第44回:『トリノの風薫る』プリンス・スカイラインスポーツ(1962-63)(その3)
2006.09.13 これっきりですカー第44回:『トリノの風薫る』プリンス・スカイラインスポーツ(1962-63)(その3)
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■初代スカイラインとグロリア
前回(その2)において、「スカイラインスポーツ」であるにもかかわらず、イタリアに送られたのが「初代グロリア」用ベアシャシーだったという記述に、疑問を持たれた方もいるのではないだろうか。その疑問に答えるためには、まずは初代スカイラインとグロリアの関係について説明する必要がある。
初回(その1)で述べたように、初代スカイラインの誕生は1957年だが、その初代はクラウンと市場を争う5ナンバーフルサイズのセダンだった。しかし当時の税制では小型車のエンジンは1500cc以下に定められていため、クラウンもスカイラインも直4OHV1.5リッターエンジンを搭載していた。
いっぽう初代グロリアは、初代スカイラインの内外装をより高級化し、1.9リッターまで拡大したエンジンを搭載した3ナンバーの普通乗用車として、59年に加えられたモデルである。「栄光」を意味する「グロリア」という名称は、同年の皇太子(今上天皇)のご成婚を記念して命名されたものだが、つまりスカイラインとグロリアは基本構造を共有する兄弟車だったわけだ。
「スカイラインスポーツ」は、2種類のエンジンのうちパワフルなグロリア用1.9リッターを使用していたが、あくまでグロリアはスカイラインの派生車種であり、基本はスカイラインであるという観点から、その名を名乗ったのではないだろうか。
なお、60年秋には小型車規格が2000ccまでに変更されたため、グロリアも5ナンバーの小型車となった。さらに翌61年にはスカイラインにも1.9リッターエンジンを積んだ「スカイライン1900」が追加されたが、この「スカイライン1900デラックス」と「グロリア」の違いは圧縮比の違いによる最高出力(スカイライン1900=91ps、グロリア=94ps)、および内外装の細部のみだった。
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■当時としては進歩的な設計
そうした成り立ちを持つ初代スカイライン/グロリアだが、当時の日本車のなかでは進歩的な設計を誇っていた。フレームはVWビートル用などと似た構造の「バックボーントレー式」で、セパレートフレーム式ならではの高い剛性とモノコックなみの低いフロアを両立させていた。このフレーム形式ゆえにクーペまたはオープンボディへの着せ替えも容易に行えたわけである。
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リアサスペンションも特徴のひとつで、国産乗用車では唯一「ド・ディオン・アクスル」を採用していた。これは形式としてはリジッドアクスルだが、ディファレンシャル(デフ)は車体側に固定されており、左右独立したドライブシャフトを持つ車輪はド・ディオンチューブと呼ばれる1本のチューブ(パイプ)で連結されている。バネ下重量が軽いため乗り心地に優れ、また左右輪のキャンバー変化がないため路面への追従性も高い、独立懸架と固定軸の長所を兼ね備えた形式といえる。
反面機構が複雑となり、コストも高くなるが、プリンスはあえて採用していたのだ。なお、フロントサスペンションは当時としては標準的なダブルウィッシュボーン/コイルの独立である。
スカイラインスポーツは、それらの特徴を持つシャシーをスカイライン/グロリアから流用していた。エンジンはプロトタイプの段階では、グロリア用を吸排気系の改良によって多少チューンを高めて搭載していたが、61年には本来のグロリア用も同様の変更を受けてパワーアップを果たしたため、62年4月に登場した市販型ではそれがそのまま流用された。GB4型という型式名のエンジンは直4OHV1862ccから最高出力94ps/4800rpm、最大トルク15.6kgm/3600rpmを発生したが、これは当時の国産乗用車中最強を誇っていた。
1速がノンシンクロの4段ギアボックスもスカイライン/グロリアからの流用で、わずかに最終減速比が多少高められていた。シフトレバーもコラムシフトのままで、「スポーツ」と名乗るからにはせめてフロアシフトに改めてもよかったのではと思うが、そうはならなかった。これについては、ベースとなったスカイライン/グロリアがフロアトンネルの出っ張りを小さくすべくギアボックスを横倒し、すなわち90度傾けてマウントしていたために、フロアシフトへの改造が困難だったというのがその理由のようだ。
そのほか4輪ドラムブレーキなどもスカイライン/グロリアとまったく同じだったが、唯一ホイール/タイヤだけは、ボディとのバランスを考慮してオリジナルの14から15インチに替えられていた。車重はクーペで1350kgと、当時としても軽くはなかったが、公表された最高速度は150km/h。ベースとなったスカイライン1900/グロリアより10km/h上回り、これまた当時の国産車中トップの数字だった。(つづく)
(文=田沼 哲/2005年11月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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