第81回:さらばCDプレイヤー! カーオーディオ取り付け奮闘記
2009.03.07 マッキナ あらモーダ!第81回:さらばCDプレイヤー! カーオーディオ取り付け奮闘記
iPod導入作戦その後
今年1月に「ガキっぽいデザインに喝―ッ!」と題し、iPodを車内で楽しむのに苦労している様子を記した。その後もFMトランスミッターを使い続けたのだが、やはり音質が悪く、使い勝手も我慢の限界に達した。
そこで辿り着いた結論は「デザインに少々目をつぶっても、iPodと直結できるカーオーディオを買う」ということ。
いちばん簡単なのは、前面にAUX端子やUSB対応のものということになる。
だがどうせならiPod対応を謳っていて、専用ケーブルを介してドックコネクタに直結し、カーオーディオだけでほぼ完全にiPodを操れるタイプのほうがいい。なにしろそのほうが運転中に安全だし、ダッシュボードまわりもすっきりする。
ネット検索したところ、アルパインにiPod専用、つまり「CDプレイヤーなし」という機種があることを知った。日本でもデジタルメディアヘッドユニットとして「iDA-X100」「iDA-X200」の名称で売られているモデルである。
考えてみれば、iPodを車内で使うようになってから、CDを持ち込むことがなくなった。もはやCDプレーヤーなしでも人生やってゆけることがわかったボクは、その製品企画の潔さに共鳴した。操作ダイヤルが妙に大きくて使いやすそうなのもいい。
懐が寒いボクにとって嬉しいことに、欧州市場には上記2機種のさらなる廉価版にあたる「iDA-X300」という商品があることも判明した。実勢価格は149.9ユーロ(約1万8000円)である。
カーオーディオ愛好者には驚かれるかもしれないが、ボクの人生で過去最高額のカーラジオだ。だが、演奏会のチケットを何枚か買ったと考えることにして、店を探すことにした。
往復800kmの買い物
ところが、イタリアでもボクが住んでいるような地方都市の家電量販店では、CDプレーヤー付きの従来機種は売られていても、iPod専用オーディオはなかなか店頭に並んでいない。日本じゃこのシリーズは、すでに生産完了品になっているにもかかわらずである。欧州の電気製品事情はこんなモノとはわかっているが、悲しくなった。
そこで考えたのが、近日行く予定のフランスにあるチェーン系カーショップで、購入がてら取り付けてもらうことであった。取り付け料は20数ユーロ。日本におけるオートバックスのようなこうした大規模チェーンは、いまだイタリアにはないのだがフランスにはあるのだ。
しかしよく考えてみると、フランスまでの道のりは片道約600km。今のFMトランスミッターではイライラして、道中耐えられそうにないので、やはりイタリアで探すことした。
そしてようやく発見したのは、仕事で訪れた約400km離れたトリノの家電量販店だった。「iDA-X300」は、iPod接続を謳いながら「iPod用コネクトケーブルは19.9ユーロの別売」というのが少々納得できないが、「USB接続だけで充分」という人もまだまだ多いということだろう。
拡大
|
穴がない!
購入の翌朝、さっそく路上駐車した車内で取り付けに挑戦する。
まずは、従来のグルンディッヒ製CDラジオを盗難防止専用ピンを使って抜き、続いてマウント枠をアルパインのものに交換する。
ところがそこで気がついたのは、アルパイン本体背後から延びるUSBとiPodの両ケーブルをセンターコンソール裏から引き出す隙間がないことだった。これではグローブボックスにiPodを収納できないじゃないか。
以前乗っていたクルマは走行中ダッシュボード裏のさまざまな配線が足元にビヨ〜ンと垂れてくる代物だったから甘くみていたが、今乗っているクルマはセンターコンソール、ダッシュ下部、そしてカーペットに一分の隙もない。「ボクのクルマ、意外に造りがいいじゃん」と感心したものの、やはりケーブルが通らないのは困る。
仕方がないので、以前グルンディッヒ製のCDラジオを取り付けてもらった店に行き、ダッシュボードの穴開けも含め依頼することにした。前述のようにオートバックスなきイタリアで、ラジオの取り付けは「エレットラウト(Elettrauto)」と呼ばれるクルマ電装品一般を扱う工房に行くのだ。
ところがその店の主ときたら、「今日は忙しいからできねえなぁ」と言い「見積もりは?」と聞くと、「そんなの、やってみないとわからねえよぉ」と、まったくもってやる気なし。いくら持ち込み商品だからって、すげない返事である。お客様は神様とばかりに、いつも笑顔を絶やさない日本と違うことは、わかっていつつも腹がたった。
それに考えてみれば高級オーディオならともかく、普及品のためにダッシュボードに穴を開けるというのは、どうも気持ちよくない。娘に「へそピアスをせよ」という父親がいないのと同じことだ。
光が差した!
