ランチア・デルタ 1.8ターボ16V(FF/6AT)【試乗記】
ダンナさんにも、スポーツマンにも 2011.06.28 試乗記 ランチア・デルタ 1.8ターボ16V(FF/6AT)……486万3500円
1750ターボエンジンを搭載した「ランチア・デルタ」が上陸。日本導入モデルでは初となる、フィアットの最新エンジンの走りを試した。
“1750ユニット”を搭載
新生「デルタ」の最近一番のニュースといえば、あの“イチナナゴーマル”エンジンが搭載されて、アルファ・ロメオより先に日本に上陸したということだろう。“イチナナゴーマル(1750)”などと言っても、かなりのマニアでないとピンとこないと思う。なので、今回はそのへんから話を始めたいと思う。
1750とは排気量のことである。フィアットグループの同胞、アルファ・ロメオにとっては特にこだわりのある排気量で、かつてこの数字を冠したモデルが1930年代と60年代に登場し、いずれもマニアには名車の誉れが高い(レースでの活躍が背後にある)。その“栄光のネーム”がヨーロッパのダウンサイジングの波に乗り、2009年の春によみがえった。アルファ・ロメオの「159」「ブレラ」「スパイダー」、そして新型「ジュリエッタ」にも搭載されて、あちらではガソリンエンジンのラインナップの主役を演じている。しかしどうしたことか、日本には未導入のままだ。
そのエンジンが同じフィアットグループの「ランチア・デルタ」にも載り、まずはそっちの販売がガレーヂ伊太利屋によって始まった。今回試乗したのは、まさにその仕様である(車名は「1.8」だが、排気量は正確には1742ccだ)。200psと32.6kgmというピーク値は、あちらの「アルファ・ロメオ159 1750TBi」なんかと同じ。だからデルタに乗れば、まだ見ぬ1750アルファの感触ぐらいは同時に味わえるはずである。
いざ、運転席に着く。エンジンをスタートさせると、軽やかさが気持ちよかった1.4ターボとはまたひと味違った骨太な脈動が伝わってきた。
速くて“太い”1.8ターボ
かつて試した1.4ターボは、なんとも飄々(ひょうひょう)とした不思議な速さを持つクルマだった。同じエンジンを積む「アルファ・ミト」と比べると、回転の高まり方がいかにも上級車らしく澄んでいて、振動やノイズを意識させぬままリミットの6500rpmまでするするっと回ってしまう。空力の良さ(CD値は0.29)も効いているのだろうが、高速道路ではあれよあれよという間にスピードが伸びていった……そんなふうに覚えている。
それが1750ユニットだと、だいぶ風情が変わる。1.4ターボ仕様に比べると、“クルマの線”が圧倒的に太くなった感触があるのだ。ガツンとパンチが利いており、強力なエンジンでボディをぐいぐい引っ張っていく感じだ。
レッドゾーンは6000rpmからとそれほど回るエンジンではないが(実際に乗るとスポルトロニック6段ATは5750rpmあたりで自動でシフトアップしてしまう)、トップエンド付近でもまったく勢いが衰えることなく、1.4ターボとは別モノの速さを見せつける。
ちなみに、イタリア仕様車では0-100km/h加速は7.4秒、最高速は230km/hと発表されている。3リッタークラスの自然吸気エンジンに匹敵する数字だ。
絶対的な性能だけではなく、日常的な使いやすさのほうも大きく改善されている。低速トルクが1.4ターボと比べてかなり太くなっているので、都市部のストップ・アンド・ゴーでもずいぶん乗りやすくなった。1.4ターボでは回転をそれなりに引っ張ってシフトアップ、また引っ張ってシフトアップ(6段MTのみしか用意されていない)の繰り返しだったが、1.8ターボならスロットルに乗せた右足にちょいと力を込めるだけでいい。1500rpmも回せば太いターボトルクがふわーっとわき出てくる。
アルファ・ミトに載っている乾式のデュアルクラッチトランスミッション(TCT)の許容トルクは350Nmと言われているから、デルタ1.8ターボ(320Nm)にも機構的には載るのだろう。でもデルタのようなラグジュアリーカーでは、トルコンならではの滑らかな発進も捨てがたいものがある。
現行ランチアで一番スポーティ
エンジンがかように強力なら、1.8ターボはそれに合わせて足まわりも固められている。ちょっと引き締まったかな? というレベルではなく、スポーティと呼んで差し支えないほどの健脚になっている。
ドイツ車のサスペンションは硬めで、フランス車はしなやか……などといった、あくまでイメージの話でいうなら、ランチアの、特にラグジュアリーなランチアの足まわりは、フランス車よりさらにしなやかさを感じさせるものだった。先々代型の「イプシロン」「リブラ」「テージス」、1.4ターボの現行デルタ、いずれもランチア初体験の人なら「ずいぶん柔らかいんだな」と感じるぐらいのセッティングになっていた。
しかし、表面はしっとり、時にふんわりしているのに、その奥にしっかりとした芯があって、飛ばすと実は足腰がしっかりしているのもまた、ランチアならではの味わいであった。それを期待して1.8ターボに乗ったら、これがずいぶんと剛性感のある足まわりになっており、ちょっと肩透かしをくらってしまった。ロック・トゥ・ロックで2.8回転回るステアリングの反応もダイレクトで、想像していた以上にフットワークがいい。
もっとも、こういったスポーティな足まわりを持つランチアが、過去にないわけではなかった。だいぶ前の話だが、かつてイプシロンに設定されていたスポーティ仕様「エレファンティーノ・ロッソ」が同じような方向性でまとめられていたのを思い出す。「インテグラーレ」のようなスポーティなモデルを持たない現ラインナップにおいては、この1.8ターボにその代役を期待しているのかもしれない。
誰もが振り返る(本当にテスト中、振り返る人が多かった!)ユニークなスタイリングを持つデルタ。効率やコストが重視される小型ハッチバックの分野で、“ブランドの美意識”というものをこれほど強く前面に押し出したクルマもない。アウディやBMWに比べれば“難解”かもしれない。しかしそれを解くのもクルマ趣味の楽しみのひとつ。いまどき、とても貴重な存在である。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)
