第35回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その4)
2006.09.13 これっきりですカー第35回:『偉大なる失敗作』ホンダ1300(1969〜1972)(その4)
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■バリエーションの追加と改善
1969年4月に発表された生産計画では、5月に生産を開始して3カ月後の8月には月産5000台、6カ月後の11月には月産1万台へもっていく予定とされていた。
ちなみに当時、国内小型車市場において平均月販台数1万台以上を記録していたのは「カローラ」「コロナ(マークII含む)」「サニー」「ブルーバード」の4 銘柄。トヨタ、日産以外でもっとも健闘していたのはマツダの「ファミリア」で、8000台前後といったところ。それ以外のメーカーで月販5000台に届くようなモデルは存在しなかった。
では実際のところ、「ホンダ1300」のセールスはどうだったのか。本格的なデリバリーが始まった8月から12月までを見ると、月販平均3000台はクリアしていた。翌70年に入ると1、2月は低迷したものの(この車種に限ったことではないが)、3月には一気に5000台を突破した。これにはもちろん理由がある。2月、3月と立て続けにバリエーションが追加されたからである。
まず2月に登場したのは「1300クーペ」。これはセダンと基本的に共通のシャシーの上にまったく新しい、流麗なスタイリングの2ドアクーペボディを載せたスペシャルティカー風のモデルで、「フライトコクピット」と名付けられた、ドライバーに向かって湾曲した立体的なインパネをはじめ室内のデザインも一新されており、商品力は大幅に向上していた。
1300シリーズのエンジンは、69年12月にトップエンドのパワーを多少削っても中低速域のトルクを大きくすべくカムプロフィールとバルブタイミングが変更され、最高出力はシングルキャブ仕様(77)が100ps/7200rpmから 95ps/7000rpmに、4キャブ仕様(99)が115ps/7500rpmから110ps/7300rpmへとデチューンされていたが、クーペにも同じものが搭載された。
名称はシングルキャブ車が「クーペ7」、4キャブ車が「クーペ9」で、バリエーションは前者がスタンダード、デラックス、カスタム、Sの4グレード、後者がデラックス、S、カスタムの3グレード。価格はもっともスポーティなクーペ9Sで72万8000円だった。
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■「まるで別の車」
このクーペ9Sが『カーグラフィック』70年4月号でさっそくロードテストに供されている。冒頭の要約を紹介すると「1300セダンをベースにした実用性高いクーペ。居住性、セダンに劣らず。4キャブレターのエンジン、無類にパワフルでスムーズ。サスペンション、セダンより硬く、ようやくエンジンに追いつく。操縦性、セダンより大幅に向上」とあり、主なテストデータは「最高速度 171.43km/h、0-400m加速17.5秒、0-100km/h加速11.3秒、平均燃費8.35km/リッター」となっている。
これを見ただけでも、前回紹介した「77デラックス」とはだいぶ印象が異なっていたことがわかるが、事実記事中には「……このほど発売されたクーペ9をテストした結果、HONDA1300に対するわれわれの偏見(?)は大幅に改められた。端的にいえば、クーペ9の操縦性はC/G1300 77セダンからは想像できないほど改善され、まるで別の車のように感じられたのである……」と記されていた。
操縦性のみならず、高性能版の4キャブ車であるにもかかわらずシングルキャブの長期テスト車より燃費がいいことなどが驚きをもって報告され、改善が車両全体に及んでいることが言及されている。
ホンダ車の頻繁な設計・仕様変更はよく語られる話であり、また生産初期型の不具合はメーカー・車種を問わず聞かれるものだが、この1300では特にそれが顕著だったようである。
次いで3月に追加されたバリエーションは「1300オートマチック」。当然ながら自社開発された3段ATと80ps/6500rpmまでデチューンされたシングルキャブエンジンを組み合わせたもので、77セダン/クーペ7の双方にデラックスとカスタムが用意された。価格はいずれもMT仕様+3万円で、構造がシンプルなぶん他社のAT仕様と比べ半額程度のコストアップに収まっていた。(つづく)
(文=田沼 哲/2004年11月)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
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第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
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第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
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第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
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第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
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第49回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その4) 2006.9.13 新しいコンセプトのトランスポーターとして、1960年2月に発売された日野コンマース。だがそのセールスははかばかしくなかった。
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