マセラーティ・グラントゥーリズモS(FR/6MT)【海外試乗記(後編)】
新しい舞台(後編) 2008.08.13 試乗記 マセラーティ・グラントゥーリズモS(FR/6MT)……1750.0万円
マセラーティの新型スポーツカー「グラントゥーリズモS」に試乗したリポーターは、スポーツカーと呼ぶにふさわしいパフォーマンスを備えるだけでなく、ラクシュリーカーとしての性能も満たす乗り味を実感した。
『CG』2008年8月号から転載。
性能も超一級
もちろん、GTSはエグゾーストノートが美しいだけのクーペではない。奏でる調べが一級なら性能も超一級、回転の上昇に合わせてリニアにパワーを盛り上げる4.7リッターV8は、典型的な高回転型の特性を示す。しかも、気筒あたりの排気量が586ccもあるというのに、まるで小排気量マルチシリンダーのようなスムーズさでレッドゾーンを目指すのだ。あまりに滑らかに吹け上がるものだから、低中速トルクが足りないような印象も受けてしまうが、実際にはどこから踏んでもあり余るトルクで1995kgもあるボディを引っ張り続け、アウトストラーダではあっという間に250km/hを超えた。
ちなみに、マセラーティの公表する最高速は295km/h。発進加速は0-100km/h:4.9秒、0-400m:13.0秒、0-1km:23.0秒という性能を誇る。
もうひとつの驚きは、乾式ツインプレート・クラッチを備えた6段シーケンシャル・ギアボックスのシフトマナーが格段に向上したことにある。例によってこのセミ・オートマチックシステムにはマニュアルモードとオートモードがあり、それぞれにノーマルとスポーツを用意。さらにマニュアル・スポーツモードを選ぶと、特定の条件を満たすことによって変速速度を速める“MC-Shift”が働くようになっている。このMCシフトはエンジン回転数5500rpm以上、スロットル開度80%以上のときに作動し、シフトチェンジに要する時間を0.1秒まで短縮するという。
実際、フルスロットルのまま7500rpmでステアリング右側のシフトパドルを引くと瞬時にシフトアップを済ませ、しかも変速ショックも極端に少なくなっていた。このシステムのソフトウェアは、フェラーリのF1スーパーファストのそれを流用しているに違いない。
優雅さと心地よさ
それにしても、GTSのなんと乗りやすいことか。全力疾走の興奮を冷ますために、アウトストラーダでオート・ノーマルモードを選んで巡航させたときの心地よさ、なかでもキャビンの静粛性の高さは特筆もので、6速4700rpmの200km/h巡航でさえパセンジャーと普通に会話できる。このとき、路面によっては前245/35ZR20 95Y、後285/35ZR20 100Yという極太サイズのピレリPゼロが路面を蹴る音が気になることもあったが、これほどの速度でも風切り音は室内に及ばず、パワートレーンが発するメカニカルノイズもかすかに耳に届くにすぎなかった。
モデナの市街に戻って感心したのは、発進時のクラッチミートがかつてとは比べものにならないほどスムーズになっていたことで、強大なトルクを利して低回転で行なわれる自動シフトのスケジュールに違和感を覚えることもない。このあたりにフェラーリ599とは異なる制御の巧みさ、システムの進化を感じさせる。
ただし、操縦性の向上を目的に締め上げられたサスペンションは、低速での乗り心地が少し硬い。テスト車は一般的なオイル/ガスダンパーを装着した標準仕様で(オプションで電子制御スカイフック・サスペンションも選べる)、普通のGTに比べて減衰力を約10%上げたほか、スプリングレートもわずかに高めているという。感覚的には日本で走らせたGTのスカイフック仕様ノーマルモードの2割増し程度の硬さに感じられ、いっぽう、スポーツモードと比べればしなやかな動きに終始する。荒れた路面では凹凸を正確に拾う傾向にあるものの、突き上げ感は意外なほど少なく、速度を上げればフラット感が強調されるなど、全体としてはとてもバランスの取れたサスペンション・セッティングだと思う。
走らせるのが愉しい
トランスアクスル方式を採用することで、前後重量配分をこれまでの49:51から47:53に変更。これに合わせてリアサブフレームを強化し、リアスタビライザーの捩れ剛性を2%アップしたというシャシーの運動性能がどれほど向上しているのか、個人的にはこの点に最も興味を持っていたが、ワイディングロードにさしかかると大粒の雨が落ち始め、残念ながら操縦性を試せる状況ではなかった。
Pゼロの排水性をもってしても、スロットルの踏み加減ひとつでアンダーにもオーバーに変化するといった具合で、MSP(マセラーティ・スタビリティ・プログラム)の介入が思いのほか遅いこと、ブレーキのペダルタッチと制動力がスポーツカーの要求を満たしていること、そして基本的にアンダーステアに躾けられていること以外に報告できることはない。ただ、それでも操る感覚において、知的興奮を覚えたのは確かだ。つまり、走らせるのが愉しい。
この洗練されたスタイリングと内に秘めた漲るパワー、スポーツカーと呼ぶにふさわしいパフォーマンスを備えながら、ラクシュリーカーとしての性能も満たすマセラーティ・グラントゥーリズモSは、今秋にも日本でのデリバリーがはじまるという。GTSの価格は1750万円。これほどの性能でGTの220万円プラスというのは、マセラーティもずいぶんと頑張ったものである。
(文=CG新井勉/写真=MASERATI)

新井 勉
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。































