日産ノート MEDALIST(FF/CVT)【試乗記】
薄味良品 2012.11.27 試乗記 日産ノート MEDALIST(FF/CVT)……184万2750円
燃費性能と使い勝手のよさをウリとする新型「日産ノート」。実際の燃費は? 走りや乗り心地は? 上級グレード「MEDALIST(メダリスト)」で試した。
作り手の熱意に期待高まる
自動車メディアではあまり触れられていないけれど、「日産ノート」のチーフプロダクトスペシャリストを務めた水口美絵さんは、国内の自動車メーカーでは初めての、女性の商品企画責任者だという。しかも以前はトヨタ自動車のデザイナーだったそうで、一度は専業主婦になったものの、クルマ作りに戻りたくて日産に入ったという、異例の経歴の持ち主でもある。
彼女には先に千葉県で行われた試乗会でお会いし、思ったことをストレートに口にする方とお見受けした。ここでは書けない言葉がポンポン飛び出してきて、今年出会った自動車関係者では5本の指に入る、記憶に残る人だった。でも言葉の端々から、「いいクルマを作りたい」という熱意がジワジワ伝わってきたのも事実である。
それでなくとも、僕は新しいノートに期待していた。2005年に登場した初代は、2600mmのロングホイールベースを生かした快適な乗り心地と落ち着いたハンドリングを併せ持つ、自分好みのコンパクトカーだったし、新型を含めてコンパクトカーの本場、ヨーロッパを主力市場に据えているところにも興味があった。
しかも新型ノート、最近の軽自動車やコンパクトカーで目立つ「価格と燃費」だけのプロダクトではない。別の機会にお話を伺ったプロダクトチーフデザイナーの前田敦さんには、国産コンパクトカーとしては造形に並ならぬこだわりがあることを教えられたし、エンジンは過給機装着によるダウンサイジングを導入している。
デザインやメカニズムからも“ヨーロッパの風”を感じる。だからこそ短時間の試乗ではなく、じっくり付き合ってみたい。そんな気持ちを抱いていたところ、編集部の計らいで、最上級グレードの「メダリスト」を1泊2日のドライブに連れ出すことができた。
にじみ出るこだわり
試乗会以来の対面となるスタイリングは、5ナンバー枠内ではかなり頑張っていると、あらためて思った。特に「スカッシュライン」と呼ばれるキャラクターラインの入ったボディーサイドや、「ジューク」に似たブーメラン型リアコンビランプが目立つ。昔の流行語で言えば“バックシャン”だ。
インテリアはまず、安っぽくないところがいい。一部の軽自動車やコンパクトカーのように、乗り込んだ瞬間にガッカリすることはない。内装色が黒だけなので気が付きにくいけれど、こちらもインパネ上面の砂紋ラインなど、こだわりの造形が見て取れる。
シートにも合格点が付けられる。前席はサイズがたっぷりしていて、座り心地は優しい。2日間の走行を終えて、疲労を覚えることはなかった。後席は身長170cmの僕なら足が楽に組めるほど。前後とも90度近くまで開くドアや、簡単操作で高さを2段階に変えられる荷室のフロアなど、使い勝手の良さも印象に残った。
話題のスーパーチャージャー付き1.2リッター3気筒は、実は「ECOモード」では、アクセルを床まで踏まないと過給が効かない設定。でも実際は、右足をちょっと動かせば、低回転をキープしたままスルスル速度を上げていける。ディーゼルを思わせるトルク感だ。おまけに3気筒っぽい音や振動も、同じく直3のエンジンを積む「マーチ」とは段違いに抑え込まれている。
ではスーパーチャージャーの実力は? と思って右足にグッと力を込めると、カチッとした感触とともにブロワーが作動した。でも1.5リッター級の力を狙ったというだけあって、猪突(ちょとつ)猛進するわけではない。トルクの立ち上がりも滑らか。草食系スーパーチャージャーである。
さらなる“特別感”が欲しい
乗り心地は、素晴らしくしっとりしていた旧型に比べると、ストローク感が減って、荒れた路面では小刻みな上下動を許すようになった。ルノーと共通のBプラットフォームから、軽さとコストパフォーマンスを重視したVプラットフォームに切り替えたためもあるのだろう。
ただし、別の機会に乗った標準の14インチホイール/タイヤ仕様より、オプションの15インチを履いていた今回のクルマのほうが好印象だった。グリップレベルで上回り、ステアリングの切れ味がカチッとするだけでなく、乗り心地も良い。最近の国産コンパクトカーではよく見られるパターンだ。
14インチは転がり抵抗の小さいタイヤなので、低速での乗り心地がコツコツする。とにかく燃費にこだわりたいという人以外は、15インチにすることをお薦めしておく。ちなみに、満タン法による実燃費は15.1km/リッター。総走行距離306kmのうち、高速道路は180kmにとどまり、箱根の山を50kmほど走ったことも考慮すれば、まずまずの数字だろう。
身のこなしはこのクラスとしてはおっとりしているけれど、これは旧型同様、2600mmのロングホイールベースのためによるところが大きい。おかげで高速道路ではリラックスして運転できた。コンパクトカーなのにキビキビ動かないから楽しくないなどという、子供じみた評価が下されぬよう願いたいものだ。
むしろ気になるのは、「メダリスト」としての仕立てである。かつて「ローレル」の上級グレードに与えられたこの名を復活させたのは、新型ノートが「ティーダ」の後継車も兼ねているため、ティーダ・ユーザーの受け皿としたかったからだという。ただそのわりには、差別化が控えめにすぎるのではないかという気がした。
外観の特徴は、試乗車がまとっていた専用色のビートニックゴールドを除けば、ドアハンドルがクロムメッキになるぐらい。内装は本革巻きステアリング、センターパネルのピアノフィニッシャー、ドアアームレストのシルバーフィニッシュでドレスアップされ、フルオートエアコンや前後アームレストを装着するが、レザーとファブリックのコンビかと思ったシートは、実は合皮だった。
アバルトのフェラーリバージョンや、MINIのロールス・ロイス仕様ほどでなくてもいいけれど、シートにも本革をおごるとか、ティーダの代名詞だったベージュのインテリアを設定するとか、もっと特別感を盛り込んでもよいのではないだろうか。メダリストのユーザーは、自分から見ても“人生の先輩”になる方々が多いはず。だからこそ、いいモノを手にしてほしいと思うのだ。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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