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第443回:続・タダより高いモノはない? 反論! BMWが語るオイル交換の本質

2012.01.11 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第443回:続・タダより高いモノはない?反論! BMWが語るオイル交換の本質

「モチは餅屋」で、オイルの話

ところ変われば人変わる、立場変われば見方も変わる……ってなわけで、やっぱ両方取材せにゃアカンでしょ! と行ってきましたBMWジャパン!

というのも、2011年9月に公開した「第435回:タダより高いモノはない!?迫り来る“フリーウェイ系”中古車の恐怖」の反響があまりにデカかったんでね。
アレは多少一方的だとは思ったんですが、あえて街のメンテナンス現場の生の声を伝えたまで。特に俺が感じてたのは、最近クルマに対する愛情全般が薄れているんじゃないか、手入れとかおざなりになっていないかってこと。「洗車好き」とか最近聞かないしね。

中でもオイル交換は、その象徴。効果的なノウハウについては意見がまちまちで、真実が見えにくい。ぶっちゃけよく分からない! そこで極端とは思いつつ、最悪のケースをお伝えしたんですが、そしたらやっぱり来ましたわ。各方面から異論・反論が!

ってなわけで、今回はメーカー側の言い分を聞いてみることにした。突撃インタビューしたのはBMWジャパンでアフターセールス・ディビジョンのテクニカル・サービス・マネジャーを務める加瀬俊一さん。メンテナンスについては博識で、ドイツの本社とも密接な関係にある。

今回話をうかがったBMWが掲げるスペックは圧倒的だ。ざっと調べたところ、オイルの交換インターバルは、同じドイツ系のメルセデス・ベンツが1万km、フォルクスワーゲンとアウディが1万5000km、国産ではトヨタが1万5000km(シビアコンディションで7500km)、日産もほぼ同条件を推奨する中、BMWはダントツの3万km! 圧倒的なノーメンテナンス性をうたう。

(写真はイメージです)
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今回お話をうかがった、BMWジャパンのアフターセールス・ディビジョン テクニカル・サービス・マネジャー 加瀬俊一さん。
今回お話をうかがった、BMWジャパンのアフターセールス・ディビジョン テクニカル・サービス・マネジャー 加瀬俊一さん。 拡大

根拠あっての交換時期

……って、加瀬さん、その距離の根拠は!?

「最初に言っておきたいのは、走行距離はあくまでも目安ということです。唯一絶対的な基準があるとしたら年月。BMWでは24カ月たったら交換するようにしています」。

なるほど。前も書いたが、オイルの劣化度合いは、走行距離以上に使用環境の違いに左右される。例えば日本のように渋滞が多く、低速走行やストップ&ゴーが多い国と、ドイツのようにほとんど止まらずぶっ飛ばせる国とでは同じ1万km走行でもオイルの劣化は全く違ってくるわけで、距離はあくまでも目安にしかならない。24カ月って基準そのものもすごいが、では個別の交換インターバルはどう判断しているのか?

「クルマ自体が計算しています。あとどのくらいで交換が必要なのかは、インジケーターに表示されます」。

どういう根拠で計算を?
「いろんなパラメーターを見てますが、一番重要なのはインジェクターの開弁時間の積算。これは負荷の総和になります」。

インジェクターの開弁時間とはつまり、燃料をどれだけの時間、どれだけの量吹いたかを示すものだ。なるほど、確かにそれに比例してオイルは汚れるのかもしれない。そのほか、オイルそのものについてもセンサーを使った計測(弱電流を流し抵抗値でオイル内のカーボン量をチェックする)も行うなど、総合的なデータを元に状態が診断されている。

そのほか、オイル劣化はブローバイガス(燃焼室から漏れる未燃ガス)の影響も大きいそうだ。

「オイルもパーツのひとつです」!?

