アルファ・ロメオ・アルファ・ミート(FF/6MT)【海外試乗記】
入門者にも目利きにも 2008.07.29 試乗記 アルファ・ロメオ・アルファ・ミート(FF/6MT)車名を公募するなど、その存在を事前にPRしてきた、アルファ・ロメオの新型コンパクトカー「ミート」。イタリアで、いち早くそのステアリング握った。
理屈じゃないのだ
ミラノでデザインされ、トリノで生産される。それがアルファ・ロメオの新しいコンパクトカー“MiTo”の不思議なネーミングの由来である。そして、それは同時に“神話”を意味する“mytho”の音とも掛けられているという。日本語表記は“ミート”である。
全長4.06m×全幅1.72m×全高1.44mと、147よりさらにひと回り小さいボディは、しかしそれに負けない強烈な存在感を放っている。そのスタイリングに、あの「8Cコンペティツィオーネ」のイメージを投影されているのは明らか。フロントマスク全体、サイドウィンドウのグラフィックス、LEDを用いた円形テールランプなど、そこかしこに似た雰囲気のディテールが盛り込まれている。
均整のとれた美しいデザインか? と問われたら、答に窮する。真正面から見た姿などは、かなりファニーな印象だ。けれど、つい目を奪われてしまう魅力が濃厚なのも、またたしか。ほかでもないアルファ・ロメオ。理屈じゃないのだ。
インテリアも期待を裏切らない。繊細なメーターまわりや円形のエアダクトなど、意匠はいかにもアルファらしいもの。単に必要なものを配置しただけでなく、いかに情緒を掻き立てるかというデザインがなされている。クオリティもこのクラスではハイレベル。なにしろポルトローナ・フラウ社製レザーシートまで選べるほどである。
ソノ気にさせるエンジン
しかし、名前よりデザインより内装より、なにより強い印象をもたらしたのは、その走りっぷりだ。いくつかのエンジンが用意されるうち、今回試すことができたのは、最高出力155ps、最大トルク23.5kgmを発生する1.4リッターターボユニットと6段MTの組み合わせ。そのパフォーマンスは、1145kgの車重に対しては十分過ぎるほどで、弾けるように加速するのはもちろん、たとえば6速50km/h、つまり1250rpmあたりからでもストレスなく加速する抜群のフレキシビリティも併せ持っている。
その代わり、上は回してもせいぜい6500rpmまでなのだが、このエンジンは音のチューニングが巧みで、回転上昇に合わせて次第にヌケが良くなっていき、トップエンドの500rpmでは、まさに絶品の美声を響かせるのだから堪らない。回さなくても十分。けれど思わず回したくなってしまう、ソノ気にさせるエンジンなのだ。
ちなみに試乗車には“アルファD.N.A.”と呼ばれるスロットルとEPSの特性を“Dynamic”“Normal”“All Weather”の3段階に切り換えられるシステムも備わっていたが、この日はほとんど“Dynamic”で通したことを報告しておく。
きっと運転も好きになる
フットワークにも、大いに唸らされてしまった。ブレーキを緩めながら滑らかな手応えのステアリングを切り込んでいくと素直にノーズがインに向き、硬過ぎず柔らか過ぎないサスペンションがしなやかに路面を舐めて、一体感抜群のコーナリングを楽しめる。いささか曖昧な言い方だが、要はタイヤのグリップばかりに頼ることなく、とてもナチュラルに、そして軽快に曲がるのだ。そこには「147」や「156」のような演出めいた軽さはなく、懐もとても深い。気付けば夢中になってコーナーの連続を往復してしまう、扇情的な走りの世界が、そこには開けているのだ。
実はミートの基本骨格が、これまた際立った走りの「フィアット・グランデプント」譲りだとは事前にわかっていた。しかし、そこに高いボディ剛性、リバウンドスプリング付きダンパーの投入などコストのかかったサスペンション、そしてなによりアルファらしい味つけが加わることで、想像を超えた気持ち良い走りが実現されていたのである。
アルファ・スポーツカーの入門という位置づけのこのミート、たしかにサイズは小さいものの見た目もクオリティも走りも紛うかたなきアルファ・ロメオであり、入門どころか目利きの人をも満足させること請け合いである。あるいは見た目で買った人でも、ミートに乗っていたら、運転することだって楽しみになるに違いない
待ち遠しい日本導入は2009年中盤とまだ先。当初は左右ハンドルの6段MT仕様が用意され、そして年末に向けては5ドア、それもツインクラッチ式ギアボックスを使った2ペダルモデルが投入されるという。しかも価格は、結構頑張ってきそうな気配。
最近、安くて美味しいクルマがめっきり少なくなってしまったが、きっと来年はミートが大いに盛り上げてくれそうだ。
(文=島下泰久/写真=フィアットオートジャパン)
