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マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ(4WD/8AT)【試乗記】

エンジンっていいな 2023.11.15 試乗記 サトータケシ 2代目に進化したマセラティのラグジュアリー2ドアクーペ「グラントゥーリズモ」が上陸。最高出力550PSを誇る新しい3リッターV6ツインターボ搭載の高性能モデル「トロフェオ」に試乗した。伝統的なイタリアンGTカーの仕上がりやいかに。

これがカッコいいんです!

2022年秋にイタリア本国で発表されたマセラティ・グラントゥーリズモに、いよいよ日本で試乗するタイミングがめぐってきた。2代目に進化した新型グラントゥーリズモのトピックはいくつかあるけれど、100%電気自動車(BEV)の「フォルゴーレ」(イタリア語で稲妻の意)をラインナップすることが一番のニュースだろう。エンジン車とBEVは共通のプラットフォームを用いることとなり、当然ながらこれはゼロから新設計された。

エンジンは、先代のフェラーリが設計した4.7リッターV8自然吸気から、マセラティ自製の「ネットゥーノ」と呼ばれる3リッターV6ツインターボに改められている。このV6ツインターボは、同社の「MC20」や「グレカーレ トロフェオ」に搭載されるものと基本的には共通。ただしMC20用がドライサンプであるのに対してグラントゥーリズモ用とグレカーレ用はウエットサンプで、タービンのサイズや出力特性もそれぞれのキャラクターに合わせて変更されているという。

グラントゥーリズモのエンジン仕様は、最高出力550PSのトロフェオと、最高出力490PSの「モデナ」の2本立て。いずれもエンジンをフロントに搭載する4輪駆動で、今回試乗したのは、高出力版のトロフェオだった。

「Blue Nobile(ブルーノービレ)」というボディーカラーは、光の加減によって濃紺に見えたり、もう少し明るいブルーに見えたり、名前のとおりにノーブルな印象を与える。ボディーカラーに感心するのと同時に、意外に感じたのは、想像より車高が低かったことだ。約1年前に新型グラントゥーリズモのプレスリリースを目にしたとき、床下にバッテリーを配置するBEVと共通のプラットフォームだから少し背が高くなるだろうと、勝手に想像していたのだ。

けれども目の前の実車は地を這(は)うようなスタイルで、従来型に比べて3cm近くも全高は低められている。これはバッテリーを単純に床下に敷き詰めるのではなく、エンジン車のエンジンやトランスミッションなどの形に合わせて、T字型に配置することで実現したという。

BEVをデザインするなら、BEVにしかできない形にすべきだという意見もあるでしょう。いっぽうで、長い時間をかけて磨き上げてきたクルマの造形美を捨て去る必要はない、という考えもある。どちらが正解ということもないけれど、グラントゥーリズモの古典的ともいえる美しさからは、「これがカッコいいんです!」という老舗の強い主張が感じられる。

2022年10月に世界初公開された2代目「マセラティ・グラントゥーリズモ」。純内燃機関モデルに加えて電気自動車もラインナップされる。日本には前者が先行して導入された。
2022年10月に世界初公開された2代目「マセラティ・グラントゥーリズモ」。純内燃機関モデルに加えて電気自動車もラインナップされる。日本には前者が先行して導入された。拡大
純内燃機関モデルは最高出力490PSの「モデナ」と同550PSの「トロフェオ」をラインナップ。いずれも3リッターV6ツインターボエンジンが搭載される。今回は車両本体価格が2998万円となるトロフェオに試乗した。
純内燃機関モデルは最高出力490PSの「モデナ」と同550PSの「トロフェオ」をラインナップ。いずれも3リッターV6ツインターボエンジンが搭載される。今回は車両本体価格が2998万円となるトロフェオに試乗した。拡大
従来型の4.7リッターV8自然吸気エンジンに代わりフロントミドシップされる新開発の3リッターV6ツインターボエンジン。最高出力550PS/6500rpm、最大トルク650N・m/2500-5500rpmを発生する。
従来型の4.7リッターV8自然吸気エンジンに代わりフロントミドシップされる新開発の3リッターV6ツインターボエンジン。最高出力550PS/6500rpm、最大トルク650N・m/2500-5500rpmを発生する。拡大
フロントまわりはミドシップスーパーカー「MC20」から始まった最新のマセラティフェイスで、前に突き出たグリルと縦長のヘッドランプデザインが特徴だ。「トロフェオ」グレードでは左右のエアインテークにカーボンパーツを用いるなどして、エントリーモデルの「モデナ」と差異化されている。
フロントまわりはミドシップスーパーカー「MC20」から始まった最新のマセラティフェイスで、前に突き出たグリルと縦長のヘッドランプデザインが特徴だ。「トロフェオ」グレードでは左右のエアインテークにカーボンパーツを用いるなどして、エントリーモデルの「モデナ」と差異化されている。拡大
「グラントゥーリズモ トロフェオ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm、ホイールベースは2930mm。フォルムやボディーサイズは従来型とほとんど変わらない。
「グラントゥーリズモ トロフェオ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm、ホイールベースは2930mm。フォルムやボディーサイズは従来型とほとんど変わらない。拡大
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地平の果てまで走っていけそう

