メルセデス・ベンツ GLK350 4マチック(4WD/7AT)【海外試乗記】
“G”の現代的解釈 2008.10.28 試乗記 メルセデス・ベンツ GLK350 4マチック(4WD/7AT)日本導入を果たしたメルセデス・ベンツの新型SUV「GLKクラス」。ライバルとは一線を画し、スクエアなフォルムを持つGLKの、海外試乗会での第一印象をお届けする。
『CG』2008年10月号から転載。
まさにコンパクトな“G”
初夏のドイツで対面したGLKクラスは、陽光の下にその精悍なスタイルを惜しげもなく晒していた。GLKが初めて一般に公開されたのは2008年1月に行なわれたデトロイト・ショーでのこと。当時はまだ“GLKフリーサイドコンセプト”というショーカーだったが、実際のスタイリングはこの時点でほぼ完成の域に達していたといえる。というのも今回対面した生産型とショーカーとの相違点はほとんど見当たらなかったからである。
正直に言うと、写真で目にしていたGLKコンセプトは、ボディの縦横比とでも言おうか、見る角度によってはかなりアンバランスな印象を受け(グリーンハウスがやけに大きく、2頭身のようで鈍重に見えた)、個人的にはあまり格好よく見えなかったが、実車を目の当たりにすると、そんな思いは見事に払拭された。
兄貴分の「MLクラス」は曲線を用いた、SUVながら優雅さを漂わせたスタイルだが、GLKは本格派クロスカントリーヴィークルの「Gクラス」を髣髴とさせる、ボクシーなフォルムを纏っている。そしてボディサイドには「Cクラス」ばりのエッジの効いた個性的なキャラクターラインが与えられていることもあって、さらにアグレッシブな印象も湛えている。これだからデザインというのは本当に不思議で、改めてクルマは実車を見るまで分からないものだと実感した。
それはともかく、昨今のコンパクトSUVがスタイリッシュさをアピールするために流線型のスタイリングを好む傾向にあるのに対して、直線基調で仕立てられたGLKにはSUVらしい無骨さや力強さが溢れていた。
そんなライバルとは一線を画すエクステリアに対して、インテリアはメルセデスの文法どおりの整然とした仕立てである。ステアリングホイールやセンターコンソールの形状、スイッチ類の配置などは基本的にCクラスのそれと共通の部分が多く、メルセデス製のサルーンから乗り換えたとしても違和感を覚えることはない。
普段の目線で
Cクラスとの共通性という点で言えば、このGLKクラスの基本骨格は「Cクラス・ステーションワゴン」のそれをベースに仕立てられ、“アジリティ”思想もしっかりと受け継がれている。
実際に走り出してみると、GLKが採用するフロント:マクファーソン・ストラット、リア:マルチリンクの足回りは、しっかりとしたコシを確保しつつもダンパーがしなやかに動いてくれるのが印象的。かといって柔らかすぎるわけではなく、街中でも高速巡航でも余計なピッチングやバウンシングなどを露呈することはない。試乗車は19インチ・タイア(前235/50R19、後255/45R19)を履いていたが、ロープロファイルタイアで看取されがちな角の尖った突き上げはしっかりと抑えられていた。
意外に思ったのはアイポイントがそれほど高くないところ。SUVだからと言って周囲を見下ろすような位置で運転するのではなく、身長178cmの筆者が採ったドライビングポジションでのアイポイントは、歩行者の視線よりやや低めのレベルだった。これがまたちょうどいい塩梅で、切り立ったピラーや眼前の視界が開けていることもあって、周囲に気を配りやすく、扱いやすい。そんなキャラクターは、現段階で販売されている他のコンパクトSUVよりもGLKが一歩リードしているように思うし、メーカーがこのサイズのSUV開発に力を注いでいる理由が肌で感じとれる。
洗練された振る舞い
今回のパートナーには、日本導入の候補にも挙げられる3.5リッターV6を積むGLK350を指名した。ガソリンエンジンではこのほかに3リッターV6(GLK280)が用意され、ディーゼルでは2.2リッター4気筒ターボ(GLK220CDI)と3リッターV6ターボ(GLK320CDI)という計4種がラインナップされる。試乗車の3.5リッターV6は、最高出力272ps/6000rpm、最大トルク35.7mkg/2400〜5000rpmを発揮する。ドライブトレーンには7段ATと電子制御多板クラッチを用いた4WDシステムが組み合わされる。このコンビはMLにも用意されているものだから、これを考慮に入れるとGLKの日本導入モデルはひとつ下の3リッターV6ガソリン搭載車が選ばれる可能性もある。
サイズ的な扱いやすさが光るのとともに、このパワープラントがGLKにさらなる余裕をもたらしてくれるところは非常にありがたい。GLK350の1830kgという車重はこのクラスの平均的なものだから、その車重に対して272psと35.7mkgのパワーとトルクは充分以上で、7Gトロニックとの相性も抜群である。シームレスな変速や、望むパワーが瞬時に得られるギアボックスの俊敏さに万能選手の一端が窺えた。反面、3.5リッターV6はノーズヘビーな印象が否めず、コンパクトSUVという言葉から想像されるような、軽快さはさほど感じられなかった。
![]() |
![]() |
Lhdのみがネックとなるか?!
今回は特設のオフロードコースでGLKを試す機会に恵まれたが、ここではGLKのもうひとつの顔をかいま見ることができた。このステージではオプションの“オフロードエンジニアリングパッケージ”(降坂路でのブレーキ制御を行なうDSRやオフロードABSなどで構成される)を備えたモデルで挑んだ。GLKの4WDシステムは遊星ギア式センターデフを用いたもので、これに“4ETS”(4 Wheel Electronic Traction System)と呼ばれるシステムが組み合わされる。これはホイールが空転した場合に個別にブレーキをかけて、グリップしているホイールにトルクを振り分けるLSDのような効果を持つ。
実際オフロードコースにはオールテレーンタイアのままで足を踏み入れたのだが、急勾配やモーグルコース、泥濘路など、路面状況を問わず終始安定したトラクションを確保してくれていた。45:55というオンロードでの日常的な扱いやすさを狙った前後トルク配分ゆえに、時おりわずかに姿勢を乱すこともあったことも付け加えてはおくが、デイリーユースを主眼としたGLKにしてみればそれは取るに足らない問題だろう。
オンロード主体のSUVながらオフロードでも高いトラクション性能を発揮する一方で、その源となるトランスミッションケースと付随するトランスファーやプロペラシャフトのレイアウトがLhd専用設計となっているところが玉に瑕である。つまり、日本導入モデルもLhdしか用意されないということだ。
絶対的な運動性能や全体の仕立てについては他のライバルにひけをとらないどころか、一頭地抜きん出ている印象を受けたGLKではあったが、果たしてこのLhdのみというところが吉と出るか凶と出るかはまだ闇の中。同じ土俵でQ5やX3といったライバルたちとの直接対決が今から楽しみである。
(文=『CG』桐畑恒治/写真=メルセデス・ベンツ日本)

桐畑 恒治
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。