第19章:「フィアット、遂に看板を降ろす!? 〜日欧のCI 戦略エトセトラ〜」
2007.01.06 FIAT復活物語第19章:「フィアット、遂に看板を降ろす!? 〜日欧のCI 戦略エトセトラ〜」
■久美子もひろ子も凄かった
日本企業の広告プロモーションやCI(Corporate Identity)戦略には、すさまじいものがある。ある日突然、それも徹底的に始まる。最近では、ソフトバンク携帯電話のCI展開が記憶に新しい。街中にいきなりSoftBankの文字が溢れた。
1987年、国鉄が民営化されて、JR東日本が誕生したときは、初代イメージガールである後藤久美子の写真が溢れかえった。ジャン・アレジが彼女がそんな仕事をやっていたことを憶えているかどうかは怪しいが、制服を着て敬礼するポスターが全駅に貼られていたものだ。
それより2年前、1985年にNTTが発足したときも然り。新聞を開けば、イメージキャラクターに抜擢された薬師丸ひろ子が毎日のように出ていた。テレビをつければ、彼女が歌う『もっとあなたを知りたくて』を使ったCMが頻繁に流れた。あまりに繰り返されるので、ボクなどは今でも日本に行くたび、街で公衆電話を見ると口ずさんでしまう。
自動車メーカーのCIでは、カルロス・ゴーン以降の日産は、勢いがあった。銀座4丁目のギャラリーから全国津々浦々のショールームまであっという間に改装され、名刺もゴーン氏から一セールスマンに至るまで、新しいデザインに統一された。
■バカ殿様を超えたBMW
ヨーロッパの自動車メーカーのCI戦略を見ると、進んでいるのはやはりドイツだ。他国のメーカー以上に、末端のディーラーのちょっとした印刷物にまで目を光らせ、視覚的イメージの統一に腐心している。
ディーラー店舗のイメージ統一にも気合を入れている。たとえばメルセデスはもともとCI戦略に優れていたが、最近再び新しい店舗デザインを展開し始めた。
テレビCMに関していえば、BMWが優れている。BGMのムードが統一されているため、始まった瞬間から、「BMWだ」とわかる。そして最後は日本版CMでもお馴染みの「カ〜ン!」という竹筒を叩いたような効果音で終わる。カ〜ン!=BMWは、“志村けんのバカ殿様”が癇癪を起こして刀をとるとき、必ず流れる尺八の音以上に、人々の頭のなかでリンクしている。
■そのロゴ、60年代モノ
対してフィアット系のイタリア本国におけるCI戦略はというと、どうも冴えなかった。
CMは新型が出るたび短期間のものを連発し、他の車種との統一性がまるでない。その間に、値引き額を連呼するものや、サマー点検キャンペーンを告知するビキニのお姉さんが出てきたりする。
販売店も、1968年に制定された平行四辺形のFIATロゴをえんえんと掲げてきた。
キビシイことをいえば、CI不在の状態だった。
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■ゆるいのがイタリア流
それに変化の兆しがあらわれてきたのは、1999年のことだった。創業100周年を機に、車両に貼り付けるロゴを「丸にFIAT」に変更したのである。1921年制定のロゴに範をとったものだった。
それにあわせて、テレビCMも、イメージ重視のものに変わっていった。ただし、ディーラーのCI変更はというと、依然そのままだった。
ようやくフィアットがその重要性に気付き、60年代以来のディーラー外観の改装に着手したのは、6年後の2005年だった。それも一斉というより、随時というのが正しい。
たとえば、お膝元トリノのフィアット販売店は、早くも開始元年に改装を終えていたが、ミラノの直営店は今年の春もまだ一部改装中だった。わが家のあるイタリア中部などは、ようやく今年になってぼちぼち始まった。日本の機銃掃射の如きCI計画からすると、なんともゆるい。
まあ、2006年初めにグランデ・プントとパンダが売れ始め、年初来+93%の株価を記録するまでは、「死に体」とまで言われた会社である。
ディーラーにそれなりの負担を求める外装変更を一気に推し進めることなど、到底難しかったのに違いない。
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■ああ、懐かしのお姉さん
さて、実際のフィアット新店舗のCIを見る。
銀のパネルが貼られて上品になった。
ただし、ちょっと目立たなくなってしまったのも事実である。ボクなどは、遠目で見たとき、フォルクスワーゲンの店と間違えてしまった。フィアットもVWも銀色の地に青丸ロゴが載っかっているからである。
「ま、まさか、間違ってVW買いに入って来た人を狙っているんじゃないでしょうねえ」なんていう勘ぐりまで浮かんでしまう。
クルマに求められる、品質感、ハイテク感を演出しつつ、他社と差別化し、新しく見せるのがいかに難しいかを示している。
ボク自身、フィアットの店と咄嗟に認識できるようになるには、もう少し時間がかかりそうだ。
同時に、お笑いネタにしていたあのコテコテ・ビキニのお姉さんこそ、実はボクの頭のなかにおける最強のフィアットCIであったことに気付いたのだった。
(文と写真=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2007年1月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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