第29回:8月27日「さっ、刺された」
2007.06.27 「ユーラシア電送日記」再録第29回:8月27日「さっ、刺された」
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
サンクトペテルブルクで宿を探す。今までの街と違い都会のここは、人も車も多くなる。そうなると、別の危険も増えてくるわけで……。
子供の一言
渋滞中のモスクワ大通り。今までのロシアの都市と違って、サンクトペテルブルクは大都市でクルマも多く、渋滞が慢性化している。前のクルマ「ボルガ」に続いてズルズル走っていると、10歳ぐらいの子供が運転席の窓ガラスをノックしてきた。モノ盗りでもなさそうだから、窓を開けると「タイヤがパンクしているよ」と言って去っていった。
慌てて車外に飛び出し、ペチャンコになったタイヤを見て動転している隙に、クルマから何か盗もうとしているんじゃないか? そんな輩がどこかにいるに違いない。そう思ったわれわれ3人は、殴り込みにでも行くように辺りを睨め付けながら、ゆっくり表に出る。
幸い誰も襲ってこなかったが、可哀想に左後輪のピレリP6は何か鋭いもので刺され、まだシューシューと空気を漏らしている。刺し跡はタイヤのサイドウォール真ん中だし、何かに擦ってもいない。明らかに人為的に刺された傷だ。あの極東の悪路にも耐えてくれたのに、車上狙いの邪悪な刃にやられてしまうとは。
仕事がもう一つ
朝からホテルを探して8軒に断られ、タイヤもパンク。これじゃ、泣きっ面に蜂じゃないか。なにが、建都300年だ。全員、怒りで眼が三角になっている。
「やったヤツを見つけたら、ブッ殺してやる」
ルーフに乗っているキャリアからスペアのタイヤを取り出し、付け替える。
「さっき、右側にノロノロ走っている白いラーダがいて、その後ろのクルマからホーンを鳴らされていたんだ。あのホーンは、タイヤが刺されたことを教えてくれたのかもしれない」
運転していたカメラマンの田丸は、ヘンな気がしたが、まさか走行中のタイヤが刺されるなんて考えもせず、気にしなかったのだ。
タイヤの傷は、最も柔らかいサイドウォールを貫通しているから、修復は不可能。1本買い直さなければならない。「シュウリすれば、使えます。ロシアでは、アタリマエです」通訳のアレクセイはもったいないというが、この先ヨーロッパでスピードレンジがグッと上昇する。修理したタイヤなんて、怖くて履いていられない。サンクトペテルブルクにいる間にタイヤを探して、買わなければならない。またひとつ、やることが増えてしまった。再び、渋滞中のモスクワ通りを街の中心に向かって走り始めたが、ホテルの部屋はまだ取れていない。今夜は泊まれるのか……。
(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

-
最終回:「エピローグ」(後編) 2007.7.29 トヨタ「カルディナ」でユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。東京で旅行を振り返る。 海外での日本人職員の対応や、ロシアの現状について考える。
-
第41回:「エピローグ」(前編) 2007.7.28 トヨタ「カルディナ」で、ユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。ようやく東京に戻り、長かった旅行を振り返る。前編では、参加メンバーのその後の様子を報告。
-
第39回:9月11日「ユーロトンネル」(前編) 2007.7.22 ウラジオストクからロカ岬まで。「トヨタ・カルディナ」で、ついにユーラシア横断を果たした金子浩久。カメラマンと別れ、友人の待つロンドンまでパリ経由で向かう。「ユーラシア電送日記」のエピローグをおくります。
-
第38回:9月4日「ロカ岬」 2007.7.21 2003年7月31日に富山県を出発した、「カルディナ」と自動車ジャーナリスト金子浩久の一行は、ついにポルトガルに到着。最終目的地の、ユーラシア大陸最西端「ロカ岬」へたどり着くが、カルディナのゴールはまだ先だった!?
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。