フィアット復活物語 第16章「出直しは地方興行から!? “イタリア唯一の自動車ショー”ボローニャに気合」(大矢アキオ)
2006.12.09 FIAT復活物語第16章:「出直しは地方興行から!? “イタリア唯一の自動車ショー”ボローニャに気合」
■不思議なショー
ボローニャ・モーターショーは、毎年12月に開催される。トリノ・ショーが消滅した今日、イタリアで唯一の自動車ショーである。
ただし、ジュネーヴやパリ、フランクフルトほど、世界中の主要自動車メーカーが競ってニューモデルを発表するムードではないことも確かだ。トリノやミラノのカロッツェリアも、コンセプトカー発表の場は、やはりジュネーヴである。
自国のブランドさえ、発表しない。不思議なショーだったといっても過言ではない。
■フィアットの近未来が……
しかしここ数年、フィアットは近未来の暗示を、どのショーより先にボローニャに隠している。
たとえば、2002年には現行パンダのパイロット版であるオフロードカー「シンバ」を展示している。
昨年は、フィアット版ハマーのような四駆コンセプトカー「オルトレ・フィアット」を、世界初公開した。
そればかりではなく、スズキSX4の姉妹車である「セディチ」も発表してしまった。生産車のデビューの場としても、ボローニャを選んだのである。
トリノ五輪を前に、四駆攻勢でスポーティなフィアットを巧みに演出したというわけだ。
■フィアットの目論み
外国メディアでいまひとつ採り上げられないボローニャで、なぜ?
そんな筆者の疑問に、フィアットの熟練広報スタッフは、こう説明する。
「ボローニャはイタリア国内市場にとって、やはり重要なショーなのです」
たしかに、冒頭のとおり世界初のニューモデルは少ない。だが、パーツやイタリア人が大好きなニ輪も包括し、週末にはシューマッハー、ヴァレンティーノ・ロッシ、カピロッシなど、特別ゲストを招いて盛り上がる。
そんなこともあって、週末は押すな押すなの満員となり、期間中の観客数は150万人に達する。
フィアットは、一般ファン向けショーに積極的にアプローチすることによって、外国メーカーに心を奪われてしまったユーザーたちを取り戻す地道な努力をしているのである。
■のどかな光景
今年のボローニャは、12月17日まで開催されている。
フィアットは、コンセプトカー「FCCアドベンチャー」と「パンダ・クロス・ダカール2007」をいずれも世界初公開する。
前者はブラジルのチェントロスティーレ・フィアット(スタイリングセンター)による作品である。後者は年初のダカール・ラリー参加に向け、チュニジアで着々とテスト中の車両だ。
また、来年秋に発売される例の新型チンクエチェントも展示される。
ところで毎年ボローニャ・ショー会期中は、各地から会場行き特別列車が運行される。このあたりも、一般エンスー向けショーを色濃く感じるところだ。
会場への足といえば、こんな経験もあった。
一般公開日に路線バスで赴いたときのことだ。ショー会場に近づくと、数名の若者たちが運転士のおじさんに近づいて話している。
なにやら猫なで声でお願いしている風である。
しばらくすると、運転士のおじさんが、
「しょうがねえなあ、今日だけだゾ」と言ってバスを停め、その若者たちを降ろした。
バスは、ボローニャの市街までは行くものの、ショーをやっているメッセ会場の近くには停まらない。若者たちは、会場の近くで特別にバスを停めてもらったのだ。
バス停がないところで降ろすなど、イタリアでも規則的にNGである。
しかし見ると、運転士のおじさんは信号待ちの間、ニヤニヤ笑いながらモーターショー会場に向かう若者たちを見送っていた。
実はおじさん本人がいちばん、その“年一度のエンスーの祭典”に行きたかったのに違いない。
(文=大矢アキオ-Akio Lorenzo OYA/2006年12月)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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