そして、長い交換インターバルの根拠となるのが、BMW専用のロングライフオイルだ。これは、2002年のE90型「3シリーズ」あたりから推奨されているもので、「クルマを構成するパーツのひとつとして開発したもの」という。

同社のロングライフプランも、このあたりから始まっている。
「非常に技術的な話で、正確にお答えするのは難しいんですが、それこそBMWが作るエンジンのスペックに合わせて開発されたものです」
要は、BMW特有のピストンとシリンダーのクリアランスやオイル循環システムに合わせて、粘度や添加剤を調整したスペシャルオイルだ。中でも重要なのは“100%化学合成”なこと。これでオイルの潤滑性能と寿命はイッキに上がったそうな。

驚いたことに、いまやBMW車はサーキットイベントでもこのオイルを使っている。「逆に、有名なモータースポーツ用オイルを使うと性能が落ちるどころか、壊れる可能性もある」とか。
つまり、現代の最新エンジンは昔とは比べられないほど精度と特殊性が上がった反面、汎用(はんよう)性が下がったという面もある。

絶妙なバランスのうえで成立している高性能は、メーカー推奨ではないパーツやオイルを使うだけで「総合性能がイッキに落ちる」こともあるそうで、前回のリポートで紹介した問題についても――
「写真で見た限りですが、純正オイルフィルターを使っていなかったり、別のオイルを入れた可能性は十分考えられます。それで、予想外に早く劣化が進んでしまったということもあるんじゃないでしょうか」。(加瀬氏)

特に最近のドイツ車はターボエンジンが多く、熱管理が非常にシビア。合わないオイルを使うとイッキに温度が上がって、あっという間に寿命が縮まることも考えられ、「基本、とにかく正規ディーラーに持っていってください」とのこと。
この辺は正直、過度なメーカーの縛りというか、イヤ〜な感じもするものの、最近のエンジンが高度なバランスのうえに成り立っているのは確かなことで、これまた時代の流れといえばそうなのだろう。

長寿と制約のはざまで

ところで、走行1万kmから3万kmまでオイル交換の目安に3倍の開きがあるのには、つらつらと述べた“オイルメンテ革命”とともに、今までの“思い込み”も大きいようだ。
別のドイツメーカースタッフはこう打ち明ける。

「街のクルマ屋さん批判をするわけではないですが、オイル交換を5000kmとか7000kmで行うと、みんなハッピーになるんですよ。そう、お客様が安心できて、ディーラーもオイルメーカーももうかってハッピー(笑)。そもそもオイルは利益率がいい商品だし……オイルを変えた直後って、違いがすごいんです。一瞬粘度も油圧も上がって体感上の調子が良くなりますから」。
「でも、そのまま使っても決して潤滑性が極端に落ちるわけじゃないし、交換しなくてもよかったわけです。今まではムダに早くオイルを捨てていたと言える部分があるんです」。

なるほど。エンジンやオイルの性能がアップしていく一方で、それを今までは過少評価していた、ということか。

BMWなどのドイツメーカーが潤滑油などのロングライフ化を考えたのは、2000年前後に、かの国で廃油問題が取り上げられたのがきっかけ。いまドイツでは、路上で普通に洗車することも禁じられている。これは、ワックスなどのオイル分が流れて、川の水など環境を汚すからだ。
こうした発想がなければ、「短い距離でもオイル交換」は、みんなが喜べる、夢のシステムとして延々続いていたわけだ。たぶん。

とはいえ、今のクルマが高度なバランスで成り立っているという事実は、別の角度から見ると危うさにもつながると言える。クルマが定期的なメンテナンスを必要とするものである以上、難しい問題だ。クルマを買ったら、そのメーカーの正規ディーラーでしか面倒見ちゃいけないって……実際、縛れないでしょ。
中古車を買った時に、そのクルマが過去どうやってメンテされてたのかを正確に確認できる方法もない。正規に入れてたけど、たまに街のショップでオイル交換してたって可能性もあるわけだしさ。

ってな具合に、考えれば考えるほど難しくなってきたメンテナンスの問題。さしあたりできるのは、中古車を買ったらすぐ正規でオイル交換するとか、異音とか匂いに敏感になるとか、信頼できるスジで買うってことぐらいしかない。それか後は天に祈る……って、全然解決になってないか?(苦笑)

(文=小沢コージ)

こちらは、BMWの純正部品(オイルフィルター)の性能差を示すビデオ。同社は、こうした動画をリリースするなどして、純正部品の重要性をユーザーに説いている。
こちらは、BMWの純正部品(オイルフィルター)の性能差を示すビデオ。同社は、こうした動画をリリースするなどして、純正部品の重要性をユーザーに説いている。 拡大
小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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