第60回:これが噂の「ポストブス」だ!
2008.09.27 マッキナ あらモーダ!第60回:これが噂の「ポストブス」だ!
郵便配達はヒトも運ぶ
日本では郵政民営化1周年を迎える。
いまだ評価は分かれているが、欧州に住む身からすると日本の郵便はよく機能している。たった1個の小包でも夜遅くの指定時間に取りに来てくれ、国内なら翌日配達が可能だ。イタリアではそうはいかない。なにしろボクの街の郵便局のひとつは利用者が少ない夏の時期に休みがあって、期間中は「市内の他局に行ってください」という始末だ。
イタリア郵便もすでに株式会社化されているが、大株主は依然国である。そんなわけで親方日の丸(親方トリコローレ?)体質はなかなか変わらない。
ところで郵便といえば、イタリアの隣国スイスやオーストリアには、「郵便バス」というものがある。
スイスでは、言語地域によって「ポストアウト(Postauto/独語)」「カー・ポスタール(Car postal/仏語)」「アウトポスターレ(Autopostale/伊語)」と呼び分けされ、オーストリアでは「ポストブス(Postbus)」と言われている。
車両自体は普通のバスなのだが、長年にわたり欧州で「郵便」を示す角笛マークが書いてある。理由は歴史を遡るとわかる。
もともと郵便事業体が郵便輸送と旅客輸送を兼務していたのだ。要するにバスに手紙も人ものせていたのである。
スイスでの始まりは1906年、ベルン−デトリンゲン間に走らせたものだ。オーストリアでもほぼ同時期に郵便バスサービスが開始されている。
背景にあるのは山が多い両国の地形である。自動車が少ない時代、点在する村を結ぶのに、郵便と旅客輸送という公共サービスを一緒にこなすアイディアは早くから発生したのだろう。
かのメルセデス・ベンツ・ミュージアムにも、オーストリアの元郵便バスが1台展示されている。1938年製のそれは、ちょっと数奇な運命を辿った車両だ。
まず郵便バスとして納車されたのち、戦後になるとザルツブルク−ウィーン間の郵便貨物専用トラックにモディファイされる。さらに後年、移動郵便局&電報電話局に改造され、ザルツブルク音楽祭をはじめとするイベント会場で1970年代末まで働き続けたのだ。
山で待て
なお今日の郵便バスは、人と一緒に郵便物を運ぶものはほとんど見られない。そしてスイスのポストアウトは郵政公社の子会社(株式会社)が運営している。オーストリアのポストブスも数年前、鉄道会社の傘下に編入されて現在に至っている。
スイスの郵便バスの営業距離は9827kmで、保有台数は1909両を数える。ちなみに東京の京王バスはグループ全体を合わせても1160両、小田急バスは477両だ(データは各社のホームページより)。郵便バス事業の規模を察することができるだろう。
車両はダイムラー系の「セトラ」、フォルクスワーゲン系の「M.A.N.」とその傘下にある「ネオプラン」が多い。また、より狭い山間部を走るためのミニバスも導入されている。
郵便バスをウォッチングするには、都市で待っていてはなかなか来ない。自前の交通営団がバスを運行しているからである。したがって、ジュネーブなどで郵便バスを見かけることは難しい。オーストリアも同じで、写真の赤いバスも、実はインスブルックから数十キロ離れた村で1時間以上弁当を食べながら張り込みの末、撮影できたものである。
「ほんとにバスが来んのかヨ」と思うような片田舎で、山の彼方から黄や赤のバスが現れ、それもほぼ定刻にバス停に着くのには感動を禁じ得ない。
「幸せの黄色いバス」といった感である。
さらに驚くのは、スイスの郵便局やお土産屋さんでは、郵便バスの公式歴代ミニカーが各種売られていることだ。ちなみに、2年前の2006年には、郵便バス100年を祝う記念切手まで造られた。オーストリアのポストブスも歴代ミニカーが自社のホームページを通じて売られている。
稚拙な商業主義といえばそれまでだが、ミニカーを企画する背景には郵便バス会社の、車両ロゴやカラーリングに対する自信が窺えることもたしかだ。
そこで大提案!
日本郵便も、たとえトラックやバンでも郵便車両のミニカーシリーズを作って売れるくらい、いつかカッコいいカラーリングを施してほしいものである。
いや、諸般の事情を顧みず勝手な提案をさせてもらえば、いっそ日本でも郵便バスを始めるといいかもしれない。民間のバス会社が不採算路線として撤退するようなルートに郵便バスを導入するのである。
手紙や小包と一緒にヒトも運ぶ。2台が1台になるから、CO2削減にも貢献できる。郵便配達の回数も増える。
ここまでくると、次は「あれ」も思い浮かぶ。
日本が誇る宅配便のバンである。あれと乗り合いタクシーを兼ねるというのはどうだろう。トヨタ・クイックデリバリーは、宅配便のためにこの世に生まれ出たクルマであるが、天井が高いので客席を付けても居住性はそこそこ良かろう。
お中元の国分フルーツ缶やお歳暮の新巻鮭と車内で揺られることになるが、それも季節の情緒として楽しめばいい。
ついでに、「台車押しを手伝えば運賃割引有」なんていうのも導入してほしいものである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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