第75回:ガキっぽいデザインに「喝―ッ!」
2009.01.25 マッキナ あらモーダ!第75回:ガキっぽいカーオーディオに「喝―ッ!」
便利な電子機器たち
ここ数年東京に行くたび他人が羨ましいのは「おサイフケータイ」である。女性が颯爽と自動改札機に携帯を近づける仕草に、シビれてしまう。
それに対して、ボクのポケットの中はスイカとケータイがバラバラに入っていてガチャガチャしている。その度に「ああ、開発した人はボクと同じことが鬱陶しかったんだろうな」と思う。
「じゃあ、おサイフケータイ買えばいいじゃん」という声もあるだろう。しかし長期契約が原則の日本版携帯を、海外在住者が持つことは至難の業なのである。ついでに泣き言を言えば、大手レンタルビデオ店の会員証さえ持てない。悔しいので、ボクはプリペイド携帯とスイカを輪ゴムで束ね、「なんちゃっておサイフケータイ」を作ろうとまで思ったほどである。
そんな電子グッズ好きの筆者が、昨年末はじめて「iPod」を買ったのは、以前記したとおりだ。
ついでに、クルマで再生するため、日本でトランスミッターを一緒に買うことにした。詳しいかたならご存知のように、それをiPodに接続しFM波をカーアンテナに飛ばすと、カーオーディオで聴けるようになるものだ。
というわけで、事前に調べておいたイタリアのFM周波数帯に対応し、かつ自分の「iPod touch」に似合ったデザインのトランスミッターを家電量販店で選んだ。同時に、電源をカーナビと同時使用できるよう、シガーライターソケットの分岐アダプターも仕入れた。
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車内でiPodを楽しむはずが……
さっそくイタリアに戻り、ワクワクしながら駐車場に停めた自分のクルマの中で試してみる。FMラジオの空いている周波数を.01メガヘルツ単位で探し、トランスミッターもそれに合わせる。最後にiPod touchのスイッチを入れると、いとも簡単にクルマのスピーカーから音楽がクリアに流れてきた。
ところがそれが“ぬか喜び”だとわかったのは、クルマを走らせて隣町のフィレンツェに近づいたころだった。
ラジオ局との混信が次第に激しくなり、やがてiPodの音声が惨敗状態になったのだ。思わず「iPodがんばれ!」と、意味不明な声をかけてしまった。
わが街とフィレンツェとの距離は僅か60kmである。しかし、イタリアでは各地に割り当てられているキー局の中継と中小地方局の周波数をあわせると、日本とは比べ物にならない数のFM局が乱立しているのだ。
そのため都心から八王子より短い距離を移動しても、空き周波数として選んだところに別のラジオ局がどんどん混信してしまうのである。うかつだった。
仕方がないのでサービスエリアに入り一旦駐車。トランスミッターとラジオ双方に新たな空き周波数をインプットする。だがイタリアのアウトストラーダは平均速度が高いから、走り始めるとどんとん別の地域に入ってしまう。つまりまた別の放送局が飛び込んでくる。次の街ボローニャに向かう途中で、またまた別のラジオ局が割り込んできた。
まったくもって煩わしい。といって走行中に、そんな細かいセッティング操作をするのは安全上もってのほかである。
ついでにいえば、買ってきたシガーライター分岐アダプターの動作ランプは、ブルーの怪しい光を発することに気づいた。そのフーゾクっぽい色は夜になるとかなりどぎつい。カラーテープを貼ったくらいではスポイルできない。ようやくマジックテープを接着して光量を落とすことができたが、安物のハードディスクケースのようで、まだまだ気になる。
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欲しいデザインがない!
しばらくのあいだ、助手席のわが女房にトランスミッターとラジオの再チューニングを任せていたのだが、人間オートチェンジャー? だけに本人が好きな曲ばかり選んでしまう。これはいかん、ということで、いよいよiPod対応のカーオーディオを探すことにした。
ところが、店頭で見てもウェブで検索しても、ろくなデザインのものがない。要するにガキっぽいのである。そしてデザイン以上に、運転中の操作が難しいようなものばかりだ。以前から思っていたのだが、なんで市販のカーオーディオというのは、走行中絶対操作できないボタンや、横目でも見られないような細かい表示が多いのだろう。
もっと悔しいのは、意図的に日本ぽい名前をつけた謎のアジア系メーカーだけでなく名の通ったブランドでも、イタリアやフランス市場では落ち着いたデザインのものが手に入らないのだ。多少無理をすれば手に入るのならまだ納得できるが、どんなにお金を出しても手に入らないのである。
日本ブランドの欧州仕様には、なんとディスプレイに「音」といった漢字が表示されるものもある。といっても別に機能とは関係なく、単なる「ムード」。漢字の書かれたタトゥーやTシャツで盛り上がっているこちらの若者にはクールに映るのだろうが、日本人のボクにはどうもいただけない。
結局、iPod対応のカーオーディオは買わず、現在使っているグルンディッヒ製CDラジオに、従来どおりトランスミッターを繋げてしばらく使い続けることにした。
グルンディッヒは2年半前にわざわざドイツから通販で手に入れたものだ。安くてデザインがシンプル、かつ走行中もブラインドタッチしやすい。バカボンのパパではないが「これでいいのだ」なのである。
後付けカーオーディオ、とくにボクが買うような低価格のものは、メーカーにとって近年あまり儲からなくなったようで、日本や欧州ブランドは次第に戦線を縮小しているのは事実。だがそれにめげず、「これぞ」という機能美をともなったデザインのカーオーディオをメーカーの良心として望む。デザイナーの皆さんにもぜひ奮闘してもらいたい。
「綾小路きみまろ」をクリアに聴きたいばかりに、これだけ問題提起するボクもボクであるが。
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あれもこれも、まだ使いたい
しかしながら、今回のiPodとCDラジオでつくづく思ったのは、「デザインと技術的進歩のリンケージは難しい」ということだ。いくら秀逸なデザインでも、いずれ新しいテクノロジーや新時代のコストパフォーマンスに追従できなくなる悲しさがある。
カッコいいけど、どこかに忘れてくるのが怖い値段のブラウン製電卓や、今となってはえらく重たい往年のオリベッティ製計算機、今日のOSをインストールすることなど到底考えられない初期のマッキントッシュパソコンなどなど……、もし中身を最新の技術に入れ換えられたら、まだまだ使いたいデザインって考えてみたら結構あると思いませんか?
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、Mercedes-Benz)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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