ランチア・デルタ 1.4ターボ16V(FF/6MT)【試乗記】
密かな愉しみ 2009.03.12 試乗記 ランチア・デルタ 1.4ターボ16V(FF/6MT)……426万3500円
スクエアなボディから、エレガントなスタイルにイメチェンを果たした「ランチア・デルタ」。1.4リッターターボを6段MTで操り、その走りを試す。
デザインに惚れた
「これがあのデルタの後継車?」と戸惑うほど、3代目「ランチア・デルタ」のスタイリングはすっかり様変わりしている。全長4520mmの2ボックスボディは、一見はやりのクロスオーバー風だが、実際は全高1499mmの5ドアハッチバック。ここに歴代デルタの共通性を見いだすことができるとはいえ、それ以外はまるで違う。そういえば、数学でよく目にする「Δ」(デルタ)は変化を意味する記号であった。
そんなフル“イメージ”チェンジのデルタは、2008年3月のジュネーブショーでデビュー。そして、同じ年の秋には、ガレージ伊太利屋の手により日本での販売がスタートしている。ラインナップは、1.4リッターガソリンエンジンを積む「1.4ターボ16V」(398万円)とディーゼル仕様の「1.6ターボディーゼル16V」(428万円)のふたつで、前者には6段マニュアルが、後者には「DFN」と呼ばれる、2ペダルタイプの6段ギアボックスが組み合わされる。いずれもハンドルの位置は左である。
このうち、今回試乗できたのはガソリン仕様のモデル。目の当たりにしたデルタは、5ドアハッチバックの常識を打ち破るほど優雅なラインで構成されるボディに、淡いゴールドとブラックのツートーンカラー(“Bカラー”と呼ばれるオプション)が施されているせいか、えもいわれぬ雰囲気を漂わせていた。私は、その個性溢れるエクステリアに抵抗感を抱くどころか、すぐに好きになってしまった。
上質な室内に目を見張る
エクステリアと同じくらい好感を持ったのが、デルタのインテリアだ。最近のランチアは、クラスを越えた上質なインテリアづくりを得意としているが、このデルタも例外ではない。ドアを開けた瞬間、まず目に入るシートはレザーとアルカンターラが組み合わされ、レザー張りのドアトリムとともに、ラウンジのような心地よさを演出している。運転席に陣取ると、高い質感のダッシュボードや上品な輝きを放つシルバーのパネル、さりげなくデザインされたメーターなど、ドライバーの気持ちを豊かにさせるデザインがそこかしこに散りばめられている。
もちろん、デルタの良さはデザインだけではない。そのパッケージングにも注目だ。後席は、FFのレイアウトと2700mmというロングホイールベースを有効に活かして、余裕あるレッグスペースを稼ぎ出している。スライド可能なシートは、一番前のポジションでもこぶしふたつ分ほどのスペースが膝の前に確保され、すこし後ろのポジションを選べば足が組めるほどの広さだ。後席はリクライニングも可能で、自然な姿勢で着座できるのがうれしい。
荷室についても、全長相応の広いスペースが確保されている。もちろん、後席を倒してスペースを拡大することも可能で、その際、フロアに段差が残るとはいえ、ハッチバックならではの機能性は十分発揮できるはずだ。
期待を裏切らない走り
そして肝心の走りはといえば、こちらも期待に違わぬ上質なものだった。エンジンは1.4リッターと、ボディサイズや1440kgの重量からすれば心細く思える。が、実際に運転してみると、アイドリング付近の回転数こそトルクの細さを感じるものの、ターボのおかげもあって、1500rpmも回せば十分実用的な性能を発揮。6速/1500rpmは60km/hほどだが、街中をスルスルと走るほど粘りがある。これ幸いと早めのシフトアップを心がけると、都内の渋滞路でも10km/リッター台(オンボードコンピューターによるデータ)の好燃費をマークした。一方回転を上げれば、感覚的には2リッター以上の力強さを示し、しかも高回転まで良く伸びるから、高速の合流や追い越しで躊躇することはない。ちなみに、100km/h巡航時の燃費は14km/リッターほどで、6速/2500rpmというギア比がもう少し高ければ、さらに燃費は改善するだろうに。
もっと感心したのは、その走りっぷり。デルタにはオプションで電子制御の可変減衰力リアダンパーも用意されるが、ガレージ伊太利屋が輸入するのは通常のタイプだ。しかし、ノーマルのサスペンションでも、低い速度域から高速までフラットで快適な乗り心地を確保するとともに、コーナーではしなやかなストローク感と自然なロールによって確実に路面を捉えてくれる。その印象はまさに“猫足”! これで運転が退屈なわけはない。
つまりデルタは、私のような運転好きのお父さんには見逃すことのできない、良くできたファミリーカーなのだ。左ハンドルにマニュアルトランスミッションという仕様と、販売店が限定されることから、誰にでも勧められるわけではないが、クルマ好きを自負するなら試してみる価値は十分あると思う。ちなみに、フィアット グループ オートモービルズ ジャパンが右ハンドル仕様を投入するという噂もあったが、いまのところ進展はないとのこと。密かな愉しみとしてたしなむには、そのほうが好都合かもしれないなぁ。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。