第36回:豪華付録付き雑誌が熱い! シャウエッセンな誘惑? 新旧パンダまとめ売り!
2008.04.12 マッキナ あらモーダ!第36回:豪華付録付き雑誌が熱い! シャウエッセンな誘惑? 新旧パンダまとめ売り!
エディーコラ
イタリア生活に欠かせないものといえば、「エディーコラ」と呼ばれる新聞・雑誌スタンドである。なぜなら新聞の宅配が原則としてないからだ。みんな朝、仕事に行きがてら買ってゆく。リタイアしたおじいちゃんたちにとっては、仲間と出会う社交場になっていたりする。ちなみにこの国に夕刊はない。
エディーコラで面白いのは、「豪華付録付き、シリーズ雑誌」である。
レシピ帳+調理用お玉などは序の口。近年はゴージャス化が進んでいる。調理シリーズにはフライパンが、腕時計図鑑には本物の腕時計が、はたまたティーン雑誌の夏号にはビキニ水着が付いていたりする。
いっぽう冊子のほうは、逆におまけの感が年々強まっているので、内容にあまり期待してはいけない。
いずれにしても、そうした雑誌はエディーコラのアイキャッチとして効果的らしい。四季を通じて代わる代わる店の入口に吊るされる。
足を洗ったつもりが……
2月末のこと、近所のエディーコラに新聞を買いに行くと、「FIATストーリー」と題した付録つき雑誌が入口に吊るされていた。
こうしたミニカー付きシリーズ雑誌はイタリアでここ数年繰り返されている。とくに「フェラーリ」「カラビニエリ(軍警察)」「国家警察」といった企画は、もはや定番と化している。
「FIATストーリー」は、昨夏の新型「フィアット500」登場にあやかったものとみた。だがよく見ると、なんと新旧「フィアット・パンダ」の43分の1ミニカーが2台も付いているではないか。それも、前述の例を含む多くの付録がいずれも“それなり”の品であるのに対して、ミニカーはノレフ社のダイキャスト製である。発行元も有名なアシェット社のイタリア法人で、もちろんフィアットのライセンスを得た企画と記されている。すべて揃えると「トポリーノ」から「バルケッタ」まで11台になるらしい。
ボクはといえば数年前、ミニカー道から足を洗った身である。「へえー、フィアットもようやく、いいタイアップ考えるようになったじゃん」と口にしながら、いちどは店をあとにした。
しかし200メートルほど歩いてから、シリーズ第2巻目ゆえ9.99ユーロという戦略的価格が付けられていたのを思い出した。日本と同様、こうしたシリーズ物は、巻を追うにしたがって値段が上がってゆくが、最初の1、2巻は安く設定されているのが常だ。「安い号に付いている付録だけでいいよ」という人には、お得である。
加えて、今回は2台付きというのも捨て置けない。東京のスーパーマーケットで「シャウエッセン」やこつぶ納豆が束ねてあると、つい手にとってしまうボクだ。購買意欲がムラムラと沸いてきた。
幸い、財布の小銭をかき集めてみると10ユーロあることがわかった。ボクはその場で方向転換して再びエディーコラの扉を開けた。そして、さきほどの新聞の釣りを間違えたかと驚く店のお姉さんに頼んで、店頭に掛かっている「FIATストーリー」を下げてもらった。
ボクはパンダ2台を、我が家の本棚に飾っておくことにした。値段にかかわらず、よくできたミニカーは見ていてそれなりに楽しいものだ。
サインもらっちゃいました
その数日後、ボクはジュネーブショーに出発することになった。
そこで思いついたのはミニカーを「あのお方」に持って行ってサインしてもらうことである。あのお方とは、初代パンダをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロ(69歳)だ。
ただしよく見ると、前後のシングルワイパーや、当時のイタリア仕様車を忠実に再現した左側だけのサイドミラー、さらにこれまた現車そのままの落下しそうなマフラーなど、デリケートな部分が多い。
本来なら箱に入れて持ってゆくべきなのだろうが、ショーの取材は戦場である。少しでも身軽でないと困る。そこで台座から外し、梱包用のいわゆる「プチプチプッチン」でぐるぐる巻いてゆくことにした。スーツのポケットに入れると妙に膨らんで不恰好になったが仕方ない。
ジュネーブの会場に到着後、一番でイタルデザイン−ジウジアーロのスタンドを訪ねる。御大はどこかに行ってしまったようで見当たらなかった。
夕方にふたたび襲撃すると、ようやくジウジアーロ氏の姿を発見できた。
油性ペンとともにミニカーを差し出してサインをお願いすると、ジウジアーロ氏は、開口一番
「どこで買ったの?」とボクに聞いた。
ボクは「近所のエディーコラです」
と答えてから、ああウソでもいいから、ちゃんとしたミニカーショップで買ったと言えば良かったと後悔した。
しかしそんなボクの心配をよそに、ジウジアーロ氏はスラスラとルーフにサインしてくれた。
往復1400kmの「旅」をした初代パンダは、イタリアの我が家の本棚に戻った。
でもふと思いだしたのは、巨匠がペンを走らせながら、
「いいな、これ」
と満足げに眺めていたことだ。
そこで即座に「では、差し上げますッ」と贈呈してくればよかった……。
そういう空気が読めないから、ボクはいつまでたっても出世できないのだよ。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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