マツダ・ビアンテ23S(FF/5AT)/20CS(FF/5AT)【試乗速報】
“Zoom-Zoom”と言わずとも 2008.07.30 試乗記 マツダ・ビアンテ23S(FF/5AT)/20CS(FF/5AT)……335万6650円/286万500円
人気の2リッタートールミニバンに仲間入りした「マツダ・ビアンテ」。“Zoom-Zoom Tall”を謳う箱形ミニバンは、マツダらしさを備えているのか?
マツダらしさとは?
「内角高めを狙いました」
試乗会で、カープファンの開発陣が「マツダ・ビアンテ」を説明した。
そんなビアンテは、月1万5000〜2万台が売れるこの2リッタートールミニバン市場で、「日産セレナ」「トヨタ・ノア/ヴォクシー」「ホンダ・ステップワゴン」との争いを宿命づけられたクルマ。マツダのミニバン「プレマシー」「MPV」が国内で思うように売れず、売れ筋であるこの市場に放たれたモデルである。
ここで思い出すのは「スバル・ステラ」。「R1」「R2」などが思うように売れず、「マーケットへの直球」(富士重工業・竹中社長(当時)談)として、軽自動車の売れ筋であるハイトワゴン市場へ放たれた……(以下同)。
ビアンテも内角高めとは言いつつ、実はど真ん中の直球だと思う。
続けて、「デザイン、そして快適性にこだわった、マツダらしいミニバンです」ともアピールされた。
「でも、高い快適性ってマツダらしいんですか? 僕には運転する楽しさがマツダらしさであるような……」と話すと、開発陣はちょっと苦笑い。
たしかにデザインにこだわりは見える。一番の特徴ともいえる、ヘッドランプから三角窓へと“Nagare”(流れ)るグラフィックは手の込んだものだ。通常なら鉄板でつながっているところを、わざわざ剛性を低下させるようなめんどくさい形状にしているのだから。
とはいえ、他のマツダ車で多く採用されるアーチ状ではなく、ブリスターフェンダーが採用されたのもあり、「マツダらしいか?」と言われると、やはり疑問が残る。
うーん、どうやら話がかみ合わない。「マツダらしい」をどう解釈するかが問題のようだ……。
考えられたエアロダイナミクス
頭を抱えつつも、試乗車に乗り込んだ。用意されたのはベースグレードの「20CS」と、最上級の「23S」。
女性も運転しやすいようにと、運転席への乗降性が配慮されたという。たしかにフロア高は低く、シートのヒップポイントも低く、乗り込みやすい。チルト&テレスコピック、シートリフター、前後スライドなどの調整幅も大きく採られ、メーター類が見やすい位置に配されるなど良心的な気配りがされるのは、最近の軽自動車と同じ傾向のようだ。
次にマツダらしからぬ(?)「快適性の高さ」を確かめるため、後部座席に乗り込む。
2/3列目ともにシートサイズはたっぷりとしており、座り心地は良好。2列目のシートバックが柔らかく、後ろの人の膝がうまくはまって、窮屈さを覚えることはない。低床設計のおかげで、頭上空間もしっかり確保されている。
荷室を広げるには、3列目の座面をチップアップ。すべて荷室側から操作ができる。左右跳ね上げ式にしなかった理由を問うと、「3列目着座時の快適性」「操作の簡便性」のほか、「跳ね上げ時に後方視界が悪くなる」というドライバーを大切にした発言は、まじめなクルマづくりの現れだ。
走り出してまず気づくのは、車内の静粛性の高さ。エンジンノイズ、ロードノイズともにいずれのグレードもうまく遮断されている。3列目の静粛性は、他の席に比べ一歩劣ってはいたのだが。
さらに風切り音対策、直進安定性(=横風安定性)を高めるタイヤディフレクターなど、ミニバンとは思えない考えられたエアロダイナミクスには感心。0.30という乗用車並みのCd値が、燃費性能の向上に寄与しているのは言うまでもない。
作業にならない
では、リポーターが気にする「マツダらしさ」、すなわち運転の楽しさはどうなのだろう?
パワーステアリングは電動油圧式を採用する。このフィールが良好で、かつ路面からのインフォメーションがわかりやすいため、作業になってしまいがちな運転も、クルマをちゃんと動かしている実感が得られた。
リアサスペンションにダブルウィッシュボーンが奢られるプレマシー譲りのシャシーは、軽量化やボディの高剛性化ともあいまって、ステアリングホイールの応答性が高く感じられる。ハンドルのロック・トゥ・ロックは約3回転とされ、乗用車並みの操舵感覚が味わえるだけでなく、取りまわしの良さにも寄与。開発陣が意識する「乗用車からの乗り換え」にも、全く違和感はないだろう。
エンジンに関しては、ボリュームグレードになるであろう2リッターに低回転域でのトルクの物足りなさを感じたものの、5段ATのうまい変速がフォローしていた。スペック的にもライバルに劣らないし、逆にこのクラスのミニバンユーザーが気にする部分でもないわけで、及第点が与えられる。
こうして試乗してみると、ビアンテのいたるところに「らしさ」は見つけられた。
とはいえ、「マツダらしいミニバン」と言われたら、まだ「プレマシー」や「MPV」を思い出してしまうわけで、“Zoom-Zoom Tall”はやっぱり少々強引かと……。
冒頭に例を挙げた富士重工は、奇しくも同時期に7人乗り「エクシーガ」をリリースした。こちらはストレートに「スバルらしい」と言えるクルマ。ビアンテもこんなクルマだったら素直に受け入れられたのに。
(文=webCG 本諏訪裕幸/写真=高橋信宏)
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本諏訪 裕幸
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