メルセデス・ベンツ 4MATIC試乗会【海外試乗記】
メルセデス・ベンツ 4MATIC試乗会 2012.12.22 試乗記 メルセデス・ベンツCLA/GL550/GLK350/CLS550 シューティングブレークメルセデスの4MATICを集めた試乗会が、オーストリアの古都・インスブルックおよびスキーリゾートのホッホグルグルで開かれた。意外なモデルも含め、日本に導入済みのモデルと来年日本に導入されるモデルに試乗した。
4MATIC試乗会なのにサーキット!?
オーストリア・インスブルックを拠点に開かれたメルセデスの4MATIC(4WDモデル)試乗会。事前に寒い寒いと聞かされていたのに、街中に雪はなく、寒さだって東京と変わらず、拍子抜け。
初日、日本のメディアはまず「GL550 4MATIC」をあてがわれた。30〜40分間、カーナビの指示通り走って到着したのは、なんと山あいの小さなサーキット。高台からコースを一望すると、富士スピードウェイのショートサーキットに2つか3つコーナーを付け足したぐらいの規模で、多少高低差のあるテクニカルなレイアウトだ。4MATICを集めた試乗会のはずなのに、サーキットとはこれいかに? と思っていると、2種類のエキゾーストノートが聞こえてきた。
カムフラージュとしてよく用いられるゼブラ柄の小型4ドアクーペが2台、コースを周回している。2013年早々に開かれるデトロイトモーターショーで全容が明らかになる「CLA」の、最終段階のコンセプトカーだ。音がおとなしいほうがノーマルのCLAで、勇ましいほうがAMGだというが、詳細は教えてくれない。
今回、メルセデスは「CLSシューティングブレーク」「GL」「GLK」のいずれも4MATICモデルに乗せてくれた。コースもハイライトは雪上だ。そのプレスツアーの行程に、どうしてCLAのチラ見せ&チラ乗せ(同乗走行のみ)が含まれてたかというと、CLAにも4MATICがあるからだ。CLAは、すでに日本で発売された「Bクラス」や、2013年に日本に投入される「Aクラス」と同じ、エンジン横置きのプラットフォームを用いる4ドアクーペ。従って、ベーシックなグレードではFWD。けれど、パワーの大きい上級グレードには4MATICが採用される。
これまで、メルセデスはエンジン横置きプラットフォームのクルマには4WDを持っていなかった。4WD追加は、メルセデスがこのクラスも本気で取りにいくという意思表示にほかならない。なにしろ、ライバルのBMWやフォルクスワーゲングループの各モデルはどんどん魅力を増してきている。それに彼らはこのクラスにもFRか4WDがあり、遠慮なくパワーを増強してくる。これらに対抗すべく、メルセデスは小さいクラスにもAMGモデル投入を決めた。用いられるエンジンのスペックは2リッター直4ターボで400Nm(40.8kgm)程度と言われている。そのパワーの受け皿として、横置き用4WDを開発したというわけ。AMGはAクラスとこのCLAに設定される。
運転させてほしかった
それにしても、CLAはシルエットから想像するに、伸びやかというわけではないが、低く、「CLS」の弟のようだ。丁寧に室内もカバーがかけられていて、インパネデザインを拝むことはできなかった。降り際にさらっと盲牌(モウパイ)気味に触ったけれど、お伝えすべき情報は得られず。ただ、メルセデスはモデルが違ってもインパネデザインや運転環境を統一させるほうなので、おなじみの世界なんだろうなと予想する。
それにしても、クーペが出ちゃったら、オープンも予想してしまうというもの。さらにさらに、このプラットフォームを使ったSUVのスパイフォトもすでにweb上に散見される。メルセデスのFWDシリーズは、要するにミニバン以外はなんでも用意するBMW MINIがターゲットなのだ。もうすぐメルセデスのディーラーマンは、ウォルフスブルグやミュンヘンを向きかけた客に、ようやく「うちにだって小さいの、いろいろありますよ」と言える。
