第292回:スズキ・セルボ試乗でわかった!
NYテロとカーデザインの意外な関係(小沢コージ)
2006.12.04
小沢コージの勢いまかせ!
第292回:スズキ・セルボ試乗でわかった!NYテロとカーデザインの意外な関係
■セルボは加藤ローサ系?
いやはやスゲー勉強になっちゃいましたよ、スズキ・セルボ試乗会。カーデザインの技術的側面と文化的側面の両方で。
まずはテクニック面で言うと、とにかくセルボ、最初に写真で見て驚いたのね。な、なんてカッコいいんだ……。
既に『webCG』のインプレッションで書かれている通り、まさにどっかのフランス車って感じでとても軽自動車とは思えない!
実際の現物には、さすがに写真ほどのワイドな感じはなかったんだけど、それにしても軽自動車の枠を超えたデザイン。で、昔から知ってたチーフデザイナーの結城康和さんにタネ明かししてもらったところ……
結城: これはほとんど“騙し絵”の世界ですよ(笑)
コージ: えっ?
結城: いろいろワイドにグラマラスに見せかける仕掛けがいっぱい詰まってるんで。
コージ: というと……
結城: 例えばフロントヘッドライトにしてもよく見るとすごく立体的な造詣になってますよね。
コージ: あ、ホントだ。ちょっとホンダ・フィットみたいに表面が外側にトンがってる。
結城: これってボンネットやフェンダーから続く線がなるべく外側に来るようにしたカタチなんですよ。
コージ: なるほど。確かにいろんな線の頂点がここまできてる。
結城: つまり、ライトを広く見せつつ、全体の塊感を出す手法なんです。軽だから、本当はそれほど抑揚はないけど、すごくメリハリがあるように見えるじゃないですか。
コージ: 確かに。不思議だったのが真正面から見るとややヒラメ顔なのに、実物はそう見えないんですよね。すごく立体的に見える。
結城: その通り。実際は室内を広くしなきゃいけないクルマですから、外側に大きなフェンダーの張り出しとか、絞りは付けられないんですけど、付いているように“見せかけ”てる。要するに日本人なのに外人のようにも見える“加藤ローサ系”デザインなんです(笑)
コージ: なるほど。ホントは平面顔なのに、目とか鼻とかディテールがパッチリしてるから立体的に見える“ハーフ顔”なんだ。
結城: その通り。同じようにリアコンビのカタチも工夫してますし、リアの屋根にしてもサイドにしても、リア席の人の頭の位置を過ぎてから絞ってるんです。そうすれば室内の狭さを感じさせずに、ある程度の立体感を付けられる。
コージ: オレ自身、スバルR2持ってたってこともあるんですけど、好きなタイプのデザインです。ただ、あれほど実用性を犠牲にしてませんよね?
結城: だから騙し絵なんです(笑)。
■デザインにおけるNYテロの影響
コージ: ところでなんで今時期、こういうデザインの軽がどんどん出てきたんですかねぇ。スバルR2しかり、セルボしかり、ダイハツ・ソニカもまあ似たような路線で。
結城: ウチはですね。すでにラパンという、いわば和み系というか、脱力系のクルマがあって、それの対極というカタチでセルボを出したわけですけど、これってニューヨークテロ以降の世界的デザイン傾向なんですよ。
コージ: NYテロ? 例のワールドトレードセンターの?
結城: そうです。アレ以降の傾向なんですけど、いわゆる力の抜けたロハスというか脱力系のデザインと、ある種のモード系というか緊張系のデザインに二極化しちゃってるんです。中間がない。
コージ: そういやそうだ。ロハスってテロ以降だ。
結城: 一方、モードはモードで相変わらずあるでしょう。おそらくテロから徹底的に逃げたい人とそうでない人と別れたんじゃないですかね。
コージ: なるほどね。世界的に信じられない暴力が出現して、それに相変わらず正面から向き合う人と、戦わずに戦うというか、ガンジーみたいに別の生き方を選ぶ人の2種類に分かれたんだ。
結城: そんな感じなんですかねぇ。
コージ: で、セルボはモード系なんだと。戦うんだと!
結城: その通りです(笑)。
うーん、デザインって深い。人間が無意識的に持ってる感情や想いを如実にカタチに残してしまうんですねぇ。いやはや、カーデザイン侮れじ!
(文と写真=小沢コージ/2006年12月)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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