第22章:「ドン底から再生の秘密は『ミニ・ゴーン』にあり!」
2007.02.10 FIAT復活物語第22章:「ドン底から再生の秘密は『ミニ・ゴーン』にあり!」
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国産車を買わなくなったイタリア人
本連載は、「一時は倒産か身売りか?」とまで言われたフィアットが、いかにして復活したかを綴るのが目的だった。
しかし連載の間にも、フィアットは次々と傘下の各ブランドで新しいニュースを放ち続けた。それを読者の皆さんにもお伝えすべく、興奮しながら書いているうちに、回を重ねてしまったというのが正直なところだ。
そこで、今回はちょっと落ち着いて、フィアット再生への道筋を振り返ってみたい。
はじまりは1997年だった。当時イタリア政府が新車買い替えに奨励金制度を設けたのだ。低迷の兆しを見せ始めたイタリア車=フィアット・グループ車を何とかテコ入れしようとしたのが、その目的だった。
おかげで自動車市場は活況を呈した。ところが思わぬ事態が待っていた。人々は奨励金を使い、イタリア車ではなく、フォード、オペル、シトロエン、プジョーといった輸入車を買ってしまったのだ。
それらはイタリア人にとって、国産車よりもバリューフォーマネー感が強く、魅力的に映ったのだ。
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以前より豊かになったイタリア人
また、自動車メーカーにとってより収益力の高い高級車市場でも、以前より豊かになったイタリア人はアルファ・ロメオやランチアからドイツ製プレミアムカーに乗り換えていった。
ついでにいえば、80年代初頭の輸入規制によって周辺国と比較して普及が遅れていた日本車も、じわじわと人気が出てきた。
といって、国産車だけに奨励金の適用を絞ることなど、欧州市場統合の動きのなかで許されるものではない。
その結果、フィアット・グループはじりじりとシェアを下げ始めた。
フィアットは未来に、ある程度見切りをつけていたのだろう。2000年の米GMとの提携には、「GMは将来、フィアット株のすべてを買い取る」というオプションを盛り込んだ。
そうするうちにも、フィアットのシェア低下は止められず、グループの国内シェアは27%を割り込んだ。つまり7割以上が輸入車ということである。
株価も2001年1月に26ユーロ台だったものが、2003年2月には6.89ユーロまで下落した。2002年の赤字額は過去最高の4兆2630ユーロにまで膨らんだ。
「シチリア工場をトヨタに売却するのでは?」との噂が流れたのも、この頃である。
決死で本業の自動車に傾注
いっぽうでフィアットは、決死ともいえる、周辺事業の売却を進めた。本業の自動車に経営資源を集中したのである。
戦前にルーツを遡り、イタリア新幹線ペンドリーノも造っていた鉄道部門はフランス企業に売却した。
同じく戦前からの事業でスペースシャトルの部品も手がけていた航空機部門「フィアット・アヴィオ」はイタリアの企業に売った。
長年傘下にあった保険会社の筆頭株主の座からも退いた。
フィアットの象徴だった巨大自動車工場を再開発したビル「リンゴット」の主要部分を手放し、果てはフィアット王国の富の象徴として所有していたヴェネツィアの優雅なパラッツォ(館)といった「お宝」まで地元カジノに売り払った。
往年は冷蔵庫や洗濯機まで手がけ、食品・流通まで傘下において、「フィアットの息がかかっていない業界はない」とまでいわれたフィアットとしては、前代未聞の出来事である。
幸い2005年、前述のGMとの提携解消の見返りとして、150億ユーロも舞い込んだ。
当たり前のことを、ちゃんとやった
魅力的な新車開発も着々と進めた。2004年にスタートしたモンテゼーモロ会長−マルキオンネ社長による新体制は、「これから数年で23のニューモデルを発表する」と宣言した。
その先駆けである新型パンダ、グランデプントがイタリアのみならず欧州でも大ヒットしたのは、すでにこの連載で記したとおりである。
来年は新ランチア・デルタ、続いてアルファ147の新型である149がプログラムに入っている。こうした好材料から、株価は昨年だけで2倍に跳ね上がった。
マルキオンネ社長の手法は目標を立てることだ。たとえば2006年は国内シェア3割奪還で、見事それを果たした。目下1月だけで31%を目指す。
本業への集中、および明確な目標の共有という手法はカルロス・ゴーンが実践したものであり、自動車メーカー再建の道程としては、いわば王道である。
しかしそれをフィアットという100年を超える歴史を持つ企業で実践できたことは、画期的なことといえよう。
ついでにいえば、日産と違うこともある。品質についても、前回記したようにトヨタをベンチマークにしていること。そしてフィアットは今回の危機克服にあたり、国内外の工場を1カ所たりとも閉鎖しなかったことだ。
「ホンワカ」はフィアットだけ
今回は少々マジメになってしまったので、写真は楽しいものをご覧いただこう。
先月ミラノであった国際家庭用品展でフィアットが催した「イタリアン・ポップ」というエキシビジョンである。有名な家庭用品メーカーであるグッツィーニ社との共催企画で、本物のフィアット500を題材に6人のアーティストが競演した。
今年9月15日にいよいよ新型500を発表するのに先駆けた、事前雰囲気カモカモ・キャンペーンである。
ところで、メルセデスやBMWにもペインティングした“アートカー”の類はあるが、どこか高尚なムードが漂う。といって日本メーカーが歴代車を展示すると、なぜかプロジェクトXな汗と涙の香りがしてしまう。
フィアットは、見る者を無条件にホンワカした気持にさせる歴史車を持つ、数少ないメーカーである。
(文=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/写真=Fiat Group Automobiles)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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