トヨタ・パッソTRDスポーツM(FF/5MT)/ヴィッツTRDターボM(FF/5MT)【試乗記】
侮れない 2007.11.15 試乗記 トヨタ・パッソTRDスポーツM(FF/5MT)/ヴィッツTRDターボM(FF/5MT)……217万8255円/303万2400円
トヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」と「パッソ」ベースのカスタマイズカーに試乗。専用パーツ&サスペンションなどを備えた「TRD」モデルの面白さとは。
安心のチューニングカー
一般に市販されている量販車は、あらゆるニーズに応えられるように間口が広く設定されている。その使用範囲を限定して、ある分野の性能に特化したのがチューニングカーだ。チューンの程度にもよるが、ベース車両の倍以上のコストを要することもありうるほど、この分野も追求していくと奥が深い。
しかしそこまで徹底しなくとも、実用性を犠牲にせず、ちょっとイジッた軽いチューンを施したモデルは魅力的な存在だ。それもメーカー直結の、正体を知り尽くした連中の手にかかった準量産車となれば、クレームなども含めて安心できるクルマであることは間違いない。
ここに紹介するのは、トヨタ直系のレース部門も統括する「TRD」の製品で、ベース車両は「ヴィッツ」と「パッソ」。お馴染みの可愛らしいモデルということで、それがどうしてなかなか侮りがたい性能を発揮するとなれば、素知らぬ顔で市井に紛れ込むのも粋ではある。さらにオプション込みで300万円にも達する(ヴィッツTRDターボM)内容を知れば、安価なヨーロッパ製小型車より高額を投資している自尊心も満足させてくれるはずだ。
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自分の意思で操る楽しさ
パッソもヴィッツも、実はATで乗る標準仕様でも決して遅いクルマではない。キックダウンを使ってスロットルを開ければ、一般の流れをリードできるのも事実である。
TRDがライトチューンのエンジンレスポンスをより楽しめるように設定したのはMTだ。簡単で安直な現代のATはたしかによくできている。それだけにクルマに乗せられている間接感も強く、自分の意思で走らせている感触には乏しい。
片手片足で動かせる怠惰な運転法は、注意力さえ散漫になりがちだ。両手両足をフル稼働して5MTを操れば、コレ自体がスポーツでもあるし、長距離ドライブでは睡魔とも縁遠くなる。やはりエンジンと直結している感触は、ちょっとしたスロットルの踏み込み加減やオン・オフによる挙動が、自分で操縦している実感をもたらす。クラッチを切れば、動力がハッキリ断たれることも、曖昧な繋がりでズルズル動きだすことを嫌う性格の人にとっては捨てがたい特性だ。
サイドブレーキがレバー式になる点もMT仕様のいいところ。ジムカーナなどでサイドブレーキを引いて小さく回るクイックターンを好む向きには、必須の武器だ。
「パッソTRD」と「ヴィッツTRD」の違いは、パッソのほうが1.3リッターNAで98ps、ヴィッツTRDの方はターボ過給と排気量が少し大きい1.5リッターで150psにチューンされているところ。しかし、車両重量はパッソは925kgと軽く、ヴィッツは1070kgとかなり重いので、時間に対しての到達速度のような、感覚的な速さは同じように感じる。
全体に身軽なのはパッソで、NAらしい素直なトルクの立ち上がりが感じられ、スロットルの踏み込み速度に加速の期待Gが順応する。ヴィッツは過給圧の盛り上がる4000−5000rpmあたりが面白く、トップエンドまで回す意味は薄い。よってギアポジションを適宜選んでやれば、スロットルをバタバタ煽らなくとも、速度変化は本来の意味である変速機に頼る面白さがある。
どちらかを選ぶなら……
ギアレシオは若干異なり、パッソはダイハツのオリジナルをそのまま使用しているようだが、ヴィッツは1-2速がまだ少し離れているものの、2-3-4-5速はクロースしており、エンジン回転を大きく変えずにギアボックスを掻き回す楽しみは大きい。
いずれも街なかや山道の屈折路での使用に適した、実用域で使いやすいチューンが好ましい。クラッチ踏力も軽く、これなら渋滞走行でも足が疲れることはないだろう。
サスペンションは若干硬められ車高も低くされているが、乗り心地に悪影響がない範囲なので安心。むしろしっかりしたダンピングの良さが、無用に煽ることを抑制してくれる。
乗り心地に関してはヴィッツのほうが重い分だけ落ち着きがある。車高が低められた点は少し注意が必要。コンクリートの車止めの中にはチンスポより高いものもある。でも、多少路面に気を遣いながら乗るのも、クルマを労って大切に扱う習慣が身につくものだ。
短時間ながら2台を乗り比べてみて、どちらがイイか択一を迫られれば、筆者はパッソTRDを選ぶ。ヴィッツTRDは、スタイリングが魅力ながらボディ・サイズのわりにちょっと重すぎる。パッソのほうが軽快で、カワイイなりにちょっとワルぶったお化粧も似合っているような気がする。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)
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