エンジン横置き用4WDは、通常はほぼFWDで走行するオンデマンドタイプ。7段デュアルクラッチトランスミッションと一体のPTU(パワー・テイクオフ・ユニット)から伸びたプロペラシャフトが、多板クラッチを備えたリアアクスルに通じる。前後輪に回転差が生じるなど必要に迫られると、ミリセカンドの単位で多板クラッチがつながって、リアも駆動するという。4WD化によって75kgしか重量が増加していないのが彼らの自慢だ。また、プロペラシャフトは途中で太さが変化し、クラッシュした際、細いほうが太いほうにめり込んで被害を軽減する。メルセデスらしいじゃないか。
あくまで同乗走行での印象だが、少なくともテストドライバーが運転するCLAは、ノーマルモデルもAMGモデルもトルキーで、途中散水したゾーンも含め、トラクションが不足するような場面はなかった。AMGモデルのエキゾーストサウンドはAMGの名に恥じない迫力だったとお伝えしておく。うーん、ちょっとだけでも運転させてほしかった。
巨体に似合わぬ身のこなし
サーキットまでの往復に使ったGL550は、「ML」をストレッチした7人乗りのフルサイズSUVだ。日本では現在先代が販売されているが、2013年にこのモデルに切り替わる。欧州では「ランドローバー・レンジローバー」あたりが最大のライバルで、主戦場のアメリカではビッグ3のフルサイズSUVとも覇を争う。
4.7リッターV8ツインターボエンジンは、最高出力430ps/5250rpm、最大トルク71.4kgm/1800-3500rpmと、豊かなスペックを誇るので、2.5トンある車重もなんのその、踏めば踏んだだけ前へ進む。安楽であることが快適であるならば、GLでの高速道路巡航ほど快適な移動はない。とはいえ、単に快適なクルーザーというわけではない。ホッホグルグルという標高2000m前後のスキーリゾートにあるホテルまでの一般道は狭く、曲がりくねっており、ところどころ雪解け水でぬれていたが、GLはそこで巨体に似合わぬ身のこなしを見せた。ステアリング操作に対する反応の遅れがなく、もっとずっと小さなGLKあたりを運転しているのと同じ感覚。大きいのに立合いの変化も上手な相撲取りみたいで、運転していて面白い。
GLの4MATICのシステムは伝統的なフルタイム4WDで、トルク配分は前後50:50で固定。急な下り坂でスピードコントロールをクルマ任せにできるダウンヒル・スピード・レギュレーションが備わるほか、車内に悪路走行に適応するオフロードスイッチがあって、押すと、30km/h以下でABSの作動を一瞬遅らせ、わざとタイヤをロックさせ、その抵抗力で制動距離を短縮したり、アクセルレスポンスを鈍くしてコントローラブルにしたりと、電子制御を駆使して悪路走破に適した状態になる。
これで雪道、未舗装路、ぬかるみ路、それに結構な斜面など、通常の生活で出くわす可能性のある路面ならどこでも走破するが、モーグル状態の路面にあえて突入する本気の人向けに、ローレンジモードセレクターが備わり、電子制御によるセンターおよびリアデフロックが可能になるオフロードパッケージも用意される。現行モデルの日本仕様には最初から全部ついちゃってるから、新型でもそうなるのだろう。
新世代GLはエンジンが最新世代の高効率なターボエンジンに載せ替えられているが、その他は既に新世代が日本に導入されているML同様、どこかを劇的に変化させたわけではなく、スタイリングも含めて熟成を重ねたモデルチェンジと言える。言えるのは、米・アラバマ生産の7人乗りオフロードSUVという、長いメルセデスの歴史を考えると昨日かおととい生まれたようなモデルでも、きちんとメルセデスだということ。ステアリングホイールを回した時の感覚、ペダルを踏んだ時の感触、硬すぎず柔らかすぎないシートなど、数々のお約束を守っている。大きな車庫を用意できるなら、貨客両用、悪路も強い万能メルセデスだと思う。
「CLSクラス」唯一の4WDモデル
今年10月に日本でもデビューしたCLSシューティングブレークにも4MATICが用意される。日本仕様はV6エンジンを積む「CLS350」と「CLS63 AMG」がRWDで、GL550と同じV8ツインターボエンジンを積む「CLS550」が4MATICだ。
