日産キューブ15X Vセレクション(FF/CVT)/15G(FF/CVT)【試乗速報】
ちょっと、やりすぎ 2008.12.18 試乗記 日産キューブ15X Vセレクション(FF/CVT)/15G(FF/CVT)……212万1000円/222万750円
個性的キャラクターが人気の「キューブ」がフルモデルチェンジ。ついに海外進出を果たした3世代目は、どのような印象か? 先代キューブをこよなく愛するリポーターがさっそく試乗した。
日米欧の熱い視線
「ちょっと、やりすぎじゃないかな……」
新型キューブを見て最初に抱いたのは、そんな気持ちである。いや、正直なところ、今もその思いは抜け切れないでいる。
そりゃあ先代だって、初めて見た時には驚いた。キューブという車名のとおり、プロポーションはシカクいけれど、その角という角はすべてやわらかく丸められて、ほんわかとした雰囲気。リビング風あるいはカフェのような仕立てとされたインテリアともども、いかにも速そうに見えないデザインは、クルマの新しい価値観の提案としてヤラレたと思ったし、世間にも大いに受け入れられた。
新型もコンセプトは先代から踏襲。その路線はさらに加速し、先代にはまだ残っていた平らな面もエッジも徹底的に丸められている。
ディテールもそれぞれに蘊蓄が込められているという。たとえばフロントマスクはサングラスをかけたブルドッグがモチーフ。角が丸められたサイドウィンドウは、乗員をフォトフレームのように切り取って見せるのが狙いといった具合だ。36歳独身のオトコとしては、額がついたフォトフレームに収まる自分なんて想像したくはないが、人目をひくのは事実である。
熱い視線を注いでいるのは日本だけではない。そう、新型キューブはいよいよヨーロッパ、アメリカへと輸出される。あるいはそのことも、筆者が感じたtoo muchな印象と無関係ではないかもしれない。
リラックスはできるが……
海外市場にも配慮し、ボディサイズは拡大された。全長は先代から160mm伸ばされ3890mmに。ホイールベースも100mm長くなっており、室内空間の余裕も増している。ちなみに販売の10%強を占めていた3列シートの「キューブ・キュービック」は設定されない。キューブを名乗るには大きくなり過ぎるからだろうか。
思わず撫でたくなるソファのような表皮のシートに身体をあずけると、厚みが増し、今どき珍しくスプリングを内蔵したクッションが深く沈み込む。座面が一段高い位置にある後席は、着座位置の後退で、さらにくつろげるようになった。ただし、シートはサイズ自体は大きくなっているというが、座ったときの包まれ感はもう一歩。リビングのソファならいざ知らず、やはりクルマのシートは沈み込み感より収まりの良さを大事にすべきだろう。また後席は、せっかく中央席分も用意されたヘッドレストの高さ調整がワンノッチしかなく、フィットしないのが惜しい。
この周囲をゆるやかな曲線で囲った室内のモチーフは、ジャグジーだという。しかしジャグジーは、誰も見ていない中で裸になり、思い切り身体を伸ばせるから気持ち良いもの。クルマに求められるリラックスとは、ちょっと質が違うのではないだろうか?
走りは期待以上
そんなわけで、なんとなくむずがゆい気分で走り出したのだが、走りはほぼ文句なしの気持ち良い仕上がりだった。乗り心地は非常にソフト。しかしプリロードバルブ付きの新型ダンパーの効果だろう、ソフトななかにもストロークしはじめたところから減衰力が即座に立ち上がり、揺れ残ったり過剰なピッチングが出たりといった余計な姿勢変化はしっかり抑えられている。
しっとりとした手応えのステアリングの反応も心地いい。思ったとおりにスイスイ曲がるフットワークは期待以上だ。1.5リッターエンジン+CVTのマッチングもバッチリ。ドライバーの意思や走行状況に応じてCVTの制御マッピングを切り換える、アダプティブシフトコントロールの恩恵は大きそうだ。また、停車中のアイドリング回転数の低さと静粛性の高さも感心させられた部分である。
高い人気、そして世界進出を果たすこともあってか、新型キューブは本当に細かいところまでよくつくり込まれている。これまで挙げたほかにも、内外装あらゆる箇所に使われた波紋の模様に、障子風のシェードを備えたガラスルーフなど、どこもかしこも凝りまくりだ。
けれど個人的には、ここまでやられてしまうと「どうどう? オシャレでしょ? センスいいでしょ?」とたたみかけられている気になってしまう。筆者は男だが、おそらくは女性でも、オトナは二の足を踏んでしまうのでは? それこそカフェ感覚の気軽なオシャレ感とくつろぎを得られた先代と比べると、いい意味で適当に、サラッと乗れないなと思うのだ。
アイディアは無数に浮かんだに違いない。けれど、それらを全部足し算するのではなく、そこからいかに引き算するかこそが骨太な本質を浮かび上がらせるポイントだろうし、おそらくはそれをセンスと言うはず。インテリアだってファッションだって話は一緒だ。個人的に大好きだった先代の、特に初期型のことを、久しぶりに懐かしく思い出してしまった。
(文=島下泰久/写真=郡大二郎)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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