フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント2.0TSI Rライン(FF/6AT)
アウトバーンの国の実用車 2016.10.22 試乗記 「フォルクスワーゲン・パサート」に、2リッターターボエンジンを搭載した「2.0TSI Rライン」が登場。「ゴルフGTI」ゆずりのエンジンとパワートレイン、そしてRラインならではのシャシー制御システムが織り成す走りを試す。ドイツの人はクロームがお好き
とても乗り心地の硬いパサートである。というのが第一印象であった。ボディーの内外は燦然(さんぜん)と輝くクロームが多くて、戦前の“グロッサー・メルセデス”を思わせる。というのは大げさにしても、ドイツ人はクローム好きだった、ということをあらためて教えてくれる。
クロームの塊のような足元、巨大な19インチのアルミホイールを見てください。ピカピカである。カリフォルニアのある種のホットロッド趣味のようだ。ルーフレールの光り具合もイイ。ボディーのサイドの下の方にもクロームのパーツが貼ってあって、これらが伸びやかなステーションワゴン・ボディーを強調している。
ブラインドテストであれば、筆者はアウディであると信じただろう。ボンネットの面の張り具合や、ボディーの真横を走るリップ付きのラインが利いている。とりわけ段付きのラインは影がラインの下にできて全体をシャープに見せる。陰影礼賛である。
2016年9月6日に追加発売となったパサート2.0TSI Rラインは、これまでほかのグレードと同じ1.4ターボであるにすぎなかった、その意味ではカッコだけスポーティー派だったRラインに、ゴルフGTIのホットな心臓を移植したリアル・スポーティネス充実パサートである。排気量2リッターにターボチャージャーを備えて、最高出力220ps/4500-6200rpm、最大トルク35.7kgm/1500-4400rpmを発生する高性能ユニットを得たのである。
車重1390kgのゴルフGTIに比べて、Rラインのヴァリアントはカタログ値で幕内力士ひとり分の170kg重い。ちょっと大きなボディーのゴルフGTIである。といってよいのかどうか、そのステーションワゴン版であるヴァリアントに乗ってみた。
まずもって外観は、すでに「1.4TSI」で登場しているスポーティーなRラインをベースにしている。この手の文法通りに専用の前後のバンパー、リアのスポイラー、サイドスカートを装着するわけである。けれど、その文法が正しいかどうかは問題ではなくて、問題はカッコイイかどうかである。
高速道路で豹変する
そのカッコイイかどうかは審美眼によって異なるから厄介なのである。という問題はさておき、パサートのスポーティー仕様たるRラインの場合、造形の新しさではなくて、クロームの量、ドイツ車伝統の温故知新の素材でもって差異を打ち出してきた。そこが新しい。全高はフツウのパサートヴァリアント(Discover Proパッケージ装着車)が1510mmであるのに対して、1500mmと10mmだけ低い。たぶん単なる誤差ではない。タイヤサイズは235/40と超偏平だ。さすが19インチである。
Rラインの文字が入ったセミバケット風のシートはブラック&グレーのツートンのナパレザーで、これまたスポーティー&ラグジュアリーである。テスト車のメーターは液晶になっていて、21世紀のモダンさを訴える。筆者のような偏見と独断に満ちた、変わろうとするものに対して常に否定的な態度をとりがちな、そうして時代に取り残されつつあるおっさん(涙)でさえ、パサート=ファミリーカーというイメージは拭い去らねばならん。フォルクスワーゲンはもはや昔の国民車にあらず。EUの一等国であるドイツ共和国のピープルズカーなのである。
室内は広い。アッと驚くぐらいに。試乗車は電動パノラマスライディングルーフが付いていて、これがまた秋の晴れた日には爽快である。爽快な気分で走り始めたわけだけれど、街中をウロウロしている間は、ちょっと硬いなと思った程度で、特に感慨はなかった。「DCC」という名のアダプティブ・シャシー・コントロールを装備しているのだから、もうちょっとソフト方向に振ってもいいのに……。
けれど、50km/h以上、さらに高速道路に上がってみると、その別世界ぶり、世界の豹変(ひょうへん)ぶりに、これが世界に冠たるドイッチェランドのアウトバーンクルーザーであったことをしみじみと知り、心底ほれぼれしたのだった。
アウトバーンに住むものはアウトバーンが一番いいのである。
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クルマ好きにも、そうでない人にも
それにしても、GTIエンジンの大トルクぶりときたら! 料金所を出てフル加速を試みると、ドライ路面なのにトラクションコントロールが作動する。これ4WDがあってもいいと思います。もっとも、その高速スタビリティーたるや、さすがゴルフGTIの兄である。空間を日本刀でスパッと切り取るように直進する。
ただし、GTIユニットはとりわけ感興を起こさせない。ビジネスライクにトルクを供給する。その淡々とした仕事ぶりがいい。そこにほれちゃうタイプなのである。低速から高速まで、欲しいパワーとトルクが右足の踏み加減ひとつで湧き出てくる。
DSGと呼ばれるデュアルクラッチ式ギアボックス、この場合は6段だけれど、これまたその陰の仕事人ぶりを称賛せずにはいられない。ブレーキも強力で、信頼できる。ややサーボが強めの設定で、軽く踏んだだけで路面に吸い付くように減速する。
唯一、時代についていけないおっさん(涙)として申し上げたいのは、ステアリングのヘンテコさだ。これは「オールイン・セーフティ」と呼ばれる電子制御のドライブアシストの数々、いわくドライビングステアリングリコメンデーション、レーンキープアシスト、レーンチェンジアシストなどのなせるものと思われる。ウインカーを出さずに白線を越えたりすると、ステアリングにクルマが介入してくる。あれがどうにも……。
とはいえ、「オールイン・セーフティ」のなせるワザである。ま、いっか。私はいまもフォルクスワーゲンを信じる者の一人である。
価格は519万9000円。1.4搭載の一番高いパサートより86万円高くて、399万9000円のゴルフGTI比120万円高い。悩ましいことに1.4のパサートヴァリアントでもほとんど同じ能力は持っている。ではあるけれど、自動車好きにもススメられるし、そうでない人にもススメられる。さすがピープルズカーである。つまるところ、やっぱり実用車だからなのである。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートヴァリアント2.0TSI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1830×1500mm
ホイールベース:2790mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:220ps(162kW)/4500-6200rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4400rpm
タイヤ:(前)235/40R19 96W/(後)235/40R19 96W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:15.0km/リッター(JC08モード)
価格:519万9000円/テスト車=547万9800円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<ダイナミックライトアシスト+デジタルメータークラスター“Active Info Display”+駐車支援システム“Park Assist”>(12万9600円)/電動パノラマスライディングルーフ(15万1200円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1892km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:248.0km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。