束のパーツ装着以外に、メーカーにしかできない処置として各部へのスポット溶接を行い、強化ブラケットまであつらえた。
最後は1インチアップの19インチタイヤを装着し、さらにノーマル比で約14mmオフセット装着してワイドトレッド化を図る。
驚くほどきちんと走る
これを、富士スピードウェイのピットレーンで「はいどうぞ」と渡されたときには正直戸惑った。仕事柄サーキット走行の数だけはこなしている筆者だが、ミニバンを走らせるのはこれが初めてだったし、「ミニバンでサーキットを走りたい」と思ったことは一度たりともないからだ。
そして驚いた。これがきちんと走るのだ。
まずその巨体を、ブレーキがしっかりと止める。ペダルをリリースしながらゆっくりとステアリングを切ってゆくと、“グラッ”と傾くこともなく、スムーズにコーナリングへとGが収束してゆく。
高速コーナーで転がりそうな不安はなく、低速コーナーではフロントタイヤが盛大に逃げ出すこともない。セオリー通りの操作を行えば、巨大なクジラは従順に体の向きを変え、アクセルペダルを踏み込むと、迫り来るトヨタ86の追撃から逃げ切ってしまうのである。むしろストレートスピードなどは、こちらの方が速いかもしれない。
ただし不安もある。これだけ胸のすく走りを、ミニバンでして良いものなのか。
また、正しい操作をすれば驚くほどの走りを披露するG'sアルファードだが、そのスタビリティーに任せて無理な走りをすれば、ミニバンとしての弱点は必ず出てくるのではないか。しかもさらに高い速度域で。
アルファードそのものの進化として、今回のG'sは評価できる。しかし自分は古いタイプの人間だからか、どうしてもそのコンセプトにだけは違和感を覚える。
大きく重たいクルマは周囲に優しさを持って接するべきであり、スポーツカーになる必要などない。この速さとスタビリティーは、家族を守るために使ってほしいのである。
「FRスポーツセダン」は復活するか〜「マークX G's」
いわゆる一般的なファミリーカーとしては、ミニバンやSUV、そしてステーションワゴンにその座を奪われてしまったミドル級の4ドアセダン。その風潮を作り上げた張本人こそ、実はトヨタ自動車なのではないか? とも思うのだが、ともかく今一度、彼らは4ドアセダンの復活を望んでいるようだ。
トヨタでその役目を背負っているのは「マークX」。言わずもがな、かつて一世を風靡(ふうび)した「マークII」の後継車である。しかしかつては若者たちの憧れだったこのジャンルも、いまやユーザー層が年々高齢化しているという。その若返りを目指すためにも、G'sマークXは企画されたようである。
「FRスポーツセダンの復活」。このテーマを実現するためにG'sマークXは、走りの基本特性を磨いた。
その一番の特徴となるのは、スタティック時(止まっているとき)の車両姿勢だろう。G'sではまずフロントの車高を20mm下げ、前輪に荷重を乗せやすくすることでステア応答性を高めた。対してリアは5mm少ない15mmダウンとし、安定性を確保する。そしてこの前後のロールセンターを結ぶと「尻上がり」なロール軸ができあがる。
少し詳しい人ならこの車両姿勢に、オーバーステア傾向を予想するかもしれない。だが、リアは重心位置に対してロール軸が近づくため、ロール量が抑えられるという考えである。
ちなみにスプリングレートはベース車比でフロント32%、リア16%アップ。これに合わせショックアブソーバーの減衰力も高めたが、フリクション(摩擦)性能を低減させることで、不快な硬さを排除しているという。
この他にもサスペンションメンバーブレースの追加、既存のフロアパネルやメンバーブレースの剛性アップ、各ブッシュの強化を行った。
また床下の気流を整流するために、大型のアンダーカバーも装着した。見えない部分になるがカバーには数種類のフィンが取り付けられている。
軽さが「マークII味」
実際に走らせた感想は、ひとことでいえば「まさにマークIIの末裔(まつえい)」だった。
ブレーキローターは18インチに拡大され、対向4ピストンのキャリパーは踏力に対し、リニアな制動力を発揮する。サスペンションストロークはしなやかで、19インチタイヤを路面にしっかりと押しつけてくれる。
しかし減速を終え、ステアリングを切り込んで行くと、アシスト過多のパワーステアリング特性が際立った。回頭性やグリップ性能は確かに上がっているのに、それを手のひらから感じ取りにくい。G'sはステアリングシャフトのジョイント特性を変えてまで操舵(そうだ)フィールにこだわったというが、どうにもその操舵が軽すぎて、必要以上に“スパッ”と切ってしまいそうになる。試乗ステージが富士スピードウェイであったことも付け加えれば、無駄なソーイング(小刻みなハンドルさばき)をしないために体をこわばらせなくてはならず、生真面目なドライバーには少々疲れる結果となった。
全体の身のこなしは実に自然。絶対的なグリップで路面にへばりついて走るというタイプではなく、長いホイールベースも相まって、タイヤの限界領域を穏やかに“行き来”することができる。
それだけに、このステアリングの軽さが残念だった。リバースステアの対処は素早く行えるが、適切な操作量を与えられないため、どっしりと腰を落ち着けた運転ができない。
そしてこの軽さこそが、昔ながらの「マークII味」を想起させたのだ。
スポーツセダンの魅力は、味わい深いステアリングフィールにこそある。マークXにいま必要なのは“若さ”より、真の大人になることなのではないだろうか。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。