シトロエンC5 ツアラー 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)【試乗記】
快適な時間と空間を紡ぎ出すクルマ 2008.10.14 試乗記 シトロエンC5 ツアラー 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)……499.0万円
初のフルモデルチェンジでエクステリアが大きく変更されたシトロエンの中核モデル「C5」。シトロエンらしさを失うことなく2世代目へと進化した新型をワゴンモデルで試す。
やわらかな機械
久しぶりにシトロエンと一日を過ごして、気持ちいい移動感覚だけが身体に残った。とはいえ、長い時間乗っていたわけでも、飛ばしたわけでも、遠くまで走ったわけでもない。だが、後味が気持ちいいクルマには、時間も速度も距離も関係ない。乗った瞬間から心身ともにリラックスでき、それがいつまでも残るものである。
シトロエンの魅力はこの気持ちいい移動感覚にある。それを分析して言うと、フラットな乗り心地、優れたシート、静粛というよりは気に障らない機械騒音、慣れると自然に感じる各コントロール類などがあげられる。そういう要素を含めて、機械と人間との接点のあり方がいいというか、機械感覚や移動情報の、人に対する伝達回路の設計が良く考えられていることに価値がある。
メカニカル・ストレスを感じさせない「やわらかな機械」、それが歴代のシトロエンの魅力であり、その観点から見ても、新しい「C5」は紛うことなきシトロエンだった。特にツアラーと英国風に命名されたワゴン版は、さらにその個性が明瞭に発揮されていた。
神は細部に
2000年に登場したC5は、見た目は何とも魅力や個性に欠ける中型車だった。2004年のフェイスリフトで少しは化粧直しを受けたし、シトロエン独創の油圧サスペンション「ハイドラクティブIII」は大きな武器だったが、心に直接訴えてくるような商品力は弱かった。
今回フルモデルチェンジした新型は、はるかに存在感が強い。全体の面や線には最新のトレンドが組み込まれ、高いベルトラインや後ろ上がりの鋭いキャラクターライン、ホイールフレア周囲のネガティブ曲面などゲルマン的な表現も感じられる。
だが全長に対してホイールベースがたっぷりとられ、フロントオーバーハングが長いのはシトロエン伝統のプロフィールであるのに加え、若いデザイナーを信頼して仕事を任せたような新鮮さや挑戦的な姿勢は好ましい。
室内もまた、新しいモダニズムに挑んだようなシトロエン流世界が広がる。C5と同様にフロントシートは比較的室内の内側に配され、結果としてドアとの間にかなりの空間が生まれることで、実際的にも感覚的にも広さが強調される。
曲線が駆使されたドア内張も、これに呼応したシート造形も好ましいし、座り心地も最良で、特にバックレスト上部の傾斜を変えられるのがいい。長いホイールベースのおかげでリアのレッグルームは十分にとられているだけでなく、後輪が後方に位置するために幅も広い。またシート全体の作りも上質で、折り畳みができる構造にしてはとても快適だ。
インテリア全体はサイドシル上のプレートに至るまで入念に造形され、まさに「神は細部に宿っている」と言えるが、細かい文字や数字を多用したメーターや、「on/off」ですむ情報を「activate/disactivate」と表現しているところは、ちょっとやりすぎのかんもある。
シトロエンの世界
新しいC5は、快適な時間と空間を終始与え続けてくれた。今回全モデルに採用されたハイドラクティブIIIプラスによる乗り心地は、実は高速にならないと発揮されず、中低速主体では、かえって目地段差などでの鋭い反応の方が気になるものだ。それでも一貫してフラットな姿勢、何となく有機物と接しているような感覚は、やはり他のクルマでは求められない文字通りシトロエンの世界だった。
3リッターのV6でも絶対的に静かなクルマではない。エンジンの鼓動も伝えるし、ワゴンボディのためもあって、特にリアに座っていると路面からのノイズも感じるが、だからといってそれが不快ではない。室内で観察すると、外から見たときとは違って各ピラーがかなり太いのが分かるが、これらは少なくとも剛性感の向上にはかなり貢献している。
それでもシトロエンの機械反応は独特なものがある。たとえば人によっては、最初はステアリングの応答が過敏に思えるかも知れない。これは切った瞬間、手応えが出る前に、鋭くノーズが切れるような感覚だが、これにはすぐに慣れるし、ロールを極力抑えたような挙動には、そのうち大きな安心感を覚えるはずである。
C5なら、デザインも使い勝手の上からもこのツアラーの方がセダンより好ましいと僕は思った。ハイドラクティブ・サスペンションの利点をより活かせるのはリアの過重変動が激しいワゴンのほうだし、実際に重い荷物の積み卸しに際してはリアを120mm下げることも可能である。さらに個人としては、物理的にも感覚的にもより軽快なはずの2リッターの4気筒版の方を選ぶと思う。
昔のシトロエン的な感覚を、現代の機械の洗練性とともに再現したようなC5は今、もっとも気になるヨーロッパ車の一つなのだが、願うことならもう一回り小さく作って欲しかったというのが本音である。
(文=大川悠/写真=荒川正幸)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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