トヨタ・ヴィッツ 1.5I’LL (FF/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ヴィッツ 1.5I’LL (FF/CVT) 2007.12.17 試乗記 ……191万7300円総合評価……★★★★
マイナーチェンジで外観の意匠変更と、装備の充実により快適性が高められた「トヨタ・ヴィッツ」。1.5リッターモデルでその使い勝手を試す。
そつのないコンパクト
たとえば、おとなりの奥さんに、「小さくて使いやすいクルマを買うなら、オススメは?」と聞かれて、安心して名前を挙げられるのが「ヴィッツ」である。クルマ好きが相手なら輸入車を勧めるかもしれないけれど、ふつうの人がふだん使うクルマをリーズナブルな価格で手に入れるなら、やはり日本車がいいだろう。
なかでもヴィッツは、癖のない乗り味に、優れた燃費、街なかはもちろん高速も安心・快適に走行できる実力の持ち主であり、加えて、かゆいところに手が届く数々の便利な機能を備えるなど、総合点が高いのがオススメの理由。さらに、運転席・助手席エアバッグに加えて、サイドエアバッグや前後カーテンシールドエアバッグを、価格競争が厳しいこのクラスでも標準化した点は見逃せない。
面白みには欠けるかもしれないが、多くの人が不満なく乗れる実用車。最大のライバルであるフィットとの“2強時代”はしばらく続きそうである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1999年1月に誕生したトヨタの世界戦略コンパクトカー。国内市場では「カローラ」に次ぐ量販モデルであり、ヨーロッパでも「ヤリス」の名で広く浸透してきた。2005年2月にフルモデルチェンジされ、5ドアのみとなった。プラットフォームは新開発。広い室内と走行性能の向上を実現するため、ホイールベースとトレッドが拡大され、先代比で幅は35mm広く、全長は110mm、ホイールベースは90mm長くなった。
エンジンは1リッター、1.3リッターと、1.5リッターの3種類で、トランスミッションは、FFがCVT、4WDは4段ATが基本。スポーティグレード「RS」には、5段MTが設定される。
2007年8月のマイナーチェンジで、外装の意匠変更と装備の充実が図られ、ターンランプ付きのドアミラーや、前席サイドエアバッグ&全席カーテンシールドエアバッグが全車標準装備となった。また、一部グレードで新開発の「快適温熱シート(運転席)」が採用された。
(グレード概要)
グレードは、下から「U」「F」「B」、1.3、1.5リッターは「B」の代りに「I'LL」と「RS」がラインナップされる。
テスト車は1.5の「I’LL」。専用のフロントグリルやリアエンブレムに、内装では本革&スエード調ファブリックのシートや本革巻きステアリングホイール&シフトノブなどが備わる。8月のマイチェンで前席に「快適温熱シート」が採用されたのもこのグレード。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
ブラウンのダッシュボードにベージュのシートという、暖かい色でまとめられた「I'LL」のインテリア。ダッシュボードの表面は縮緬状のシボではなく、小さなひし形を波のように並べたデザインで、カジュアルな雰囲気を出しながらも、安っぽく感じさせないのが上手い。
メーター類がダッシュ上の中央に配置されるのはいつもどおり。文字盤がドライバーに向けられていないので、遠くにある回転計がやや見にくいが、このクルマを運転するときにエンジン回転を気にする人は少数派かもしれない。ドライバーの正面には、助手席同様、蓋付きの大きな収納スペースが置かれ、他にもドリンクホルダーや小物入れなどがあって、収納には困らない。
(前席)……★★★★
本革とスウェード調生地のコンビシートはちょっとリッチな気分。ステアリングホイールやシフトレバーも本革巻きと、身体に触れる部分の素材が上質なのはうれしい。シート自体には厚みがあり、表面の張りも適度で、身体をしっかり支えてくれる。ポジション調整は、スライド、リクライン、リフトともに手動だが、チルト&テレスコピック調節付きのステアリングのおかげもあり、適切な姿勢をとることができた。
運転席には新開発の「快適温熱シート」が標準で装着される。温度調整は2段階で、“Low”ならシートバックの狭い部分だけ、“Hi”ならシートバックとシートクッションの広範囲を加熱してくれて、冬場だけでなく、冷房を使う夏場でも重宝しそうだ。できれば助手席にもほしい機能である。そしてI'LLの助手席は“買い物アシストシート”と呼ばれるもので、シート前端のガードを上げるとシート上に置いた手荷物が前に落ちにくいのは助かる。
(後席)……★★★
ボディサイズはコンパクトでも、後席には大人が乗っても不満のないスペースが確保されている。爪先は前席下に難なく収まり、膝まわりも余裕があって窮屈さとは無縁。シートバックはコンパクトカーにありがちな平板さがなく、リクラインとスライド機構が備わるのも、楽な姿勢をとるのに役立つ。そのわりに少し圧迫感を覚えたのは、サイドウインドーが上にいくにつれて乗員の顔に迫るのと、前席のヘッドレストが前方の視界を遮るからだろうか?
