メルセデス・ベンツEクラス(FR/7AT)【海外試乗記(後編)】
高級セダンのあるべき姿(後編) 2009.04.17 試乗記 メルセデス・ベンツEクラス(FR/7AT)スペイン・マドリッド周辺で行われた新型「Eクラス」の国際試乗会。バラエティに富んだ道でリポーターは、新型の快適性の高さに感銘を受けたという。
Sクラスに近づいた
新型Eクラス国際報道試乗会の舞台は、スペインを代表する大都会マドリッドとその周辺。東京みたいに混んだ市街地をくぐり抜け、高速道路を少し飛ばすと、今度は標高1800mを超えるほどの峠が待っている。セダンの総合的な完成度を試すには、これ以上ないシチュエーションだ。
まず結論から報告すると、これまで「大きいCクラス」だったのが、「小さいSクラス」になった。つまり高級感が格段に増した。先代(W211)はキビキビ感を優先した乗り味だったのに、新型(W212)はどこまでもソフト感覚で、まるで濃い蜜の海を潜航しているような錯覚にとらわれる。まず何より静かで滑らかなのだ。超高速クルージングでも風切り音は非常に低いし、荒れた舗装面で攻めてもタイヤノイズが耳に届きにくい。アクセルを深く踏んだ時のエンジン音も、分厚い壁の向こうから間接的にモモ〜ッと響くだけだ。
乗り心地も快適で、特に普通に走る時の細かい凹凸の吸収が優れている。目の前にコブがあっても、予想するほどユサユサが来ない。コーナリングも同様で、先代のように鋭く突っ込んでスパッと向きを変えるスポーツセダン感覚ではなく、どこまでも「ま〜るい」身のこなしで、やんわりと曲がってしまう。その点ドライバーによっては、先々代(W210)を思い出すかもしれない。少し合理化(コストダウン)しすぎたと、長年のファンからの批判もあった世代のことで、それだけを聞けば落胆するかもしれない。しかし本質はまったく違う。印象としてはソフトでも、実際にはおそろしいペースで確実にコーナーをこなし、まだまだ余裕たっぷりなのだ。ボディ剛性が35%も向上したのも、この走行感覚に役立っているはず。強固なボディであればあるほど、しなやかなサスペンションも活きる。
E250はかなりオススメ
第一印象がソフトだったのは、最初に最高級仕様のE500に乗ってしまったせいかもしれない。やはりエンジンが大きいだけに、コーナーに突っ込む瞬間ノーズの重さを実感することもある。そこで自慢の新開発4気筒ガソリン直噴ターボを搭載するE250ブルーエフィシェンシーに乗り換えてみたら、サクサク軽快なフットワークに驚かされた。今もし自分で買うなら、迷わずこれを選ぶだろう。204psエンジンの性能も抜群で、パワーがE500の半分などとは、とても信じられない。引っ張っても健やかな感じだが、2000rpmからアクセルを軽く踏んだ時の素直な立ち上がり感も魅力で、わざわざ何回も試したくなる。これだけ実用的なトルクバンドが広ければ、ATが7段でなくても問題ない(というか、実質的な違いを感じない)。諸元表に書かれた出力やトランクリッドの数字など、実際に走る楽しみと関係ないことの、絶好の証拠だ。
そんな余裕の走行感覚だけでなく、いやにSクラス的な雰囲気が濃いと思ったら、室内の仕立てがそうだった。豊富な装備をシンプルにまとめたダッシュボードだけでなく、オーディオ、ナビ、エアコンなどを一括操作するダイヤルがコンソールに付いたし、その隣には車載の電話を使うためのテンキーパッドもある。そしてATのシフトレバーも、今度からはコンソールではなく、Sクラスのようにコラムから生えた“スイッチ”になった。
どのシートに座ってもイイ
Sクラスのような感覚は、リアシートにいても感じる。もちろんSクラスのようなロング仕様はないから、スペースが広々しているわけではないが、快適な乗り心地も静かさも、フロントとまったく差がない。ただしシート自体が少し平らすぎて、コーナーでは意識的に体を支える必要はある。特に上級グレードの場合、フロントのバックレストには自動的なランバーサポートが仕込まれ、ちょっとでも横Gを検出すると、すぐさまググ〜ッと狭く締め上げてくれるから、前後の違いを実際以上に大きく感じる。
注目の安全装備で実際に試せたのは、進化したナイトビジョンだけ。画面はモノクロだが非常に明るく鮮明なので、もしヘッドライトを消したとしても、これだけで運転できてしまいそうだ。しかも人間や動物だけ特に強調するので、暗闇で黒っぽい服を着た歩行者でも、くっきりグレーに浮き上がって確認できるスグレモノ。ただし液晶画面をナビと共用するので、ナイトビジョン使用時に地図を見られないのが惜しい。
ほかにも報告したいことが山ほどある新型メルセデスEクラス、日本でも注目度は抜群で、けっこう売れそうな気はする。不景気だから、これほど内容豊富でもあまり高い価格は付けられないだろうし、円高にも助けられそうだ。Sクラスから節約してEクラスに移るのも、ここまでの完成度を誇る新型なら大いにアリかもしれない。とりあえず当面の問題は、先代の方がスマートに感じられることぐらいだろうか。でも、いつもメルセデスは、最初ウエッと思わせておいて、知らないうちに強引に納得させてしまう、とんでもない感化力があるからなあ。
(文=熊倉重春/写真=メルセデス・ベンツ日本)

熊倉 重春
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。