オーテックファクトリーカスタムカー試乗会【試乗記(後編)】
オーテックファクトリーカスタムカー試乗会(後編) 2008.04.11 試乗記 “ファクトリー・カスタム”を謳い文句に、母体である日産自動車では扱うことの難しい少数のスペシャルティ・ビークルを手がけるオーテックジャパン。日本のファミリーカーのボリュームゾーンはもはやミニバンという今の時代、カスタマイズのベースとしても、もはやこうしたモデルは外せない。痛し痒し/エルグランド・ライダーHPS
エルグランド・ライダーHPS(ハイ・パフォーマンス・スペック)(FR/5AT)
……515万5500円
オーテックジャパンが送り出すライダーシリーズの中にあって、その最高峰に位置するモデル。専用のバンパー/グリルでますます迫力を増したマスクをはじめ、エクステリアのドレスアップに加え、パワートレインやボディ、サスペンションにまで手を加えた。自称“最強のライダー”を謳う1台である。
ゴージャスさを演じるためか、ちょっとルーズに張られたレザーのドライバーズシートに腰をおろし、エンジンに火を入れる。が、四角いツインのテールパイプから吐き出される排気音は、ノーマル仕様との差が感じられないほどに大人しい。むろん、過度の喧しさは論外としても、コンピューターチューンに加え、吸気ポートの研磨までをやっているという“専用エンジン”を聴覚で実感し難いのはちょっと寂しい……。
2WD仕様の場合、ATのシフトプログラム変更に加えてファイナルギアの7%ほどのローギアード化も実施。が、それが仇になってか、スタート時の動きがどうしても飛び出し気味になるのは惜しい。「こちらには手は加えていない」というブレーキが何故かちょっと“カックン”気味なのとともに、日常シーンでスムーズな走りが難しい点には困惑した。一方、2000〜3000rpm付近のトルク感はなるほど1ランク上。かくして、ちょっと“痛し痒し”と思えるのがこのモデルだ。
スプリング/ダンパーの強化に20mmのローダウン、と足まわりにも手が入れられているものの、微舵応答が乏しく路面とのコンタクト感も希薄というあたりは、ベース車である現行エルグランドの限界か。乗員数によって重量変化が大きいミニバンならば、もうひと踏ん張りして電子制御の可変メカの採用を検討してもらってもバチは当たらないはずだ。舵がスローなのも今ひとつ気分ではない。あと1割くらい速いギア比を使ってもらえると、ベース車との違いが一層明確になりそうなのだが。
納得のチューニング/セレナ・ライダーHPS
セレナ・ライダーHPS(FF/CVT)
……365万850円
エルグランドの弟分たるセレナにも、エンジンチューンまでを施したモデルを設定。こちらのエンジンは、バルブタイミング/リフトの変更に圧縮比のアップまでが行われ、チューニング幅では数あるHPS車の中でも最大級だ。
そんなこのモデルの走りのテイストは、エルグランドよりさらにチューンドカーらしさが強いもの。そう感じさせる最たる要因は、実はパワーフィールよりも個性の強いフットワークのテイスト。かなりスパルタンに調教されたそれは、良くも悪くも「セレナでここまでやるか」と思わせるものなのだ。
走り出した瞬間に教えられるのは、路面への当たりがかなりハードでチョッピーな乗り味。舗装のつぎ目もビシバシと拾い、いかにも「チューンドカーに乗っている感」が強い。
正直、快適性ではベース車両に及ぶべくもないし、ピッチモーションが連続して前後荷重が終始変化をするゆえに、理屈上はハンドリングの性能でも課題を残す。が、それと引き換えに、一瞬で「他人とは異なるセレナに乗っている」というわかりやすさを手に入れた。そもそも、街なかに溢れる“普通のセレナ”では満足できないという人が選ぶのだから、これはこれでなるほど納得のチューニングなのだろう。
ただし、アップさせた動力性能に対してブレーキシステムが手付かずなのは納得し難い部分。下り坂でのちょっと高い速度からの高Gブレーキングで、たちまちフェード気味になってしまったのにはガッカリ。「保証はもちろん、車両開発にまつわる社内基準も日産車と同様が適用される」という現状では、ブレーキに手を加えるのは難しいのか? しかし、“ハイ・パフォーマンス・スペック”を謳うのであれば、やはり“止まる”部分の手当てもしっかり欲しい。
(文=河村康彦/写真=峰昌宏)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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