第22回:クルマを停めて「男の生き方」を学ぼう − 素晴らしきガレージ映画(?)のDVD
2012.02.28 読んでますカー、観てますカー第22回:クルマを停めて「男の生き方」を学ぼう素晴らしきガレージ映画(?)のDVD
50年代の名車がクラッシュしまくり
ある編集部から、ハッピーなガレージが登場する映画を集めて紹介してほしいと頼まれた。軽い気持ちで引き受けたのだが、これがなかなか見つからない。記憶の中では登場人物が友人たちと楽しく過ごしていたガレージが、見直してみるとただのつまらない地下室だったりする。
『60セカンズ』や『ワイルド・スピード』では魅力的なクルマを整備する場面が重要なシーンとなっているが、あれはガレージというより工場だ。『サイドカーに犬』の舞台は中古車屋だったな。「フォルクスワーゲン・バス(タイプII)」で旅をする『リトル・ミス・サンシャイン』は、いきなりクルマが走っているシーンになってしまう。『ラースと、その彼女』の主人公はガレージを改造した部屋に住んでいるが、クルマは置いてなくて、代わりにあるのはダッチワイフだ。
そんなわけで企画は実現しなかったのだが、“ハッピー”という要素を外せば、実に魅力的なガレージ映画が存在することに気づいた。せっかくなので、よりすぐりの3本を紹介しよう。ペシミスティックな世界観ということでは最右翼なのが『渚にて』である。核戦争による世界の終末を描いたこの映画は、同時に超エンスー映画としても知られている。
ネヴィル・シュートの小説を原作に1959年に作られたこの映画は近未来(1964年!)を描いていて、第三次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)して放射能汚染が広がり北半球が全滅したという設定だ。米ソが競って核実験を繰り返していた当時は、核戦争で世界が滅びるという事態はかなりリアリティーがあったらしい。実際、1962年にキューバ危機が発生し、人類は破滅寸前まで行ったのだ。辛うじて滅亡は免れたものの、その後も“核の平和利用”が推し進められた結果が昨年の惨事だったわけだが、それはまた別の話だ。
母港を失ったアメリカの原子力潜水艦が、オーストラリアのメルボルンに入港する。そこではわずかに人類が生き残っていたが、死の灰は南半球にも近づきつつあった。絶望が蔓延(まんえん)する中、自動車レースが開かれる。当然ながら、出走するクルマのラインナップは50年代の名車ばかりだ。ちょっと見ただけでも、「ジャガーDタイプ」「ポルシェ356」「メルセデス・ベンツ300SL」「MG TD」などがサーキットを駆け回っているのがわかる。
みんなもうすぐ死ぬことがわかってヤケになっているから、ドライビングは超アグレッシブだ。スピンして接触し、コースアウトして派手に転がり、クラッシュが続発するめちゃめちゃな荒れた展開となる。サバイバルレースで優勝したのは、「フェラーリ750モンツァ」に乗る原子物理学者のジュリアン(フレッド・アステア)だった。しかし、彼も自分の命がまもなく絶たれることを熟知していて、愛車とともにガレージで最後の時を迎えることを選ぶ。それが悲劇であることは間違いないが、クルマ好きにとってはたまらなく甘美な光景に見えてしまうのも確かなのだ。
サバイバル基地としてのガレージ
終末ものを、もう1本。リチャード・マシスンの小説をもとにした1964年の映画『地球最後の男』である。ゾンビ映画の元祖とも言える古典的作品だ。こちらは核戦争ではなく、謎の伝染病によって人類がみんな吸血鬼になってしまった世界だ。主人公のモーガン(ヴィンセント・プライス)が地球上で唯一の人間となり、孤独な戦いを続けている。
吸血鬼たちが活動する夜が終わると、モーガンはいつもの作業にとりかかる。家のまわりに転がっている吸血鬼の死骸を集め、町外れまで捨てにいくのだ。ガレージにあるのは、「シボレー210」のステーションワゴンである。実用性を優先してクルマ選びをした結果だ。
モーガンは戻るのが遅れ、帰宅が夕刻になってしまう。日が陰っているから、すでに吸血鬼が家のまわりに集まってきている。ガレージにクルマを入れることができず、命からがら家に転がり込むことになってしまった。吸血鬼たちにシボレー210を破壊され、翌朝街に新たなクルマを探しに出掛けるのだが、無人のショールームではどんなモデルも選び放題だ。でも、そこでこんな独白をする。
「オープンカーも格好いいが見た目は関係ない。クルマに凝っていた時期もあったが、今必要なのは霊柩車(れいきゅうしゃ)代わりのワゴン車だ」
至極もっともである。今なら、SUVも選択肢に入れていいだろう。
モーガンにとって、ガレージは生命をつなぐための基地だ。クルマがなければ、外の世界には出られない。ガソリンで発電を行い、吸血鬼撃退のためのニンニクの飾りやトドメ用のくいを製作する場所でもある。楽しいスペースではないが、最重要な場所なのだ。
この映画は後に2回リメイクされている。時代の変遷によるクルマの違いを比べてみるのも一興だろう。ただし、チャールトン・ヘストンが主演した1971年の『オメガマン』は奇妙な味わいがあって楽しめるが、2007年のウィル・スミス主演『アイ・アム・レジェンド』は原作を激しく冒涜(ぼうとく)したひどいシロモノだった。
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男の誇りが作り上げた殿堂
ガレージ映画といえば外すことができないのが2008年にクリント・イーストウッドが撮った『グラン・トリノ』だ。タイトルとなった1970年代のフォードの名車を軸に、物語は進行する。コワルスキー(クリント・イーストウッド)は朝鮮戦争に従軍した元軍人で、その後デトロイトで自動車工として働いた。今も所有する72年製の「グラン トリノ」は、自らステアリングコラムを取り付けたクルマだ。
妻を亡くし一人ぼっちとなったコワルスキーは、日本車のディーラーで働く息子が気に入らない。「トヨタ・ランドクルーザー」に乗る彼を苦々しく思っている。すっかり寂れてしまったデトロイトは、白人が脱出してアジア系だらけの街になっており、隣に住むのはモン族の家族だ。頑迷な差別主義者である彼は嫌悪の情を隠さない。しかし、次第に打ち解けていき実の家族よりも心を通わせることのできる相手だと思うようになる。
隣家の気弱な一人息子タオ(ビー・バン)は、モン族の不良グループに強要されてグラン トリノを盗もうとする。未遂に終わり、償いのために彼はコワルスキーの手伝いを始める。それは、男の生き方を学ぶことでもあった。信頼を得たタオは、グラン トリノが収まるガレージにも出入りを許されるようになる。
実に広くて立派なガレージである。作業台が設置されていて、クルマだけでなく電化製品や機械類の修理もここで行っている。壁一面に並べられた工具は見事なコレクションで、50年かけて集めたのだとコワルスキーは誇らしげにタオに話す。ガレージは彼の人生が作り上げた成果であり、輝かしい記憶が積み重ねられた殿堂なのだ。
この映画で描かれる死は、考えうる限りもっともほまれ高いものだ。あんな死に方ができれば、自分の一生は無駄ではなかったと思えるだろう。だからこそ、栄光の生が横溢(おういつ)したガレージのたたずまいが心に残る。
(文=鈴木真人)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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