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第382回:つくづく残念! 顔の見えない国ニッポン
2009デトロイト、なぜ社長が出てきてしゃべらないんだっ!!

2009.01.16 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第382回:つくづく残念! 顔の見えない国ニッポン2009デトロイト、なぜ社長が出てきてしゃべらないんだっ!!

さながら大統領選のGMブリーフィング

恥ずかしながら不肖小沢、新春のNAIASことデトロイトショーに初めて行ってまいりましたっ! 言い訳するといままでなかなかチャンスがなかったのよね。大抵オートサロン取材で忙しかったし、正直、アメ車にはそれほど興味なかったんで(苦笑)。

でもつくづく行って良かったなぁと思いました。最初は、不況まっしぐらの米国自動車業界、今回を逃したら二度と行かないかも? というヤジ馬根性が大きかったんだけど、それ以上にTVや新聞からじゃ伝わってこないアメリカの熱さ、同時にわが国日本の根本的問題があらためて浮き彫りになったからだ。
それは昔から言われる「顔が見えない国」だということ。まさに日本の政治家、官僚と全く同じ問題だ。

それを解説する前に、まずは気になるビッグスリーの様子をお届けしよう。

デトロイトのプレスディは毎年第二週の日曜日から始まることが決まっている。俺もその1月11日に、メイン会場のコボセンターに向かったのだが、最大の衝撃は朝10時から行われたGMのプレゼンテーションだった。
メインホール右奥で行われたのだが、入った瞬間、異様なムードに圧倒された。そこにはびっしりと世界各国、数百人、いや、それ以上のプレスがいるだけでなく、600人ほどのGM社員が列をなしている。しかも彼らはそれぞれ「CHARGED UP」(いいぞ!)「HERE TO STAY」(ここにいる!)「WE'RE ELECTRIC」(私たちは電気)などと書かれたプラカードを掲げ、ことあるごとにシュプレヒコールを上げている。

一瞬、俺は思った。「もしやコレ、大統領選の続き?」って。実際、オバマが来てないか確かめちゃったほどだ(笑)。

そして会を仕切ったリック・ワゴナー会長は、「本日は新しいGMの始まり」と切り出したわけだが、これが熱く、激しく、ポジティブなこと。そこここに「CHANGE」の6文字が踊ってもおかしくないスピーチ内容で「我々は、ここ数ヶ月の金融ニュースはすべて葬り去り、驚異的な進展で消費者が求めるものを作る」といい、新車や新世代のエコカーコンセプトを17車種も続々と発表。まさに“チェンジ”という感じだった。
2010年発売予定の「キャデラックSRX」や、「シボレー・エキノックス」などの北米向け市販車に混ざり、新型プラグインハイブリッドカーコンセプトの「キャデラック・コンバージ」や、同じく2010年にヨーロッパなどグローバル展開予定の高効率コンパクトカー、「シボレー・スパーク」の市販モデルなどもお披露目され、まさしくGMの未来予想図を見事に描いてみせた。

記者団に取り囲まれるGMのリック・ワゴナー会長
記者団に取り囲まれるGMのリック・ワゴナー会長 拡大
「キャデラック・コンバージ」
「キャデラック・コンバージ」 拡大
「シボレー・スパーク」
「シボレー・スパーク」 拡大

トップの熱さが伝わる

11時半にプレゼンを開始したフォードも、12時に開始したクライスラーも基本的には同じトーン。従業員にプラカードこそ持たせないまでも、トップが直接語ること語ること。原稿を読んでるんだか読んでないんだかわからないけど、TVキャスターよろしく、壇上のコンセプトカーの前に堂々と立ち、オオゲサに身振り手振りを交えながら。

フォードは、エグゼクティブ・チェアマンのビル・フォードが「フォードはアメリカと私たちのお客様が行きたいところに向けて先陣を切る。それはグリーンであり、ハイテックであり、グローバルな未来だ!」と叫び、クライスラーは、これまた社長のジム・プレスが「今年は(去年のように)牛は連れて来ないですが(笑)」とジョークを飛ばした後に、「クルマが売れないのはクルマの問題じゃなく、クレジットが通らないのが最大の問題」とまで言い切り、政治家も真っ青の説得力でプレスに語りかけるのだ。

とはいえ、実際に出ているクルマやコンセプトカーを冷静に分析してしまうと、ほとんどが“絵に描いた餅”だ。現実にハイブリッドカーを出しているフォードを除き、GMもクライスラーも声高に叫んだ新作電気自動車や高効率コンパクトカーは2010年、11年以降の計画。後の経済誌のインタビューでは、ワゴナー会長はさらなる追加融資の可能性を示唆したというし、ツライ状況に変わりはない。

だが、危機に際してのトップの熱さ、先陣の切りぶりったらどうだろう。俺はいまひとつ英語が不自由だけれども、それでも「俺たちがなんとかすべく努力する!」「がんばる!」姿勢はよくわかった。問題が解決するかどうかは別として。

伝説の男、キャロル・シェルビー(左)とフォードのマーク・フィールズ副社長。
伝説の男、キャロル・シェルビー(左)とフォードのマーク・フィールズ副社長。 拡大
2010年発売予定の「シェルビーGT500」。
2010年発売予定の「シェルビーGT500」。 拡大
クライスラーのジム・プレス社長(左)。TVキャスターばりのトーク!
クライスラーのジム・プレス社長(左)。TVキャスターばりのトーク! 拡大

姿を現さない日本人

それに比べてがっかりなのが日本の会社だ。

たしかにトヨタにせよ、ホンダにせよ、今後エコカーでひとり勝ちする可能性はあるし、現実にリードしている。とくにトヨタは今年圧倒的にぶっちぎりの環境性能を誇る新型プリウスを出すだけに、この時期に下手に自慢したらアメリカ人に叩かれること請け合い。そうでなくても新聞記者との囲み取材ではいろいろイヤミな質問をされるという。「ビッグスリーに対する援助は?」とか「ナンバーワンになってどうですか?」とかね。

