メルセデス・ベンツ ML63AMG(4WD/7AT)【試乗記】
もう、やさしい顔はできないかも 2008.12.22 試乗記 メルセデス・ベンツ ML63AMG(4WD/7AT)……1490.0万円
2008年10月、「メルセデス・ベンツML」にマイナーチェンジが施された。試乗したのは、シリーズきってのコワモテ、「ML63AMG」だ。
威圧感を求められる宿命
メルセデスのSUVレンジを代表する「Mクラス」がビッグ・マイナーチェンジを受けた。いや、マイナーチェンジとはいっても、最近のシュトゥットガルト流に迫力を倍増した顔つきなど、雰囲気としてはフルチェンジに近い。「やっぱベンツって、押し出しでしょ」という感じ満々だ。
エンジンをはじめ主なメカニズムはこれまで通りだが、全車パドルシフト付きの4本スポークステアリングになったり、安全への対策を全方位網羅したプロセーフ機構を採用したりと、さすが高級SUVの王道を行くだけのことはある。
プロセーフ・メニューの中には、ユニークな「プレ・セーフ」も含まれている。あまりにも急激なブレーキングなど、もはや衝突を避けられないかもしれないとなった瞬間、もし助手席パセンジャーが背もたれを寝かせてくつろいでいても、限られた時間でできるだけシートを起こし、ベルトを効果的に働かせたりする。目立ちにくい装置だが、被害を軽減するためには、どんな細かいことも軽視しない決意の表れだろう。
そんな新型Mクラスの旗艦といえば、もちろん自慢のAMGモデル「ML63AMG」だ。標準のV6(3.5リッター)やV8(5.5リッター)の代わりに、もはやスーパーメルセデスの定番となった6.2リッターV8、それも堂々の510psを搭載する。さりげなさそうに外面にちりばめられたクロームのアクセントや21インチの大径ホイールにも、普通ではないオーラが漂う。この威圧感にこそ、大枚1490万円を投じさせる意味があるのだろう。
SUVらしさより、メルセデスらしさ
そんなML63AMG 、乗ってみた結論は「ああ、やっぱりね」という感じだ。全体を貫く堅牢感、しっかり確実で、曖昧でもなく鋭すぎもしない操作感、地面の奥深くまで根を張ったような安定感など、どこまでもメルセデスそのものなのだ。それも当然といえば当然で、セダンだろうとワゴンだろうと、あるいはクーペでもカブリオレでも、そしてSUVでも、それぞれがそれぞれのジャンルのクルマとしての役割をまっとうしているという以前に、まずはメルセデスでなければならないという統一的な価値観がここにも充満している。それをわかりやすく感じさせるところに、メルセデスのメルセデスたる所以もある。
それにしても、いったい何なんだ、この限りないほど余裕のパワーは。やはり「排気量アップに勝るチューニングなし」とは本当で、いつでも軽く踏むだけで思い通りに行けてしまう。その都度ボンネットの奥では軽くフ〜ムという溜め息が聞こえるだけだ。7G-TRONICと称する7段ATは各ギアが非常にクロスしているから、トップギアでわずか1700rpm のところから踏み込んで自動的なシフトダウンを起こさせても、タコメーターの針が少し跳ね上がるだけで、耳でも体感でもそれを感じ取るのは難しい。
これほどトルクに余裕あるなら、以前の5速でも充分以上で、ほとんど宝の持ち腐れと言いたい。これほどのメカニズムと装備のうえに全長4.8m級とくれば軽くはなく、なんと重量2.3トン!を超える。CクラスやEクラスのAMGほどズドッとぶった切るダッシュはないが、ふと気付くと口にできないほどの速度に達していて、あわててアクセルを戻すことになる。
際立つステイタスシンボル
操る感覚は、なかなか正確には表現できない。あえて言うなら「ラフロードでは乗用車のごとく、オンロードではクロカンのごとく」と、少し矛盾した言い回しになる。M“L”として2.9mを超えるホイールベースだけに、荒れた未舗装路でも限りなくフラットに踏破できる一方、普通の舗装路上では、縦方向の轍などに意外に影響され、なんとなく直進を保つことを意識させられる。実際に悪影響があるほどではないにしても、21インチホイールを1インチか2インチ小さくし、そのぶんハイトのあるタイヤを履けば、この神経質さも消えるはず。ほかの超高価格SUVの経験から言えば、ここまで超偏平でなくても、ステアリングの切り始めの反応など、けっこうスパッと決まることが多いのだから。
いや、そうでもないか。そもそも誰も295/35ZR21などというタイヤで舗装のないところを走ろうとするはずもない。そんな荒野を行く記号性を背負ったまま都会を闊歩するのが狙いだろうから、ここを大きくギラッと押し出すのがポイントなのだろう。その奥に鈍く輝くドリル孔付きのブレーキディスクとか、もっと細かいがリムに浮き彫りにされたAMGのオーナメントとかが、超高級スーパーマーケットの駐車場あたりで見せたいところなのに違いない。ベースとなったノーマルのM(ML)クラスでも日本では756.0万円、その2倍もするML63AMGなら、やはりステイタスシンボルとしては有効だろう。
逆の側面から見ると、この種の豪華ビッグSUVの需要は、そろそろ一段落したようでもある。さすがにボリューム感ありすぎなのかもしれず、代わってGLKやフォルクスワーゲン・ティグアンなど、もう少し手頃なサイズのものが脚光を浴びだした。でも、だからこそ、ただのビッグを超えたAMGのバッジが、これまで以上に輝かしく見えたりするのかもしれない。
(文=熊倉重春/写真=高橋信宏)

熊倉 重春
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。