フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントR36(4WD/6AT)【試乗記】
鶏口 or 牛後 2008.09.29 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントR36(4WD/6AT)……590.0万円
この秋から「パサート」のラインナップに加わった「R36」は、まさに万能車。これ1台で運転もスキーもキャンプも楽しめるうえ、きっと仕事もうまくいく!?
590万円出せば、アレも買えるコレも買える
2008年9月から「フォルクスワーゲン・パサート」のラインナップに加わったR36を試乗するにあたって、資料を眺めた。もろもろの解説を読みながら頭に浮かんだのは「鶏口となるも牛後となるなかれ」というフレーズだ。中国では鶏と牛だけど、英語圏では「ライオンの尻尾になるより犬の頭になるほうがいい」なんて言うらしい。
この「パサート・ヴァリアントR36」、エンジンは3.6リッターに拡大されたV型6気筒のFSIユニット、トランスミッションは6段DSG、駆動方式は4MOTIONと、フォルクスワーゲンにおける満貫というかトリプル・クラウンを達成したモデル。
いやいや、それだけじゃない。このクルマには『R』の称号も付いている。カタログによれば、「『R』。それはレーシングを意味し、フォルクスワーゲンがプレミアムスポーツだけに与える誇り高き称号。」とある。「R」の称号を含めれば、R36は満貫じゃなくてハネ満、トリプル・クラウンじゃなくてグランドスラムだ。
で、なぜに「鶏口牛後」が浮かんだのかといえば、590万円という価格を見たから。597万円の「A6アバント2.4(FF)」はもちろん、もしかすると668万円の「BMW525iツーリング(FR)」も視野に入るかも知れない。
グランドスラム達成のR36か、それともひとクラス上の廉価版を狙うのか−−。その辺をしっかり見極めてやろうじゃないかという熱いキモチで平べったい直方体のキーをダッシュボードの凹みに挿入、グイと押し込んでエンジンを始動する。
木管楽器のような音を奏でるエンジン
残暑も峠を越えた涼しい晩、エアコンをオフにして窓を開ける。すると、「ボボボボボ」というヤンキー入った排気音が侵入してくる。試しに窓を閉めるとしんと静まりかえり、ヤンキーはいなくなる。もう一度窓を開けると、ヤンキーが賑やかに戻ってくる。
いつまでもアイドリング時のノイズをチェックしているわけにもいかないので、スイッチで操作するパーキングブレーキを解除、DSGをDレンジに入れて走り出す。
トランスミッションとエンジンの連携プレーが上達しているようで、以前に乗った3.2リッターV6+DSGの仕様で感じた低速域でのギクシャク感がなくなっている。回転計と速度計の盤面で美しく輝くブルーの針が、スムーズに上下する。
ちなみに回転計は6800からがレッドゾーンで、そこまできっちり回ることを確認。速度計は300km/hまで刻まれているけれど、そこまできっちり到達するかは未確認。
3.6リッターのV6は、素晴らしいと思った。低回転域から豊かなトルクを生みす実用車としての性格だけでなく、アクセルペダルをほんの数mm踏み込むようなデリケートな操作にも反応する。なんでもかんでも「プレミアム」と形容する風潮はいかがなものかと思うけれど、このフィーリングは「プレミアム」と呼んで差し支えないでしょう。
そして高回転まで回すと! 「ウ」に半濁音を付けたような朗らかな音とともに、エンジンはシャープに回転をあげる。BMWの直列6気筒のフィーリングが金管楽器だとすれば、こっちは木管楽器。昔はこんな日が来るとは想像できなかったけれど、最近のフォルクスワーゲンのエンジンのいくつかは、「官能的」と形容したい。
と、ドライブトレーンは全般に好印象だったけれど、ちょっと路面からの突き上げがきついような気がして、車内を見まわしてみる。
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乗り心地は繊細、使い勝手は無骨
すると、あったあった、ありました。シフトセレクターの横に、「COMFORT」「SPORT」と記されたスイッチが。これはアダプティブシャシーコントロール“DCC”のスイッチ。
磁性体を含んだ液体をダンパーに封入して、磁力を加減することで減衰力を連続可変させる、というメカニズムはわかりにくいけれど、その効果はわかりやすい。
「COMFORT」を選ぶと、はっきりと乗り心地が温和になる。ハイスピードでは「SPORT」がいいかというとそうでもなく、少なくとも日本の高速道路の追い越し車線ぐらいのレベルであれば「COMFORT」がフワンフワンするわけでもなく、快適だ。
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むしろ、「NORMAL」の出番がない。山道で張り切る時には「SPORT」、それ以外は「COMFORT」と、2つのモードしか使わなかった。ちなみにタイヤサイズは235/40ZR18で、銘柄はコンチネンタルの「スポーツコンタクト2」。ウェットグリップとしなやかな乗り心地には、タイヤも寄与しているようだ。
昔から、パサートのワゴンといえば枕詞のように「広大な荷室」という表現がついてまわった。はたして、現行型にあってもその伝統芸は継承されている。
ただし、使い勝手のいい国産ワゴンやミニバンと較べると、後席を倒したりトノカバーを外したりする際にストレスを感じることが多いように思える。指先に痛みを感じながらヘッドレストを外さないといけなかったり、シートアレンジの撮影中に『webCG』編集部のワタナベ嬢が「ツメが割れる〜(>_<)」と悲鳴をあげたり。あるいは、ドイツのみなさんは強靱な指先を持っているのか。
控え目に楽しむクルマ
とまあ、細かい使い勝手には不満もあるものの、「走る」という部分については文句なし。実用性はもとより、繊細な乗り心地だったり官能的なエンジンの感触だったり、エモーショナルな魅力も備えている。
個人的に、ステーションワゴンは豪雨や大雪といった悪条件のなかでも地の果てまで走り続ける乗り物であってほしいと思っている。だから、FFやFRではなく、タイヤさえスタッドレスに換えればどこまでも行けそうなパサートのR36に一票。
あともうひとつ、世の中には「儲かってまっせ〜!」と派手にアピールしたい人がいるいっぽうで、「いえいえ、ジミにやってます」と控え目を装いたい人もいる。
友人のご主人で製造業を営むKさんはまさに後者で、クルマは三度のメシよりも好きだけれど、社員や取引先の手前、ベンツやビーエムはまずいのだという。だったら、こんなクルマを選ぶといいのではないでしょうか。
取引先には「いえいえ、ワーゲンですから」なんて言いつつ、クルマ好きの心も満たすことができる。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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