第32回:反則金はドライバー1人あたり年間7500円!
イタリアの道路は「風雲! たけし城」
2008.03.15
マッキナ あらモーダ!
第32回:反則金はドライバー1人あたり年間7500円! イタリアの道路は「風雲! たけし城」
国全体で379億円!
イタリア人ドライバーの交通反則金は、1人あたり年47.3ユーロ(約7500円)−こんな驚愕のデータが先日発表された。経済紙イルソーレ24オーレが、2008年2月25日に発表したものである。
それによると、イタリアで交通違反取り締まりにあたり全警察(市・国家・軍・財務の各警察)が2006年に徴収した反則金は、2億3700万ユーロ(約379億2000円)にのぼるという。冒頭の数字は、それをイタリア全国のドライバー数で割ったものだ。
さらに、都市部の交通を担当する市警察の反則金収入は、対2005年比でプラス16%、過去5年では76.3%ものプラスという。
イタリアは日本と比べ、相対的に反則金額が高額である。シートベルト着用義務違反で70〜280ユーロ(約1万1000〜4万4000円)、運転中の携帯電話は148ユーロ(約2万3000円)、40km/hオーバーで1450ユーロ(23万2000円)、60km/hオーバーでは2000ユーロ(32万円)の反則金が科せられる。
それにしても、前述の数字には驚く。
市民1人あたり反則金額が一番多かったのはフィレンツェである。その額117.1ユーロというから、約1万8000円である。以下ローマ、ミラノ、ナポリと続く。
フィレンツェの場合、市内に自動速度取締機を増設したことが、反則金収入増加の理由と説明している。調査期間に含まれていない昨年2007年も、フィレンツェではシートベルトやチャイルドシート未着用の摘発で、反則金収入は増加する見込みという。
たしかにイタリアの路上を見ていると、いまだドライバーの安全性に対する認識が浅いのに気づく。こちらの幼稚園や小学校は送り迎えが原則だが、チャイルドシートなしで乗せる親が多い。
またある取材先で「雑誌ですからベルトしてください」と頼んだら、「俺はイタリア人だぜ。そんなものはしねえよ」と言って笑われた。年齢では、若者よりもベルトが法制化されていなかった時代に免許を取ったお年寄りに、未装着者が多い。
また、自他ともに認めるお喋り好き国民ゆえか、携帯片手の運転も頻繁に見かける。取り締まりだけが交通安全の手段であるとは決して言わない。だが、こうした現状を毎日目にしていると、ある程度の取り締まり強化はやむを得ないとボクは考えている。
超「極短」黄色信号
一方で、反則金目当てともいえる行き過ぎた取り締まりが問題化しているのも事実だ。その一例として、昨2007年、ミラノ近郊のセグラーテという町で発覚した事件がある。
2006年に入って、多くの市民の家に次々と信号無視の反則キップが届くようになった。
訴えを受けた財務警察が調べたところ、市警察が黄信号の秒数を極端に短くし、監視カメラでナンバーを割り出していたことが判明。小さい町にもかかわらず、反則金収入はわずか数カ月で3万ユーロ(480万円)に達していたこともわかった。
この問題は全国に伝えられ、運輸大臣も苦言を呈するところとなった。そのため市警察は、黄信号の数秒を元に戻して監視カメラも撤去した。
監視カメラといえば、イタリアの大都市にはタクシー/バス専用レーンというのがあって、これも要注意だ。当該レーンを走ってしまった一般ドライバーは、カメラでナンバーが自動撮影され、自宅に反則金の振込用紙が送られてくる。
このシステム、外国人のみならず、他都市から来たイタリア人ドライバーも結構引っかかってしまうらしい。渋滞タイムにも妙にあいたレーンなので、つい走ってしまうのだ。
あるときミラノでレンタカー会社を営むおじさんは、「これ、見てヨ」と言って、書類の束を見せてくれた。
市警察からの反則キップである。仕方ないので、おじさんは仕事の合間に、違反したお客にそれを転送しているという。
ETCだけじゃダメよ
ボクの住むシエナの街は反則金収入ランキングにこそ現れないが、気をつけるべきというか不可解な交通ルールがあるので紹介しよう。
他の多くのイタリア都市同様、シエナの旧市街は住民のクルマのみ入れるエリアだ。住民は、以前はダッシュボード上に紙の通行許可証を掲示しておく決まりだった。それが8年ほど前から「テレパス」というイタリア版ETCを使ったシステムが導入され、住民には車載器が無料配布された。
逆に車載器のないクルマが進入すると、感知器と連動した監視カメラに撮影されてしまう仕組みだ。
そこまで聞いてボクは、「これで紙の許可証とも、おさらばだぜ!」と思った。
ところが、市警察は「従来の紙製許可証も今までどおり掲示しておかなければならない」というではないか。なぜなら、街を巡回する市警察官が、目視でチェックできないかららしい。車載器を装備しているか確認する端末がないのだ。
