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第69回:緊急警告 エビちゃんばかりに頼るな! このままだと日本は「イギリス」になる

2008.11.29 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第69回:緊急警告 エビちゃんばかりに頼るな! このままだと日本は「イギリス」になる

OEM続々発売

イタリアに戻り、1カ月間の東京出張を振り返っている。滞在中、新型車の記者発表会がいくつもあった。傾向としては、小型ビデオカメラを持ったウェブ媒体とおぼしき記者が増えた。同時に、会場入口でお姉さんが胸ポケットに差してくれる赤い造花(プラスチックの茎が、ルーペ付き定規になっていたものだ)は、もはや絶滅したと判定した。

そんなくだらん話はともかく、驚いたのは、OEMの新型が2車種も発表されたことだ。ひとつは「三菱パジェロミニ」のOEM版となる「日産KIX(キックス)」。もう1台はエビちゃんこと人気モデルの蛯原友里嬢がイメージキャラクターを務める「スバルDEX(デックス)」。こちらは「トヨタbB」の兄弟車にあたる「ダイハツ・クー」のOEM版だ。

OEMなりに、限られたコストでのアイデンティティの差別化など、開発・企画双方での苦心は窺える。だが、背後にすでに発表されたクルマがあることは、まぎれもない事実だ。ベースとなったパジェロ・ミニは1998年、bB/クーは2005年のデビューである。

キックスの会場では会見後も、戸井田和彦常務執行役員を囲んでの質疑応答が続けられたが、集まった多くは経済・新聞系メディアの記者だった。質問もクルマ本体に関するものではなく、もっぱら今日の金融危機に関連する国内市場の話題がメインになっていた。
唯一個人的に興味深かったのは、ある記者から飛び出した「OEMによる日産の軽は、これで5車種目。いっそのこと自前で造ってしまえば?」との問いだった。
それに対して戸井田常務は「スズキ、ダイハツといったメーカーには、軽に対する築きあげたパワーがある」とし、
私は開発の担当ではないとの立場をことわったうえで「実際、軽メーカーのようにできるのか、という冷静な判断が(開発部門には)あるのではないか」と慎重な答えを示した。

日産の軽勢ぞろい。KIX(キックス)発表会で。
日産の軽勢ぞろい。KIX(キックス)発表会で。 拡大
エビちゃんと「スバルDEX」。
エビちゃんと「スバルDEX」。 拡大

リベルタビラどころじゃない!

今更といえばそれまでだが、東京の路上を観察すれば、バッジや細部は違っても中身は同じという日本車がずいぶん増えた。商用車も含めるとさらに複雑になる。昆虫や植物の名前にはめっぽう弱いが、日産の「セドリック」と「グロリア」、「オースター」と「スタンザ」と「バイオレット」、「パルサー」と「ラングレー」と「リベルタビラ」などを、一瞬にして見分けられる才能を密かに誇りにしていたボクでさえも、もはや「何がなんだかわからん」状態になってしまっている。

そうした状況をイタリアで連想すると、イギリスの自動車産業が思い浮かぶ。
英国では1952年にナッフィールド・オーガナイゼイショングループとオースティン・モータースが合併し、BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が誕生した。前者はモーリス、MG、ウーズレー、ライレーを、後者はヴァンデン・プラといった名門ブランドを擁していた。しかしその後、外資系であるGMヴォクスホールやフォード、のちにクライスラー傘下となったルーツ・グループの猛攻に遭い、さらに日本やフランスの自動車メーカーにも押されて凋落の一途をたどった。

BMCは1968年にレイランドも取り込んでBLMC(ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション)となり、さまざまな経緯を辿ったが、結果は今日のとおりだ。主要メーカーにイギリスの民族系メーカーはひとつも残っていない。1960年にアメリカ、ドイツに次ぐ世界第3位の自動車生産国であった面影は、今はもうない。

そうした衰退の原因のひとつとなったのは、BMCが進めた「外見は少々違っても中身は同じ」という、いわゆるバッジ・エンジニアリングであろう。

当初こそ各ブランドにおける往年のキャラクターを継承させたが、やがてコスト削減に過度の気合が入ってしまったことで、ユーザーたちは安易な開発姿勢を敏感に感じとって離れていった。
もちろん英国自動車産業の衰退の背景には、労働組合をはじめとする日本とは違う複雑な問題も入り組んでいた。だが今日の日本の自動車産業は、まさにイギリスと同じ轍を踏み始めている気がしてならない。

お互い島国で、自国民が思っているほど隣国では重要視されていないこと――実際、ヨーロッパ大陸側に住んでいると、日常生活でイギリスの存在を意識することはまずない――そしてモノづくりよりもマネーゲームに走りがちなところなど、妙に似通った部分が多いのも気になる。

最後の“純粋ローバー”1976年「SD1」。以後は提携先であるホンダと共通化が進められた。
最後の“純粋ローバー”1976年「SD1」。以後は提携先であるホンダと共通化が進められた。 拡大
「フォード・エスコート」(写真左)と「プジョー405」。今や英国の郊外で何気なくシャッターを切って写っているのはこうした風景だ。
「フォード・エスコート」(写真左)と「プジョー405」。今や英国の郊外で何気なくシャッターを切って写っているのはこうした風景だ。 拡大

出るか、日本のブランソン

1980年代にジャガーを救ったジョン・イーガンや、航空業界に風雲児として乗り込んだヴァージン・グループのリチャード・ブランソンのような人物が、いつか日本にも現れるのか、興味あるところだ。

同時に、幸い日本の自動車メーカーは、当時の英国メーカーと比べものにならないくらい強みがある。海外生産車の評判が、すこぶるいいことだ。たとえば「トヨタ・ヤリス(日本名ヴィッツ)」や「日産キャッシュカイ(日本名デュアリス)」はヨーロッパ各国で絶大な人気を獲得し、好調なセールスを続けている。
ボクがイタリアで、それらが本当はフランス製や英国製であることを告げると、大抵オーナーは嫌な顔をする。日本ブランドであることが、それほど自慢なのだ。

そうした「宝」を大切に、日本の自動車メーカーはこれからも無闇にOEMに頼らない努力を続けてほしいものである。エビちゃんの笑顔と美脚ばかりに頼っていてはいけない……とか偉そうなことを言いながら、デックスの発表会のフォトギャラリーをつい何度もクリックしてしまうボクなのだ。

「スバル・デックス」発表会にエビちゃんが登場!
http://www.webcg.net/WEBCG/carscope/2008/c0000020164.html

(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、webCG)

「ホンダ・バラード」の兄弟車として1984年に発表された「ローバー213」。
「ホンダ・バラード」の兄弟車として1984年に発表された「ローバー213」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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