ボクは、市営体育館裏の駐車場にクルマを停め、もういちど助手席の足元に潜り込んだ。するとプラスチックの管があるのを発見。空調の足元吹き出しの延長ダクトだった。
ツメを動かしてゆらゆらと揺らした瞬間ポコンと外れ、センターコンソールとの間にポカッと穴が空いた!パニック映画で脱出口を見つけた主人公と同じ気持ちだった。
1DINスペースの奥に差し込む光が、何と神々しく映ったことよ。さほど硬質でないダクトをすこし歪めると、先ほどのコード2本を何とかグローブボックスにまで通すことができた。そして延長ダクトを元に戻す。
残る結線は、やはりプロに頼むことにした。先ほどとは別のエレットラウトにクルマを持ち込むことにした。
派手な外観で目をひくイエローハットの類と違い、多くのエレットラウトは修理工場然としていては地味である。向かったのは、実は数年前グルンディッヒ製品を持ち込んだとき、結線がうまくいかずギブアップされてしまった店である。
恐る恐る入口から声をかけると、おじさんが出てきた。そしてテスターを使いながら、今回は1分とかからずに結線してくれた。
イグニッションキーをひねりスイッチを入れると、地元クラシックFM局が放送するワーグナーの「ニーベルンクの指環」が、あたかも成功のファンファーレのごとく流れた。ボクは1DINスペースに本体を納めた。
次いでiPodを繋ぐとあっと言う間にリンクが行われ、面白いくらい快適に操作できた。
「お代は?」とおじさんに聞くと「ニエンテ(要らないよ)」と言う。そのまま帰ってはあまりに無愛想なので、ボクはしばらくおじさんたちの日本に関する「寿司種の種類はナマ魚だけなのか?」といった素朴な質問に対応してあげた。
クルマ買いかえに匹敵する感激と、チョコボール
お礼を告げて、ふたたび新しいiPod対応オーディオをいじってみる。トランスミッターで聴いていたときと同じiPod? と思うくらい、音像定位が違う。日頃聴いていたFMも格段に澄みわたっている。
極言すれば、クルマを買いかえたくらいの感激があった。気にしていた大胆なデザインも、思っていたほどの違和感はない。電源を切って消灯した状態では、まるで純正オーディオのごとくダッシュボードに大人しく収まる。あえて文句をいうなら、太陽の方向によって映り込みが激しいことくらいである。
後日、操作が似ている上位機種の日本語取り扱い説明書をサイトからダウンロードして参考にできたのは、日本ブランドならでは。ありがたいことだ。
家に着いても、駐車場に停めたまま音量を上げてしばらく聴き入ってしまった。
「ああ、カーオーディオのファンて、こういうところからのめり込んでいくんだろうな」と悟った。
そして安物カセットラジオの内部にテープがこんがらがって泣いたこと、振動を吸収するという触れ込みに誘われて買ったカー対応ポータブルCDプレーヤーが、実はまったくダメで、演奏を円滑に聴くべく道の段差を避けながら走ったことなど、イタリアでチープなクルマ生活を始めて以来、今日までの苦労が走馬灯のごとく頭の中を駆け抜けた。
しかしながら今回、車内に潜り込んで作業をしていて気がついたことがある。それは足元にポテトチップや、チョコボール、せんべいの海苔など、走行中につまんでは落としたお菓子が無数に散乱していたということだ。それらの堆積物の中には、車両保有年数と同じ3年が経過したものもあると思われ、もはや地獄図の様相を呈していた。
「iPodとか対応オーディオとかいう前に、クルマの中を清めよ」という天の声が聞こえた。
※文中の内容・写真は欧州仕様をもとにしたものです。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
NEW
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。