「ATの多段化は何のため?」
2008.10.25 クルマ生活Q&A トランスミッション「ATの多段化は何のため?」
日産では今も5段のATを使っていますが、最近では7段、8段なんていうATを見かけます。むやみに多段化する意味はあるのでしょうか?
お答えします。ATは徐々に多段化が進んできました。もちろん、メリットがあるからです。
多段化すれば、必然的にクロスレシオになり、それぞれのギアが受け持つ領域が小さくなります。エンジン回転が激しく上下することがなくなり、滑らかな走行と静粛性が得られます。スムーズで高級感のある走りをもたらす効果があるわけです。
もっと大事なのが、燃費向上の効果です。エンジンは、常に同じ回転数を保っているほうが燃焼状態が安定します。多段化でエンジン回転の変化を抑えれば、それだけ効率のいい燃焼を得られ、燃費も向上するのです。
そして、高速域で高いギアを使うことによって回転数を抑えるのも、燃費にいい結果をもたらします。
1960年代には、ATは2段が普通でした。ATが使われるのは大排気量の高級車に限られていて、大トルクを活かして十分に走ることができたのです。もちろん燃費は悪かったはずですが、当時はあまり問題にならなかったのでしょう。
ATの多段化は、小排気量エンジン車こそメリットがありそうですが、コストがかかることもあって使われていません。代わりに、無段変速機、つまりCVTを組み合わせることが多くなっています。
現在はメルセデス・ベンツが7段、レクサスが8段のATを装備しています。日産は高級車のフーガでも5段のATです。スペックとしては見劣りしてしまう感じもしますが、これは「エンジンで勝負!」ということなのでしょうね。

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。