イタリアの小さな街に見られるように、街の入口に昇降式ポールを設置すれば、入ってくる前に部外車を止められるのだろう。だが交通量が多いシエナにそうしたゲートを作ることはできなかったようだ。いかにもイタリアらしい、見切り発車による市政の弊害である。
そのため、いまだボクのクルマもETCとは別に、街の外から帰るたびデカイ紙製通行許可証をダッシュボードに掲示している。
そして、うっかり掲示しておくのを忘れ、止められたり反則金を科せられるのではないかと、いつもビクビクしている。
拡大
|
一寸先はストロング金剛
話は飛ぶが、1980年代後半に日本で人気を博した番組「風雲! たけし城」が、イタリアでは「Takeshi's Castle」等の名前で、今も時折放映されている(あの名監督・北野武と同一人物だと知らない人も多い)。
イタリアの道は、たとえ基本的な安全運転マナーを順守していても、地方ごとのルールがあって、いつ反則金の対象になるかわからない。前述の「信号」のような不条理な仕掛けもある。
幸いにもボクは、イタリアで運転を始めて以来反則金の対象になったことはない。しかし知らない街に一歩入った途端、ストロング金剛や亜仁丸レスリーが待ち構える落とし穴が、一寸先にあるかもしれないのだ。
イタリアでの運転は、まさに「たけし城」感覚なのである。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
拡大
|

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第957回:伝説のベルトーネが復活 新経営陣が目指すブランドの未来 2026.4.16 イタリアを代表するカロッツェリア&デザイン開発会社だったベルトーネ。新たな資本のもとで再起を図る彼らが見据えたビジネスと、新生ベルトーネのクルマの特色とは? 温故知新で未来に臨む名門の取り組みを、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
第956回:どうする“(ほぼ)ランク外”のランチア 営業マンの吐露する真情とともに 2026.4.9 鳴り物入りで復活を遂げたはずのランチアが、まさかの大不振! 新型「イプシロン」が空振りした理由とは? 1906年創業の名門が、歴史を重んじる欧州でここまで苦戦する理由とは? 営業マンの声とともに、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第955回:イタリアでは事情が違う? ニュースにおける高級外車の“実名報道”を考える 2026.4.2 目立つから仕方ない? ベントレーやランボルギーニといった高級輸入車だけが、事故を起こすたびに“実名報道”されてしまう理由とは? この現象は日本固有のものなのか? イタリア在住の大矢アキオが、日本の事故報道におけるふとした疑問を掘り下げる。
-
第954回:イタリア式「走ったぶんだけ保険」奮闘記 2026.3.26 イタリア在住の大矢アキオが、マイカーの維持費を節約するべく走行距離連動型の自動車保険に挑戦! そこに待ち受けていた予想外のトラブルの数々とは? 保険にみるイタリアのお国柄と、2カ国生活者ならではの“あるある”な騒動をリポートする。
-
第953回:「黄金のGT-R」と宅配便ドライバーになりかけた話 2026.3.19 イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオが1年ぶりに日本を訪問。久々の東京に感じた世相の変化とは? 廃止されたKK線に、街を駆けるクルマの様相、百貨店のイベント。さまざまな景色を通じて、「中からは気づけないこの国の変化」をつづる。
-
NEW
ディフェンダー110 X-DYNAMIC HSE P300e(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.20試乗記本格クロスカントリービークルの「ディフェンダー」にプラグインハイブリッド車の「P300e」が登場。電気の力を借りて2リッターターボとしては格段にパワフルになった一方で、カタログ燃費はなかなか悲観的な数値を示している。果たしてその仕上がりは? -
NEW
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来
2026.4.20デイリーコラム2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。 -
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。 -
谷口信輝の新車試乗――ディフェンダー・オクタ編
2026.4.17webCG Moviesブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価は……? 動画でリポートします。