マセラティ・グラントゥリズモ(FR/6AT)【海外試乗記(前編)】
進化がとまらない(前編) 2007.09.24 試乗記 マセラティ・グラントゥリズモ(FR/6AT)2007年3月のジュネーブショーで発表された、マセラティの4シータースポーツカー「マセラティ・グラントゥリズモ」。405psのニューモデルにイタリアで試乗した。
寒いドロミテ、熱いコクピット
ドロミテ連峰。イタリア−オーストリア国境にほど近いPasso Sella(セラ峠)は7月とは思えないほど凍えていた。さっきまで厚い雲に遮られてきた太陽は今しがたやっと姿を見せ始めたものの、気温たったの2度。道を一歩外れた斜面はまだ雪に覆われ、その白さに反射する光の乱舞が目に痛い。それもそのはず、ここは標高2200mを優に超える高地。吐く息が白いのはむしろ当然のことなのだ。
しかしコクピットの中の僕はむしろ上気していた。快適なフルオートエアコンのせいばかりじゃない。ペアを組んだ『ルボラン』誌小野泰治副編集長からステアリングを譲ってもらったばかりだというのに、カメラマンの求めに応じて撮影のため同じコーナーを何度か往復するうち、「グラントゥリズモ」のたしかな実力と魅力にすっかり心奪われてしまったからだ。
ヨーロッパはすでにバカンスシーズンの幕が上がっている。セラ峠はイタリア国内はもとより、隣接するオーストリアやドイツを中心に、ヨーロッパ中から観光客が押し寄せる人気スポット。厳しい断崖の岩肌が迫る圧倒的に美しい風景の中に身を置くと、さもありなんと思う。だから必然的に交通量は多い。しかも朝方まで降り続いていた雨のせいで、路面はまだ濡れている。405psを誇る4.2リッターV8の持てる実力を存分に発揮できる場面では決してない。他のクルマが絡まないタイミングを見計らって行うタイトベンドでのコーナリング撮影も、単なる瞬間芸といえるだろう。
しかしそれでもグラントゥリズモは、たしかな足取りと十二分なパワーのバランス、そして情感に訴えかけるキレの良さを覗かせ、アッという間に僕を魅了してみせたのだった。
マセラティの主張
オーバーオールサイズは4881×1847×1353mm。長さはライバルと目される「メルセデス・ベンツCL」と「BMW6シリーズ」の中間、幅は3車種の中で最も狭く、高さだって低い。だがドライバーズシートに着いて運転という行為に積極的にコミットしはじめると、そんな現実の数字以上に一体感を覚えるから不思議だ。
トレッドが広く(前:1586mm/後:1590mm)重心高が低いせいもあるのだろう、絶対的なマスの大きさを感じさせないまま、タイトコーナーの連続に身を翻すように飛び込んでいく。ステアリングワークに対してクイックかつ正確な反応を示し、オプションのザックス製スカイフックシステムを装備した前後ダブルウィッシュボーン・サスペンションは、4輪からのインフォーメーションを豊富に伝えてくれる。むろん低いギアでフルパワーを与えれば、ウェット路面でリアタイヤのグリップを失わせるなど簡単至極。
ノーマル/スポーツ/MSPオフ/アイスという4種類のドライブモードが用意されるうちスポーツを選んでおけば、可変ダンパーが締め上げられてハンドリングがクイックになると同時に、MSP(Maserati Stability Program)の介入が遅れ、一瞬のテールアウトを許す。とはいっても最新のフェラーリほど派手な挙動変化を招くわけではなく、かといってお節介に過ぎない程度で姿勢を矯正してくれるため、よりリスクが少ないスポーツドライビングが楽しめるのだ。
実用性と安楽さも意識したエレガントかつアグレッシブな高性能GT。前夜行われたプレスカンファレンスでマセラティが主張したこのグラントゥリズモのコンセプトが高次元で実現されていることは、この短い時間でも手に取るようにわかった。(後編へつづく)
(文=NAVI加藤哲也/写真=Roberto Carrer/『NAVI』2007年9月号)

加藤 哲也
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