ポルシェ・カイエンHV(4WD/6AT)【海外試乗記】
ポルシェも2桁燃費を 2007.10.19 試乗記 ポルシェ・カイエンHV(4WD/6AT)ついにポルシェも環境対策!! 「カイエン」のハイブリッドモデルで、ポルシェ最新のハイブリッドテクノロジーを試す。
ポルシェのハイブリッド
スポーツカーにSUV――まずは「プレミアムな走りのパフォーマンス」が必要とされるそんなクルマたちに、ネンピの話なんぞは関係ない……と、そうした能天気なことを言っていられた時代は、どうやら過ぎ去ってしまったようだ。
このところ世界を襲う異常熱波や干ばつ、集中豪雨などの原因が地球の温暖化と無縁ではなく、そしてその主因が人類が生活するのに伴って排出されるCO2をはじめとした温暖化ガスにあると国際的にも“ほぼ断定”をされるに至った現在、動力源を内燃機関に頼る自動車はそれがどのようなカテゴリーに属するものであろうとも、早急なるCO2の削減という課題に取り組まざるを得ないのだ。
「スポーツカーとSUVの専売メーカー」であるポルシェ社にも、そうした時代の要請の波はもちろん容赦なく襲いかかってくる。ヨーロッパの主要メーカーは多種のディーゼル・エンジンを自らのパワーユニット・ラインナップに用意し、それらが「熱効率に優れる=低燃費を実現」とアピール。CO2削減問題の重要な切り札としている。
しかし、ポルシェではこの手は使えない。「4000rpm以上の伸び感が魅力に欠けるディーゼルエンジンは、ポルシェ車の心臓には相応しくない」という理由から、Dr.ヴェンデリン・ヴィーデキング社長自ら、カイエン発表の場でディーゼルエンジン搭載の可能性を否定。そうしたスタンスは現在でも変わることはない。
ならば、ガソリンハイブリッドはポルシェ車に相応しいパワーフィールを生み出してくれるのか? という問いに、「YES!」と力強い声を開発担当役員の口から直接聞いたのはその数年後。時代の流れを鑑みれば、ポルシェにとってハイブリッド・テクノロジーの採用は“必然”だったのかもしれない。
「カイエン」と「ハリアー」
そんなポルシェが用いるハイブリッド・テクノロジーのほぼ全容が明らかにされたのは、2007年7月に同社の開発拠点であるバイザッハ開発センターで開催された「テクノロジー・ワークショップ」でのこと。かなりの台数による公道テストが行われていた「カイエンハイブリッド」が、このイベントの題材になった。
当初は、「トヨタの協力を仰いで開発を行うのではないか?」とウワサされたポルシェのハイブリッドだが、何らか(金額面?)の折り合いが付かなかったらしい。そのハナシはご破算。結局、グループ企業であるフォルクスワーゲン/アウディと3社での共同開発を行うことに。
ポルシェ・カイエンで使われるハイブリッド・ソリューションは、フォルクスワーゲンでは「トゥアレグ」、アウディでは「Q7」に搭載されて、いずれ陽の目を見ると予想される。
注目のシステム概要は、コンパクトなモーター1個とクラッチ1組から構成される「ハイブリッド・モジュール」を、V6直噴エンジンと6段ATという既存のパワーパックの同軸上に挟み込む、というもの。ラゲッジスペース容量に影響しないよう、スペアタイヤ・パンの中に搭載されるバッテリーは、「グループ内の約束事でまだサプライヤーは発表できない」とはいうものの、288Vのニッケル水素式で出力38kW、容量6Ah……といったスペックが、トヨタの「ハリアーハイブリッド」が搭載するパナソニックEVエナジー製のそれに酷似する……。
トヨタ方式とは違う
パッセンジャー・シートでの“同乗試乗”、及びシャシーダイナモ上での“テストドライブ”での印象は、すでに身体に馴染んだトヨタのフルハイブリッド方式に比べ、どのようなシーンでも「電気自動車度が薄いナ」というもの。厚みが120mmに留まり、そうしたコンパクトさゆえに既存のエンジン・マウント位置を変更する必要がないという搭載性の高さが売り物であるこのシステムは、一方でそうしたスペース上の制約のため大容量のモーターを使えないというのがウィークポイントである。
実際、カイエンハイブリッド用モーター出力の34kWというデータは、ハリアーハイブリッド用フロントモーターの123kWと比較しても1/4強に過ぎない。ただしハリアーの出力は、最大650Vまでの昇圧回路を用いた高回転化という手法によって稼がれている。モーター自体は小型であるため、最大トルクの333Nmという数値はカイエンの285Nmと大差ない。
いずれにしても、「単純システムで効率的な燃費サポートを行う」というのがカイエンハイブリッドの考え方。電気モーターの力を用いて、これまでの“エンジン車”では演じられなかった走りのテイストを提供しようという2モーターのトヨタ方式とは、そもそもハイブリッド・システムを用いる考え方が異なっている。
市販車モデルは2010年
モーターによって発生するクリープ力から、アクセルペダルを踏み込んで本格的な加速シーンに移る段階のスムーズなエンジン始動は、現段階でもまだ開発の課題として残されている。120km/hまでの速度であれば可能という、走行中のエンジン停止状態からの再始動は、タコメーターの動きを追っていないとそれに気づかないほどの滑らかさを実現している。
ただ、静止中からのスタートシーンではたしかに時にやや大きめのショックが気になる場面があった。通常のATを用いるので、エンジン回転数と車速の伸びのリンクに不自然さはない。このあたりのフィーリングは「ポルシェのハイブリッド」として譲れない部分だろう。
ちなみに、アイドリング・ストップを行うゆえエアコンやパワーステアリング、ブレーキブースター用バキュームの動力源も電動化。もっともパワーステアリングに関してはフル電動(EPS)ではなく、モーターによって生み出された油圧を用いる電動油圧式を採用。「フル電動式では必要なアシストパワーが得られないため」というのが担当エンジニア氏のコメント。ポルシェのことだけに、「EPSではフィーリング的にまだ満足できるものが仕上がらない」という理由も十分考えられる。
「0-100km/h加速では、ガソリン・モデル以上のタイムをマークする」とスピード性能にも長けていることが強調されるカイエンハイブリッド。燃費性能は、同じ3.6リッター直噴V6エンジンを搭載した現在の市販モデルに対し、新欧州走行モード(NEDC)では23%の低減となる9.9リッター/100km。ただし、これはプロトタイプ段階のもので、実際の市販時までには8.9リッター/100km(11.2km/リッター)をものにしたいという。「カイエンでも2桁ネンピの時代」というわけだ。
そんなカイエンハイブリッドは、2010年までの一般市販を予定しているという。すなわち、ぼくらが実際の市販バージョンに対面できるのは、カイエンそのものがフルモデルチェンジした、次世代モデルになってからになりそうである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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