ポルシェ・ケイマン(MR/6MT)【短評(後編)】
点と線(後編) 2007.02.27 試乗記 ポルシェ・ケイマン(MR/6MT)……777.0万円
ベーシックグレードの「ケイマン」には、上位グレード「ケイマンS」やメーカーの象徴たる「911」とは違った、独自のドライビングプレジャーがあるという。
「S」とは違う快感
(前編より)イグニッションの位置は伝統どおりステアリングポストの左。背後のフラット6は瞬時に始動する。クラッチは「ケイマンS」より軽く、エンジンはアイドリング付近から扱いやすいトルクを出しているので発進は楽だ。
ノーマル「ケイマン」の排気量は、3.4リッターを積むSと比較して、「ボクスター」と同じ2.7リッター。従来から「バリオカム」と呼ばれる可変バルブタイミング機構がついていたが、このたび可変バルブリフト機構も加わり「バリオカムプラス」となった。
ボクスターも2007年モデルからこのエンジンを積む。同時に、3.2リッターだった「ボクスターS」はケイマンSと同じ3.4リッターバリオカムプラス仕様になった。つまり両車のエンジンは、いまやまったく共通である。
このエンジン、1000rpmあたりからでも苦もなく加速していけるほど柔軟だが、基本的にはやっぱり回して楽しむ性格だ。現行フラット6では最小だけあって、吹け上がりはとにかく軽快。4000rpmを越えるとコーンという音を響かせながら伸びが鋭くなり、5000rpmを越えるとさらに勢いづく。全開加速はそれなりに速いが、パワーやトルクが適度なので、さまざまなシーンで回し切る快感を味わえる。Sではこうはいかない。
それ以上にSと違うのは、3000rpmあたりからアクセルを深く踏み込んだとき。Sがちょうど911のように、弾けるようにスパンとダッシュしていくのに対して、こちらはスーッと速度を上げていく。排気量の差に加え、リアサスペンションが少しソフトになったことが関係しているのだろう。
ポルシェらしいのはSかもしれない。でもそれを求めるならやっぱり911が上。911を意識させないベーシックなケイマンのほうに、独自性を感じた。
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オプションの効能は?
音はボクスターに比べるとこもり気味だ。当然だ、エンジンルームがキャビンの中にあるのだから。ボリュームは適度に抑えられているが、背後に音源があるので、「911」よりは明瞭に耳に届く。それは小さなフラット6らしく滑らかで角がない。Sのように排気音が主張することもなく、ナロー時代の911のように、精緻に組まれた機械が回転する音を楽しめる。
トランスミッションが6段である必要はないと思ったが、ショートシフトはたしかにストロークが短く、タッチはより確実で、ギアチェンジそのものを楽しみに変えてくれる。約2500rpmの100km/hはエンジンの軽い唸りが聞こえるだけで、快適なクルージングができる。
19インチを履くスポーツカーということを考えると、乗り心地は望外にいい。
とくに「PASM」をノーマルモードにした状態では、超扁平タイヤからのショックをいなし、硬めながら快適と呼べるフィーリングを届けてくれる。スポーツモードにするとはっきり上下に揺すられ、ガマンできるのは高速道路と山道ぐらい。でも山道では姿勢変化が抑えられるという美点があった。
どちらのモードでも共通するのは、ショックの受け止め方。フロントはスッと吸収するのに対し、リアはボヨンと伝わる。大きな開口部を持つリアの剛性が、フロントと違う感じを受ける。
ちなみにその後乗ったPASMなし、ノーマルの18インチを履くケイマンSは、ノーマルモードとスポーツモードの中間といえる乗り心地を示した。
連続するドライビングプレジャー
ステアリングはボクスターと同じように、切り込んでいくほどクィックになるバリアブルレシオ。おかげで高速道路ではリラックスした直進性に身を任せられるが、コーナー進入時の反応はそれほど鋭くない。でもそれに対する車体の動きは軽快。ブレーキングでフロントへの荷重移動を行わなくても、すがすがしいターンインを味わえる。その後は低い車体の四隅に置かれたタイヤがバランスよくグリップを分担。タイヤが太く扁平な19インチということもあって、どんなにがんばろうと、なにごともなくコーナーを抜けていく。もちろんドライバーが頭で思い描いたとおりに、きれいなカーブを描いて曲がっていく。これだけで、じゅうぶん感動できる。
立ち上がりで右足を踏み抜いたときの路面を蹴る感触は、リアに荷重が集中した911はもちろん、他のミッドシップと比べても控えめだ。ほどほどのパワーとトルク、理想に近い前後重量配分、そしてリアまわりのボディ剛性が関係しているのかもしれない。
でもそれは欠点にはならない。911が、コーナー進入で前荷重をかけたときの鋭いターンインと、立ち上がりでの強烈な脱出加速という、いわば点の楽しさを味わうスポーツカーなのに対して、ケイマンはコーナーの入り口から出口までをきれいなカーブを描いて回る、線の楽しさが魅力だからだ。つまり2台のスポーツカーは、まったく違うドライビングプレジャーを目指している。同じポルシェだから最終到達点も共通、というわけではない。比較対象ではないのだ。
911だけがポルシェではない。僕にはそんな作り手の気持ちが、痛いほどよく伝わってきた。
(文=森口将之/写真=高橋信宏、ポルシェ・ジャパン/2007年2月)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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