外観は正統派の二枚目クーペであるけれど、インテリアはデジタル化が進んでいる。センターコンソールに二段構えで備わる液晶パネルは、上段がナビゲーションやスマートフォンとの連携をつかさどり、下段は主に空調を担当する。同社のグレカーレと、基本的な構成は似ている。ちなみにシフトをセレクトするスイッチは、上段と下段のモニターの間に位置する。

写真をご覧になって、アナログ時計はマセラティっぽいな、と思われるかもしれない。けれどもこの時計は、同社の最新モデルと同様にスマートウオッチ。ストップウオッチや各種メーターなど、フェイスを切り替えることができる。

ステアリングホイールのスポーク下部に位置する青いスターターボタンを押すと、フロントミドシップされるネットゥーノV6ツインターボがシュンと始動した。で、都心のビルの地下にあるパーキングスペースから表に出て、びっくりする。乗り心地が抜群にいいのだ。悪名高い首都高速の段差も、タン、タン、タンと軽やかにクリアする。

路面の不整を乗り越えるときの感触は、これまで感じたことがないものだった。ふんわりと乗り越えるわけでもなく、路面からのショックは感じられるけれど、そのショックは「くるぞ!」と体が身構えるものよりはるかに小さい。

エアサスペンションがしっかりと仕事をしているのは当然として、路面からの衝撃が1カ所に集中するのではなく、ボディー全体で受け止めているように感じる。この快適さだったら、グラントゥーリズモの名のとおり、地平の果てまで走っていけそうだ。

今回試乗した車両の外板色は64万円の有償カラーとなる「ブルーノービレ」。光の加減によって濃紺に見えたり、もう少し明るいブルーに見えたりする3コートメタリックペイントが特徴だ。
今回試乗した車両の外板色は64万円の有償カラーとなる「ブルーノービレ」。光の加減によって濃紺に見えたり、もう少し明るいブルーに見えたりする3コートメタリックペイントが特徴だ。拡大
最新のマセラティに共通するテイストでデザインされた「グラントゥーリズモ」のコックピット。タッチスクリーン式のコンフォートディスプレイに車両設定やカーナビ、エアコン、オーディオ、各種アプリなどの操作を集約している。
最新のマセラティに共通するテイストでデザインされた「グラントゥーリズモ」のコックピット。タッチスクリーン式のコンフォートディスプレイに車両設定やカーナビ、エアコン、オーディオ、各種アプリなどの操作を集約している。拡大
センターコンソールのタッチパネルで表示情報を選択できる、ダッシュボードの中央に置かれたデジタル式の「マセラティウオッチ」。写真は「クラシック」表示を選択した様子。
センターコンソールのタッチパネルで表示情報を選択できる、ダッシュボードの中央に置かれたデジタル式の「マセラティウオッチ」。写真は「クラシック」表示を選択した様子。拡大
15本スポークデザインが採用されたグロッシーブラック仕上げの「ペガソ」鍛造ホイール。今回の試乗車はフロントに265/30ZR20サイズ、リアに295/30ZR21サイズの「ピレリPゼロ」タイヤを組み合わせていた。
15本スポークデザインが採用されたグロッシーブラック仕上げの「ペガソ」鍛造ホイール。今回の試乗車はフロントに265/30ZR20サイズ、リアに295/30ZR21サイズの「ピレリPゼロ」タイヤを組み合わせていた。拡大

