マセラティ・グラントゥリズモ(FR/6AT)【海外試乗記(後編)】
進化がとまらない(後編) 2007.09.26 試乗記 マセラティ・グラントゥリズモ(FR/6AT)マセラティの新型スポーツクーペ「グラントゥリズモ」に試乗。間もなく日本上陸となるニューモデルの実力はいかに。
これぞマセラティ
ピエトロ・フルアの手になるミストラル。ジウジアーロがチーフスタイリストだった時代のギアが生んだ初代ギブリ。60年代のマセラティの黄金期を牽引したのは、高性能で優雅なGTだった。
ここに紹介する「グラントゥリズモ」が、その精神を受け継ぐ正統的後継車であることはいうまでもない。スーパースポーツカー並みのパフォ−マンスを持ち、したがってドライビングが楽しめるうえ、快適さや機能性にも妥協がない。美しくなければならないことはもちろんだ。
トライデントの伝統を1953年型の「A6GCS」から、フューチャリスティックなデザインエレメントを2006年のジュネーブショーでデビューしたコンセプトカー「バードケージ75th」から採り入れたというスタイリングを担当したのは、もちろんピニンファリーナ。圧倒的な存在感とサイズを誇るコンケーブ(凹面)形状のグリルが、ボローニャに生まれモデナで育ったこのブランドの輝かしい歴史を象徴している。と同時に、あたかもポンツーンフェンダーのように盛り上がった力感溢れる抑揚が、ダイナミズムを暗示してもいる。フロントエンジン−リアドライブの古典的クーペのプロファイルを現代的に見せるのは、やはり全長に占めるホイールベース(2942mm)の割合が高いことも一因だろう。
伝統のユニット
そのアウタースキンの下に納まるプラットフォームとメカニカル・コンポーネンツは、基本的にクアトロポルテ・オートマチックの流用と考えればいい。したがってボア・ストローク92×79.8mmによる4244cc、チェーン駆動のDOHC32バルブ90度V8(可変バルブタイミング機構付)の潤滑系統はドライサンプではなくウェットサンプとなる。ただしファインチューンが施され、最高出力は405ps/7100rpmへと5psの上乗せに成功。しかしその反面トルクは最大値こそ47kgmと同一ながら、発生回転数が500rpmほど高い4750rpmへとシフトした。
このパワーユニットと組み合わせられるギアボックスがZF製6段ATであることはいうまでもない。当然トランスアクスル方式は採らず、トルクコバーターと共にエンジン直後に搭載されている。いうまでもなくマニュアルモードも備わり、ステアリングコラムから生えるパドルでも、センターコンソールから延びるセレクターでも操作できる。
クアトロポルテに比べてホイールベースもリア・オーバーハングも短い(-125mm/-66mm)ので、ややフロントヘビーなのかと予想していたが、前後重量配分は依然49:51のままだという。
車重は1880kg。クアトロポルテより絶対的なサイズが小さい分110kg軽く、0-100km/h加速は5.6秒から5.2秒へ、最高速は270km/hから285km/hへと、パフォーマンスはそれぞれ向上している。
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名は体をあらわす
率直に言おう。マセラティはクアトロポルテ・オートマチックから、プライスレンジに恥じないだけのラグジュアリーさを身につけた。乗り心地はハーシュネスの遮断に優れたマイルドかつスムーズなものになり、静粛性も飛躍的に高まった。あの感覚中枢に直接訴えかけるフェラーリサウンドが聴けないことが、逆に寂しく感じられることさえあるほどだ。だがその全体に落ち着いた物腰は、乗っていてやはり高級感が高い。
新しいグラントゥリズモのドライブフィールも、その延長線上にある。いつでも大袈裟な身振り手振りを交えながら大声で話すのではなく、普段は抑制が効き、それでも芯には熱い血を秘めた、まるで北イタリア人そのままのような個性の持ち主といえるだろう。
たとえば市街地や一般道ではエンジン音、ロードノイズ共に耳に届くのは最小限のボリュームにとどめられ、快適なことこの上ない。そのうえ乗り心地も秀逸で、ハーシュネスを巧妙に抑え込んでくれる。こんな場面で唯一の不満は3500rpm以下の実用域で、若干とはいえトルク不足を感じることだ。特に早々にシフトアップしてしまうノーマルモードではこの傾向が目立ち、期待するほどには加速してくれない場面もあった。
進化して得た“両立”
しかしひと度レヴカウンターの針が本来の実力を発揮し始める4000rpmに近づくと、俄然活気づくのもまた事実。デッドスムーズなままトルクが厚みを増すのが手に取るようにわかり、7000rpmオーバーのレヴリミット(7500rpm〜イエロー、8000rpm〜レッドだが、実際にはもっと早くシフトアップする)に向け軽々と吹け上がっていく。
だから2速トップエンドや3速で回る中速コーナーは最も得意とするところ。限界付近にまで追い込む機会は残念ながら一度もなかったが、経験した範囲内では俊敏さとスタビリティを両立したフットワークは万全の信頼を置けるもので、ドライビングを心から楽しめた。
ワインディングロードを舞台にもうひとつ感心したのは、スポーツモードを選んだ際の6段ATのマナーの良さだ。タイトコーナーへ向けてブレーキングを開始していくと、まさに絶妙のタイミングで自動的にシフトダウンしてくれる。前述したように、スカイフック・サスペンションは引き締まった感触を伝えるが、さりとて乗り心地が不快というほど悪化することもないから、比較的速いペースが保てる区間ではほとんどをスポーツモードで走った。
高性能でありながら扱いやすく、安楽でありながらドライビング・プレジャーも得られる。尖がり過ぎず、さりとて冷たすぎない。マセラティの新型は、まさにグラントゥリズモというその名に相応しい性格を持っている。
この極めて魅惑的なフル4シーターは、2007年10月の東京モーターショーを舞台に日本市場に正式発表される。インポーターのコーンズによれば、まだ価格は発表できる段階ではないが、現段階ではベースプライスが1500〜1600万円の間に落ち着く予定という。
フェラーリ傘下に入り、マセラティは劇的に生まれ変わった。そして今また第2フェーズに突入したともいえるほど進化が著しい。最新のマセラティの真の実力の高さが知りたいなら、ぜひこのグラントリズモに乗るべきだ。
(文=NAVI加藤哲也/写真=Roberto Carrer/『NAVI』2007年9月号)

加藤 哲也
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