でもね。いくら叩かれるからって顔も見せない、声も出さないって……いかがなものだろうか。アメリカ人は本当に納得するのだろうか。
今回すでに報道されてるが、不況で日産、三菱が出展を中止。ダイハツはしばらく前から出ていない。出展しているトヨタもホンダも、日本のトップは会場にきてない。日本人は本当に誰一人として……。

たとえばここでトヨタの渡邊社長が出てきて、「同志よ、一緒に乗り切ろう」となぜ言えないのだろうか。今や日本メーカーも北米に工場を数多く所有し、赤字も出している時代だ。「我々はたしかに今は勝っている。それも、従業員、サプライヤーであるアメリカががんばっているおかげ。勝つも負けるもみなさんにかかっています!」ぐらい言って欲しい。
せめてちゃんと主張して欲しい。真摯に気持ちを伝え、真っ当なビジョンを描けば、全員の尊敬は得られなくとも、共感は得られ、熱さは伝わると思う。それが一番大切だと思うのだ。

モノを作って売るというのは単なる経済活動ではなく、ある種の情熱や信念の伝達と同義だ。その点、日本メーカーは昔からせっかくいい商品を作っているのに、自分たちの生の声で夢と熱さが伝えられない。だからエコノミック・アニマルと呼ばれ、今でも「顔が見えない」と言われてしまう。それはまさに経済貢献だけして、クチを出さない日本の政治家や官僚にも似ている。

それに比べてヨーロッパ、とくにドイツブランドの上手いこと上手いこと。BMWを除く、メルセデス・ベンツ、VW、アウディのすべての本国法人トップが訪米し、演説を行ったのだ。なかでもすごかったのは、メルセデスのディーター・ツェッチェ会長の発言。「今回の不況は自動車業界のせいではない(金融の問題だ)」と言い切り、米国への同情と同時にがんばりを促したのだ。もちろん、不況を逆に北米進出へのチャンスと捉えていることもあるが、日本メーカーとは相当なトーンの違いではないか。

新型「トヨタ・プリウス」のプレゼンをしたのも、北米トヨタ販売のボブ・カーター副社長。日本人トップの姿はここにもなし。
新型「トヨタ・プリウス」のプレゼンをしたのも、北米トヨタ販売のボブ・カーター副社長。日本人トップの姿はここにもなし。 拡大
アウディはルパート・シュタットラー会長自らが登壇。
アウディはルパート・シュタットラー会長自らが登壇。 拡大

リーダーになるチャンスを逃がした

スポーツカーに対する見方も全く違う。
VWはクリーンディーゼルを搭載したスタイリッシュなミドシップコンパクト2シーター、「ブルースポーツ」をかなりリアルな姿で出したし、アウディは「R8」、メルセデスは「マクラーレンSLR」の超限定スーパーモデルを登場させた。

なかでも驚いたのは、危機まっただ中にあるフォードが新型「シェルビーGT500」を、2010年に出すと発表したことだ。コイツは言わずと知れたマスタングベースのハイパフォーマンスモデルで、エンジンは540psの5.4リッターV8。燃費は旧型に比べ、高速で1ガロンあたり2マイル向上してるとはいうものの、しょせん5リッター級のV8。良くなったとはいえ、たかがしれてる。

それに比べ、日本はホンダが完成間近の「NSX」の開発を凍結。日産が「フェアレディZ」を出せば、とたんに経済記者が「なんでこの時期に出すんですか?」と質問する。とにかくここまでスポーツカーに愛がなく、理解が得られない国も珍しい。

これは、メーカートップの人間だけじゃなく、日本人全体の問題でもあったりする。
とにかくクルマに対する理解が薄いし、一方的なのだ。それは大マスコミの主張によく表れており、すぐにクルマを「走る凶器」と断定し、ネガティブ面ばかりを強調する。クルマは「外貨を稼ぐ商品」と思っているフシもあり、人間に幸せをもたらすものであるとは認めない。スポーツカー=危険、高級車=贅沢、いまだにそういう図式が脈々と流れており、不況になったら自粛&ガマンせよの一点張り。だからメーカートップが恐れおののき、萎縮してしまうのだ。

でも世界の見方は違う。そこまでクルマにネガティブじゃないし、普通に生活必需品だと思っている。
もちろん今は厳しいが、今後、クルマをもっと新たに別のモノとしてとらえ、定義し直す時がくるだろう。そして日本は今でこそトヨタやホンダがハイブリッド技術で優位性を保っているが、早晩技術だけでなく、新しいビジョンとリーダーシップを求められる時が必ずやってくるはずだ。
しかし、このままではなにもできない気がする。数売って儲けているだけで、肝心な時に主張しないし、押し黙っているだけだから。不況=自粛というネガティブ発想をしてるだけでは、今後、日本メーカーが台数で世界一になっても、精神面で世界一に立つことはできないだろう。

今回のデトロイトは、考えようによっては日本メーカーが業界の真のリーダーとなる千載一遇のチャンスだった。だが、やはりそれはできなかった。
金と技術を動かしているだけではダメ。もっとビジョンと強い意志が欲しい。しかし日本はいつも肝心の時になると引きの一手。俺はつくづく残念に思う。

(文と写真=小沢コージ&Climax)

フォルクスワーゲンのマーティン・ヴィンターコーンCEO。
フォルクスワーゲンのマーティン・ヴィンターコーンCEO。 拡大
「フォルクスワーゲン・コンセプト ブルースポーツ」拡大
「フォルクスワーゲン・コンセプト ブルースポーツ」
小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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