ツボを押さえたGTカー

ドライブモードは、「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4つを切り替えることができる。ステアリングホイールのスポーク下部に備わるセレクターをクルッと回して切り替えると、エンジンとトランスミッション、そしてエアサスの設定が変わる。この設定のあんばいも、ドンピシャだった。

市街地を走るには「コンフォート」が最適で、ただし高速巡航に入るとやや上下動の収まりが悪くなるのが気になる。そこで「GT」に切り替えると、フラットな姿勢を保つようになり、リラックスしてクルーズできる。

撮影日は、東京湾アクアラインが通行止めになるくらいの強風が吹き荒れていたけれど、図らずも荒天がこのクルマのポテンシャルを実感させることになった。とにかく高速での安定感は抜群。後輪駆動をベースに、必要に応じて前輪にもトルクを配分する4駆システムの恩恵もあって、矢のように直進する。

前述したように乗り心地は抜群だから、室内は快適至極。しかも退屈しないのは、車線変更をする際のステアフィールのよさや、加速時のエンジンのレスポンスと音など、ファン・トゥ・ドライブを感じさせてくれるから。そう、ただ安楽なだけのクルマでは、グランドツーリングは楽しめないのだ。このクルマのように心地よい刺激があるからこそ、飽きずに長旅を続けることができる。

新型グラントゥーリズモ発表の際のプレスリリースには、「75年前の『マセラティA6 1500』から始まったそのシリーズのストーリーに新たな章が追加されます」とあって、ちょっと大げさすぎやしないかと思った記憶がある。けれども実際に乗ってみると、確かにGTカーをつくるツボを押さえている。GTの名門、GT職人だ。

12.3インチと8.8インチのタッチ式液晶パネルを組み合わせたコンフォートディスプレイ。スイッチの削減と先進的なイメージの演出がうたわれている。シフトセレクターはプッシュスイッチ式で、上下2枚の液晶パネル間に配置される。
12.3インチと8.8インチのタッチ式液晶パネルを組み合わせたコンフォートディスプレイ。スイッチの削減と先進的なイメージの演出がうたわれている。シフトセレクターはプッシュスイッチ式で、上下2枚の液晶パネル間に配置される。拡大
今回の試乗車では「アイス」と呼ばれるホワイト系のインテリアカラーが選択されていた。上質なレザーで仕立てられたフロントシートには、ヒーターとベンチレーション機構が組み込まれている。ヘッドレストのトライデント刺しゅうは12万円の有償オプションアイテム。
今回の試乗車では「アイス」と呼ばれるホワイト系のインテリアカラーが選択されていた。上質なレザーで仕立てられたフロントシートには、ヒーターとベンチレーション機構が組み込まれている。ヘッドレストのトライデント刺しゅうは12万円の有償オプションアイテム。拡大
2人乗りとなるリアシート。身長180cmの筆者が運転席のポジションを決めてから後席に潜り込むと、頭上に多少の圧迫感を覚えるものの意外とすっぽり収まることができた。
2人乗りとなるリアシート。身長180cmの筆者が運転席のポジションを決めてから後席に潜り込むと、頭上に多少の圧迫感を覚えるものの意外とすっぽり収まることができた。拡大
サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン式、リアがマルチリンク式。いずれもエアスプリングと電制ダンパーが組み合わされる。トランスアクスルレイアウトではないが、52:48の前後重量配分を実現している。
サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン式、リアがマルチリンク式。いずれもエアスプリングと電制ダンパーが組み合わされる。トランスアクスルレイアウトではないが、52:48の前後重量配分を実現している。拡大

「ポルシェ911」の対抗馬

ドライブモードを「スポーツ」、さらに「コルサ」に切り替えると、ボディーのあちこちにあるボルトすべてをぎゅぎゅっと増し締めしたかのように、全体の印象がタイトになる。ひとまわり、軽く小さくなったように感じる。

