ランチア・デルタ(FF/6MT)【海外試乗記】
インテグラーレを忘れて 2008.08.19 試乗記 ランチア・デルタ(FF/6MT)現代ランチアのアイデンティティに則り、エレガントなデザインに生まれ変わった「デルタ」。コンパクトカーというよりワゴンともいえるたたずまいの新型に、イタリアで試乗した。
鮮烈なスタイリング
新しい「ランチア・デルタ」について考える際には、WRCで大活躍した、あの「デルタ・インテグラーレ」の話は忘れた方がいい。敢えてそんなことを言わなくとも、この姿を見れば、誰もそこを強引に結びつけようとはしないとは思うが、特にここ日本では、デルタと言えばイコール、インテグラーレなのは事実である。
しかし本来デルタは、ランチアらしい上質な仕立てのコンパクトな5ドアサルーンであったはず。新型ランチア・デルタは、精神的にはその後継車と言うべきだ。
それにしても鮮烈なのは、そのスタイリングである。フロントマスクはイプシロンなどにも通じる現代のランチアそのもの。しかしサイドビューは、ハッチバックというよりワゴンと呼びたくなる雰囲気だ。サイドウィンドウとリアゲート、Cピラー、そしてテールランプあたりの処理も、とても個性的。最初の印象はちょっと、いやかなりヘンと感じる。しかし、見慣れてくるとエレガントとすら思えてくる不思議な魅力が、そこには備わっている。
セグメントを超えた快適性
ボディサイズは全長4520mm×全幅1797mm×全高1499mmと、ハッチバックとしては前後に長く、ほぼBMW3シリーズ並みの大きさである。実はこのC/Dセグメントの狭間に位置する絶妙なサイズこそ、新型デルタの狙いが端的に表れているところで、要するにCセグメントからの上級移行を狙うユーザーも、あるいはD以上のセグメント、あるいはミニバンやワゴンからのダウンサイジング派までも取り込んでしまおうというのが、そのコンセプトなのである。
実際、室内はCセグメントのライバルを寄せ付けない広さを誇る。前席シートはたっぷりとしたサイズを誇り、また後席も、2700mmのロングホイールベースを活かして、座面の前後長も足元スペースも驚くほどの余裕を堪能させてくれる。当然、ランチアらしく仕立ても豪華。オプションのポルトローナフラウ社製レザーシートはもちろん、標準のシート地も、あるいはインストルメンツパネルやトリムの素材も、よく吟味されている。ただし個人的には、ダッシュボード周辺のデザインは、悪くはないものの類型的と思え、たとえばイプシロンのような感動は覚えなかった。
しかし、そのステアリングホイールを握って走り出すと、やはりさすがだなと唸らされる。もっとも印象的なのは快適性。具体的に言えば、速度を上げるにつれて際立つフラットでしなやかな乗り心地と、圧倒的な静粛性である。前者については電子制御式減衰力可変ダンパーの威力が大きいに違いなく、また後者についてはルーフなどに配されたという特殊な吸音素材が効果を発揮しているのだろう。いずれにしても、一般的なCセグメントカーの水準をはるかに凌駕する快適性が実現されているの間違いない。
垂涎の足さばき
フットワークも、まさに絶品だ。電動パワーステアリングは中立位置でほんのわずかに不自然な感覚を残すものの、その先は至極滑らかな手応えで、心地良く切り込んでいける。その後のロールは特に小さくはないのだが、その進行がきわめてリニアなため不安感は皆無で、本当に気持ち良くコーナーワークをこなすことができるのだ。上質な走りとはこういうことを言うんだと、誰をも納得させるに違いない垂涎の足さばきである。
エンジンは、試乗車は最高出力150psの1.4リッター直列4気筒DOHCターボに6段MTの組み合わせだった。これでも1.3トン超と軽量な車重には十分ではあったが、日本向けは最高出力200psを発生する1.8リッター直噴ターボの6段AT仕様となるという。パフォーマンスには期待できるはずだ。
日本向けは……とアッサリ書いたが、その通り、実はこのデルタ、日本にも久々に正規輸入される予定となっている。しかも右ハンドルでの投入となるというから意気込みは十分。価格は、上記の仕様でざっとゴルフとアウディA3の中間くらいになるだろうという。
課題は周辺環境だ。それこそインテグラーレのイメージしかないランチアというブランドを、プレミアムな存在として日本市場にどう認知させていくか。いくらニッチ狙いだろうと、それができない限りは成功は難しい。クルマの出来映えは上々なだけに、前向きに期待したいところ。今のところの予定としては、2009年後半にもデルタを導入し、続いてはイプシロンなどもラインナップに加えていくつもりだということだ。
(文=島下泰久/写真=フィアット・オート・ジャパン)
