インフィニティEX35(FR/5AT)【試乗記】
SUV版スカイライン!? 2008.05.28 試乗記 インフィニティEX35(FR/5AT)……544万9500円
日本で製造される日本車でありながら、国内で正規に販売されていない車種がある。「インフィニティEX35」もその1台だ。
左ハンドルのニホン車
逆輸入車というのをご存知だろうか。日本で造られたクルマが国外に輸出され、一旦は海を渡って異国に着いて、再度また日本へ輸入されたクルマのことを言うのだが、なぜそんな余計な手間をかけるかというと、日本では売られていないクルマだからだ。この「インフィニティ EX35」もまさにその逆輸入車にあたる。
このクルマは、日産自動車の栃木工場で造られたれっきとした国産車である。そして一度北米の土を踏んだ後に日本へ輸入されたクルマだから、当然ながら左ハンドル仕様である。常識で考えれば、日本の車は右ハンドルだから、それを基本に設計されていると思いこんでいる人は多い。しかし世界規模で考えなければならない大規模のメーカーとしては、全体数でみて輸出仕様である左ハンドル車の方が、圧倒的に仕向け数で勝る。だから基本的なレイアウト(たとえば排気の取りまわしとかブレーキの配管も含め)は左ハンドル仕様を想定して行い、しかる後にハンドルやペダル類を右に移す、という順番になることも多い。
そうした理由からフロア形状であるとか足元の余裕とか、細かな点を見ていくと、操作系は左ハンドルの方がむしろ自然であることが多く、排気管の取りまわしによっては、パワーやトルクに差がつく場合もある。だから日本車といえども、あるいは英国車であっても、“オリジナル”の左ハンドル車の方が乗りやすいケースもあるのだ。ただし、道路や駐車場などインフラは右ハンドルが前提だから、実際の場面では不便なことも多々ある。よって慣れない人にはお勧めできない。
また買ってみたくとも、修理やメンテナンスの点で不安を抱く人もあるだろう。例えば最近では、欧州車の中にも大物パーツに日本製を採用するメーカーも増えているが、日本での価格が1万円ぐらいのものでも、輸入車ということで逆輸入パーツとなって、数十万円という高額な出費を余儀なくされる例もある。メーカー間の取り決めで、直接日本では買えないからだ。その点で、このEX35ではそうした心配はなさそうである。取り扱う販売店はSTCという新規参入店ではあるが、会社の母体は横浜のトノックスという会社で、日産サファリのUN仕様の改装車を製造していたり、古くは初代シルビアを造っていたり、モーターショーに展示するショーカー制作を手掛けるなど、広く解釈すれば日産自動車の親戚筋のような会社だからである。
STCが掲げるEX35の基本価格は504万円と、内容を考えれば他の輸入車とくらべて割安な感じすらある。思うに北米市場向けは数の多さもあって、出荷価格からして安いのでないだろうか。STCは北米のディーラーから定価で買ってくるのだという。
「S」が強いSUV
さて、前置きが長くなってしまったが、インプレッションに入ろう。EX35は、一見大きくみえるSUVタイプのクルマではあるが、全長×全幅×全高が4630×1800×1535mmと、それほど大きくない。ボディの前半分はスカイラインで、後部を切り詰めてハッチバックにしたような成り立ちをもつ。エンジンはVQ35型で、297psの最高出力と35kgmの最大トルクを発生。車検証の重量は、前910kg、後810kgで計1720kg。見た目より軽量に仕上がっている。
パワー表示は北米仕様だからレギュラーガス指定である。アメリカで使う場合と比べると、日本の良質ガソリンによりパワーは若干増えるかもしれない。走り始めた第一印象は、「元気な車だなぁ」といったところで、SUVの「S」の文字が際立った印象であった。5段ATはパドルシフトこそ備わらないけれども、フロアのレバーによって「+」と「−」のマニュアル操作が可能で、Dから左に寄せて自動モードより早めに上のポジションに上げたくなる。この操作も右手で行うのが実に自然。足元が広々しているのもいい。サイドブレーキが足踏み式で、リリースする時はもう一度踏み足す方式ゆえか、左足での誤操作を嫌ってブレーキペダルはやや小さめに造られている。それもあって左足の置き場所にはまったく困らない。
ただし、このクルマはFRが基本(4WDも設定がある)ゆえにギアボックスの室内への張り出しが大きく、外観から想像されるより空間は狭い。特にリアシートは折り畳み式の構造ながら、シートクッションは厚めであり、センタートンネルは高い。よって、5人目の乗客は足の置き場所がなく、この場所は子供用と解釈すべきだろう。
ガチッとした剛性感
その反面、ハッチを開けて使う荷室は思いのほか広い。リアシートは運転席からでも荷室からでもスイッチひとつで倒したり起こしたりすることができる。そんな使い方を頻繁にするユーザーを想定して造ったのかもしれない。
サスペンションはまったくスカイラインゆずりで、日本車の中でもしっかりとした剛性感をもつ。北米市場ではドイツ車と真っ向勝負するクルマだし、彼らの評価もけっして劣ってはいない。むしろ上位にある。この辺は生まれの素性が影響する部分で、ドイツ車の方が動きは少なくストロークは限られるから、路面の悪いアメリカでは評価が高いのかもしれない。
パワステのラック&ピニオンについても、日本車のギア精度が高いのは周知の事実。しっとりした感触で余計なお世話もなく安心して操れる。左側に座っていることの違和感は、狭い道などで左折する際に、Aピラーやドアミラー部分の視界が妨げになることで、これには注意が必要。これは他の左ハンドル車にも言えることだから、普段から左ハンドル車に慣れている人ならば十分承知していることだろう。
期待外れだったのは燃費。今回は燃費計測のチャンスは1度しかなく、横浜市内と箱根往復の165.7kmの平均は4.1km/リッターであった。高速道路の走行率が低く、箱根の山坂の部分や湘南の渋滞が響いたのかもしれない。
日本車でありながら、日本車では得られない良い部分を味わえるインフィニティEX35。海外向けということで不便な点はあるが、そういうちょっとヘンな感じがするところも含め、ヒトがあまり乗っていないような変わり種のクルマが好きな人にとっては、魅力的に映るだろう。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
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笹目 二朗
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