エンジンは高い回転域をキープするようになり、「ホロロホロロ」という朗らかな排気音が、回転を上げるにつれて「コーン」というソリッドなサウンドに変わるあたりに、背筋がゾクッとする。音が盛り上がるのと同時に力感も漲(みなぎ)るようになり、このご時世に能天気だけれど、「エンジンっていいな」と率直に思った。

ただし、迫力あるエンジンを楽しみながらも、挙動はとっちらかることなく、あくまでクールな正統派二枚目の居住まいを崩さない。洗練された踏みごたえのブレーキを操作して速度を落とし、路面の情報を正確に伝えるステアリングホイールを操作すると、ほどよいロールとともに美しい所作で身を翻す。

必要に応じて前輪にも駆動力が伝わっていることがデジタル表示からもわかるように、エアサスと4駆システムなど、足まわりは高度に電子制御されている。GT職人の匠(たくみ)の技が、デジタル技術によってさらに繊細に表現されるようになった。

興味深かったのは、あまり期待していなかった2+2の後席が、思っていたより使えることだった。身長180cmの筆者がドラポジを決めてから後席に潜り込むと、頭上には多少の圧迫感があるけれど、意外とすっぽり収まった。

これまで、いつの時代にも「ポルシェ911」の対抗馬というものが存在した。2023年においては、間違いなくマセラティ・グラントゥーリズモが最右翼だろう。それくらい完成度は高い。

(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

ステアリングホイールの左側にエンジンのスタート/ストップスイッチが、右側にドライブモードの切り替えスイッチ(写真)が備わる。ドライビングモードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4つから選択できる。
ステアリングホイールの左側にエンジンのスタート/ストップスイッチが、右側にドライブモードの切り替えスイッチ(写真)が備わる。ドライビングモードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」「コルサ」の4つから選択できる。拡大
12.2インチの液晶メーターパネルには、4種類の表示レイアウトが用意されている。ドライビングモードで「コルサ」を選択した場合は、画面の中央に速度計とエンジン回転計が配置されるスポーティーなデザイン(写真)に自動で切り替わる。
12.2インチの液晶メーターパネルには、4種類の表示レイアウトが用意されている。ドライビングモードで「コルサ」を選択した場合は、画面の中央に速度計とエンジン回転計が配置されるスポーティーなデザイン(写真)に自動で切り替わる。拡大
独立した荷室の容量は310リッター。長尺物を収容できるスキートンネルと、床下にパンク修理キットやけん引用フックなどが収まるサブトランクが設置されている。
独立した荷室の容量は310リッター。長尺物を収容できるスキートンネルと、床下にパンク修理キットやけん引用フックなどが収まるサブトランクが設置されている。拡大
「グラントゥーリズモ トロフェオ」のパフォーマンスは0-100km/h加速3.5秒、最高速度320km/h。ドライブモードを「コルサ」に切り替えエンジン回転を上げると、エキゾーストサウンドは「コーン」というソリッドでスポーティーな音質に変わる。
「グラントゥーリズモ トロフェオ」のパフォーマンスは0-100km/h加速3.5秒、最高速度320km/h。ドライブモードを「コルサ」に切り替えエンジン回転を上げると、エキゾーストサウンドは「コーン」というソリッドでスポーティーな音質に変わる。拡大

テスト車のデータ

マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm
ホイールベース:2930mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/6500rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20 94Y/(後)295/30ZR21 102Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.1リッター/100km(約9.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:2998万円/テスト車=3198万円
オプション装備:3コートメタリックペイント<ブルーノービレ>(64万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム(59万円)/テックアンドアシスタンスパッケージ<フレームレスデジタルルームミラー、ヘッドアップディスプレイ>(42万円)/リアプライバシーガラス(15万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(12万円)/スポーツデザインパッケージ<アルミ/ステンレススポーツペダル、アルミフットレスト、マセラティロゴ入りイルミネーテッドドアシル>(8万円)

テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1742km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:208.0km
使用燃料:27.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)

マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ
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サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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