試乗2日目にCLS550 4MATICシューティングブレークに試乗した。標高約2000mを発着点に、雪上ワインディングロードをくねくね進み、同2500mにある折り返し地点にタッチしてすぐ戻るコースが用意されていた。初日に「寒さも雪も足りない」などとナメた口を利いたからか、この標高で(だからか)視界50〜100mの吹雪。シートヒーターマックスで走り始める。
走行前に「雪じゃなく氷っぽいコーナーがあるから注意しろ」と言われていたまさにそのコーナーの真ん中あたりで4輪ともに外へ滑った。もう車内は十分暖かいのにヒヤリ! ここで過去の大したことない雪道経験から思い切ってアクセルを踏み増す。550は横移動から縦移動へ。やがてグリップを回復し、ことなきを得る。
本来は駆動方式がどうであれ、滑らない範囲で走るべきなのは当然のこと。4WDはアクセルを踏んでいる限り、グリップの限界はFWDやRWDより高いが、保険と考えるべきだ。でも2WD車より少しだけ高い速度で走るのは、楽しい。
CLSの4MATICシステムはGLのそれよりも簡素で、センターデフによって前45:後55にトルク配分が固定されている。トルク配分がリアにちょっと多めというのは、エンジン縦置きのオンロード系プレミアム4WDのトレンドというか常識。これによってRWDに近い挙動が味わえるから。
その後、どんどん山道を駆け上がり、気付けば視界がせいぜい20〜30mの地点まで登ってきたが、4輪が接地している限りはトラクションが不足することはなかった。その気になればエアサスの車高をアップして走ることもできる。
雪で視界が悪いなか、前方に時折はっきり見えたシューティングブレークのセクシーな後ろ姿は、なかなか忘れられない。
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雪道でも扱いやすいSUV
最後は「GLK350 4MATIC」。CLSシューティングブレークと同じコースを走ったのだが、前日のGLとCLSシューティングブレークが濃いキャラクターと有り余るパワーをもつクルマだったので、感覚がまひしていたのだろう、試乗前には“単なる”3.5リッターV6エンジンを積むSUVと考えてしまった。だが、乗ってみると、これが一番扱いやすいのだ。
最大の理由はサイズ。全長4536mm、全幅1840mmという常識的なサイズには、日本のみならず、オーストリアの山中でも取り回しやすい。最も運転しやすい乗用車のひとつである「Cクラス」と同じ感覚で運転することができる。運転感覚としてはもうひとつのCクラスステーションワゴンと呼んでも差し支えないはずだ。
GLKの4MATICシステムは、CLSシューティングブレーク同様、センターデフによって前45:後55にトルク配分が固定されている。GLのページで紹介したダウンヒル・スピード・レギュレーションと30km/h以下でABSの作動を一瞬遅らせるオフロードABSをオプションで装備することができる。
マイナーチェンジ前の個性的(←「表現に困ったときに使う言葉だろ」という指摘は否定しない)なデザインが好きだったので、新型でいくぶんマイルドに改められたのはちょっと残念だが、万人受けするのはこっちだろう。現時点で、日本仕様も左ハンドルしか選べないのは、やっぱり残念だが、ETCの時代、困るシーンも昔ほどはないのかもしれない。
メルセデスが四輪駆動車を単に「4WD」と呼ばず、「4MATIC」というサブネームを与え、少し古風にさえ聞こえるその名を今も使い続けるのは、1980年代に自分たちが実用化した4WDシステムが、ただ4輪を機械的に回すのではなく、電子制御オートマチックトランスミッションとの統合制御システムで、のちに広く普及し、電子制御がより進化した現代でも基本的なコンセプトが変わっていないことへの自信のあらわれだろう。僕がメルセデスを買うなら、多少エンジンや仕様を妥協してでも、4MATICモデルから選びたいと思う。ただ、予定はまったくない。
(文=塩見智/写真=メルセデス・ベンツ日本)
