第367回:発見! 「ビアンテ」を手がけたのはピカソだった!?
「このデザインはキュビズムかもしれません」
2008.08.01
小沢コージの勢いまかせ!
第367回:発見! 「ビアンテ」を手がけたのはピカソだった!? 「このデザインはキュビズムかもしれません」
横から作った、ビアンテのデザイン
さてさてついにデビューしたマツダ久々の新型トールミニバン「ビアンテ」。最近ハズシが少ないマツダ車だけに、その走りや居住性も気になるところだが、不肖・小沢が一番気になるのはやはりデザイン。実際、あの独特のヘッドライトデザインはどういう発想で、どのように作られたのか? 正直ファミリー向けのミニバンとしては大胆すぎるようにも思えるが、メーカー内での葛藤はなかったのか?
旧知のチーフデザイナー、小泉さんを直撃してまいりましたっ!
コージ:小泉さん。単刀直入にこのデザイン、かなりすごいと思うんですけど、どういう過程で作られたんですか?
小泉:大胆、個性的、独創的、みなさんそうおっしゃいますけど、僕の中ではたいしたことをしたつもりはないんです。当たり前のことを当たり前にやっていったらああなっただけで。
コージ:狙ったってわけじゃないんですね。
小泉:全然。好き嫌いが出るデザインとはわかっていましたけど、慣れちゃえばどうってことないカタチですよ。
コージ:そうですかねぇ。あんなヘッドライトデザイン、見たことないですけど。
小泉:そもそもあのデザインは必然的に生まれたんです。ご存じのとおり、ビアンテはプレマシーをベースに作られてるんですけど、プレマシーはミニバンとしてはとてもスポーティで、フロントのプラットフォームがすごく低い位置にあるんです。それに従ってフロントシートやベルトラインもかなり低い位置にある。
コージ:全然そうは見えないですけどね。ビアンテを見る限り。
小泉:狙って作ってますから(笑)。
コージ:なるほど。その結果、ああいうデザインになったと。
小泉:あのデザインは横から作り始めたんですよ。サイドラインをいかにスポーティに見せるかっていうところから始まってます。普通にあのプラットフォームの上に単純に大きなグラスエリアを持つアッパーボディを載せたら、すごく不格好に見えてしまう。
コージ:それでああいう流れるようなスポーティデザインになったわけですね。ボディの大きさを感じさせないヘッドライトやサイドビュー。
小泉:そのとおり。今のマツダのデザインアイデンティティである“Nagare”(流れ)コンセプトでもありますしね。
コージ:抵抗なかったんですか。社内的にもあのデザインは。
小泉:もちろんユーザークリニックはしましたよ。とある関東の観光地ですけど、するとこのカタチと、いわゆるオーソドックスなミニバンスタイルとで比べてみて、ほとんど賛成票に差がなかったんです。
コージ:マジですか?
小泉:マジですよ(笑)。それに今のマツダの“Zoom-Zoom”戦略からいって、マツダがせっかく作るミニバンが普通のデザインであってもしょうがない。そういう共通認識もありました。
スタイルのためにパッケージングを犠牲にしちゃダメ
コージ:マツダってすごくいい会社ですね。ホントに(笑)。でもいわゆる前の箱形ミニバン、ボンゴフレンディが出た時からほぼ10年は経ってるじゃないですか。いったいいまさらなぜ……。
小泉:それには一言で言えない理由があるんですが、まずすでにあるプレマシー、あれで市場調査してみると驚くべき結果が出ました。
コージ:というと?
小泉:「マツダは背の高いファミリーカーを作ってない」「家族向けのミニバンがない」と、そういう声が多かったんです。
コージ:ええっ? プレマシーがあるじゃないですか。その気になれば7人も乗れる……。
小泉:もちろんそういうお客様もいますが、単純にもっと背の高い、箱形フォルムじゃないと身近に感じられないって方も多いんです。
コージ:なるほどね。「あれは俺たちのミニバンじゃない」と。でもそれにしても個性的過ぎるんじゃないですか?
小泉:そんなことないですよ。クリニックでの評判も良かったですし、なによりひと目でマツダってわかる。プレゼンの時にも言いましたが「止まっていても動いて見える」カタチだし、今のマツダブランドで一番優先しているのはデザインなんです。ほかと一緒じゃしょうがない。
コージ:でもなんか心配なんですよね。俺が“軽のアルファ・ロメオ”だって思った「スバルR2」もあまり売れなかったし、ミニバンもあまりデザインに走っちゃダメなんじゃないかと。
小泉:日本ではスタイルのためにパッケージングを犠牲にしちゃダメなんですよ。その点、ビアンテは大丈夫です。
コージ:そうか。たしかにR2はリアシート狭かったしなぁ。
小泉:あのね、小沢さん。デザインっていうのはいわゆる“モノのカタチ”ではありますが、それ以上に“モノの見方”でもあるんです。僕が本当にこのビアンテでやりたかったのは、そのモノの見かたの縛りを解くこと。もっとみなさんにデザインを自由に見てほしかったんです。クルマってたいていの場合、3面図で見てるじゃないですか。モノとして“正面”“横”“屋根”に分けて見ている。
コージ:いわゆるフロントマスクとサイドビューとルーフですよね。
小泉:そう。でも本当はもっと連続性のあるモノなんですよ。横でも縦でもないもっと違う面がある。フロントが自然にサイドに繋がってたっていい。正面と横とを分けなくたっていい。人間はデザインに対してもっと自由にあるべきなんです!
コージ:わかった。つまりピカソじゃないですか。要するにキュビズム!! 別に目と鼻と耳が同時に見えてどこが悪いんだ! と。小泉さんはそれが言いたかったんじゃないんですか。違います?
小泉:うーん……(笑)。ま、一応そういうことにしときましょうか。
ってなわけで、少々私が無理矢理言わせた部分もなくはないですが、このビアンテのデザインは、“マツダのピカソ”(?)でもある小泉チーフデザイナーの深遠なる想いがこもった入魂のデザインなのであります。
みなさんも心して、鑑賞しましょうね!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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