移動中は、前席に比べてボディの上下動を意識することになるが、長時間乗せられても嫌にならないレベルである。サイド/カーテンエアバッグの標準化が進むトヨタなのに、中央席にヘッドレストと3点式シートベルトが備わらないのは疑問。
(荷室)……★★★★
一見狭く感じるラゲッジスペースだが、それは後席を“チルトダウン格納”したときにフロアがフラットになるよう、ラゲッジをフロアボードで“かさ上げ”しているためで、実際はボディサイズ相応の荷室が確保されている。フロアボード下は深さ12cmほどの収納スペースになっていて、リアパーセルシェルフのないこのクルマでは外から見られたくないものをしまっておくのに便利。
後席をチルトダウン格納する際、シートを前にスライドした状態で倒したほうが奥行きが広くなるが、そうするとフロアボードと後席とのあいだに隙間ができてしまう。それをカバーするのが“デッキボード”で、便利なうえに見た目の印象もいい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
試乗車に載るのは、ヴィッツのなかでは最もパワフルな1.5リッターエンジンで、最高出力110ps、最大トルク14.4kgmの実力は、コンパクトカーには過ぎた性能だ。CVTが組み合わされるが、走り出しは意外にジェントルで、スッとエンジン回転が上がるCVTっぽさが薄められていて、知らない人はふつうのオートマチックと間違えるかもしれない。もちろん、CVTならではのスムーズさは健在で、急加速が必要なときにはエンジンを4000rpm以上の高回転に保ち、素早くスピードを上げていくから、日本の道路環境なら力不足は感じずにすむだろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
見た目によらず(!?)、一般道から高速まで、比較的落ち着いた乗り味を示すヴィッツ。サスペンションのセッティングはやや硬めだが、硬すぎるほどではなく、十分に快適な乗り心地を保っている。ただ、オプションで装着された185/60R15のタイヤが、比較的スポーティなキャラクターの持ち主だったこともあって、多少ゴツゴツとした感触を伝え、ハーシュネスの遮断もいまひとつだったのが惜しい。クルマの性格にあわせて、もう少し快適指向のタイヤをチョイスしてほしい。
ハンドリングは安定志向で、高速走行時の安定性も抜群。コーナーでもとくに軽快な感じはしないが、このクルマの評価を落とすものではない。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2007年10月3日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:1348km
タイヤ:(前)185/60R15(後)同じ(いずれも、ダンロップ SP スポーツ2030)
オプション装備:185/60R15 5.5Jアルミホイール(6万3000円)/ヘッドランプディスチャージ(4万7250円)/HDDナビゲーションシステム(25万9350円)/ETCユニット(1万4700円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(8):山岳路(1)
テスト距離:536.2km
使用燃料:37.24リッター
参考燃費:14.39km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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