シトロエンC2【海外試乗記】
軽く短く元気よく 2003.11.27 試乗記 シトロエンC2 1.4iVTR(5MT)&1.6i16V(5MT) PSAグループのシトロエンとプジョーのブランド色が、コンパクトクラスで逆転する? 自動車ジャーナリストの森口将之が、シトロエンのニューモデル「C2」に乗って、考えた。
![]() |
![]() |
シトロエンなのに
プジョーは“スポーティ”で、シトロエンは“コンフォータブル”。PSAの2つのブランドの個性をひとことで表すと、こうなるだろう。同じクラスに属するコンパクトカー、プジョー「206」とシトロエン「C3」を比べてみれば、一目瞭然だ。
ところが今回デビューした「C2」は、シトロエンなのにスポーティさを売りものにする。その証拠に、2003年のフランクフルトショーでは、WRCのサブカテゴリー「ジュニアWRC」仕様やワンメイクラリー仕様を展示。気勢をあげていた。
C2の前任者である「サクソ」は、ジュニアWRCで2年連続チャンピオンドライバーを生み出したマシンである。市販車のサクソVTSも、同じエンジンを積むプジョー「106S16」より過激な性格だった。スポーティなC2のデビューには、こうした伏線があった。
でも、C5やクサラなど、他のシトロエンを考えると、ブランド内の「ねじれ現象」に感じられなくもない。フランスはパリ郊外を舞台に開かれたC2の国際プレス試乗会は、いつものテストドライブとは、違う気持ちを抱いて出かけることになった。
昔ながらの独創性
会場となったホテルの中庭に並べられたC2のエクステリアデザインは、いかにも元気がいい。強く傾いたウィンドゥスクリーンやキックアップしたリアクォーターウィンドゥ、スパッと切り落とされたリアエンドは、C3とは似ても似つかない。サイズがC3より短くて低いことも効いている。
試乗したのは日本に導入される予定のスポーティグレードVTR。フロントバンパーとサイドシル、リアゲートにエアロパーツが追加され、グリルはブラックになり、太いスポークのアルミホイールが組み合わせられる。脇に“素”のC2も置かれていたが、「VTRのほうがこのクルマにふさわしい仕立てだ」と思った。
インテリアからも、スポーティというキーワードが感じられる。ダッシュボードはC3と同じだが、全体を黒ベースに変更。メーターパネルはカーボン調になった。フロントシートはサイドの張り出しが大きく、色は黒を基調にオレンジ、グリーン、ブルーなどをコーディネイト。しかも、シフトレバーとドアグリップには、シートと同系色のスケルトンパーツを採用した。こういう遊び心は、プジョーではなかなか得られないものである。
シャレた演出にあふれるC2。リアシートは2人がけとして、C3より幅は狭められた。一方、着座位置が後ろにオフセットしてあり、ひざの前の余裕は変わらない。
リアゲートは上下2分割で、狭い場所でも開け閉めできて便利。さらに、下側は開けたときにベンチになり、裏には収納スペースまで備わるのだ。このあたりには、昔からのシトロエンの持ち味である「独創性」が発揮されていた。
知らない道でも……
VTRに積まれるエンジンは、C3でもおなじみ、ガソリンの1.4&1.6リッター直4。日本には両方が輸入される予定だ。トランスミッションは、いずれもC3の1.6リッターモデルに採用された5段シーケンシャルタイプの「センソドライブ」だった。
車両重量はC3より100kg近く軽く、約1tにすぎない。しかもセンソドライブは、C3のそれより変速が早められたおかげで、1.4リッターでも加速に不満を覚えることはまったくない。1.6リッターは加速が力強くなるだけでなく、吹け上がりは滑らかで、サウンドは心地よいなど、さらに元気なキャラクターを見せてくれた。
フットワークは、C2の性格をさらにはっきり教えてくれた。電動パワーステアリングのレスポンスはそれほど鋭くないが、そのあとの車体の動きがクイックなのだ。ボディの短さ、軽さを実感させられる瞬間である。前輪のグリップはかなり高いし、サクソと違ってリアのグリップも安定している。C3で感じられた重心の高さもないおかげで、知らない道でも安心してペースアップができた。
![]() |
![]() |
伝統は生きていた
その一方で、C2には昔ながらのシトロエンらしさもある。それは、乗り心地のよさだ。
1.4と1.6ではサスペンションの硬さが異なり、1.4のほうがまろやかではあるが、1.6でも不快感はない。ボディが小さいぶん、剛性がC3よりかなりアップしたことと、なによりもシートの座り心地がすばらしかったからだ。伝統は生きていた。
PSAではC2のリリース後、同じクラスにプジョーの新型車を送り出す予定になっている。おそらく「107」と呼ばれるそのクルマは、2002年のパリサロンに展示されたコンセプトカー「セザム」に近いというのが、もっぱらの評判だ。それが本当なら、C2よりも背が高く、スライド式のドアを持つ、都市での機動性を重視したコンパクトカーになるはずだ。
C2は現時点でも、フォルクスワーゲン「ルポ」やルノー「トゥインゴ」などのライバルより、スポーティなキャラクターが色濃く感じられる。その個性は、プジョーから兄弟車がデビューしたときに、さらに引き立つだろう。
(文=森口将之/写真=シトロエンジャポン/2003年11月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。