ジャガーXKクーペ(FR/6AT)/XKコンバーチブル(FR/6AT)【試乗記】
洗練を得て、なお残る硬派ぶり 2006.07.18 試乗記 ジャガーXKクーペ(FR/6AT)/XKコンバーチブル(FR/6AT) ……1180.0万円/1280.0万円 古典的な味わいを持ったスポーツカー「ジャガーXKシリーズ」が10年ぶりにフルモデルチェンジされた。ラクシュリーとスポーティを両立させる使命を負ったモデルは、アルミテクノロジーによって洗練と軽やかさを手に入れていた。男くささは健在
昨年末、先代「ジャガーXK」の最終モデルに試乗する機会があり、古色蒼然たる乗り味となんともワイルドな男くささに改めて感じ入ったものだった。だから、新しいXKの写真を見て、ずいぶんソフィスティケートされてしまったなあと少しばかり寂しい気分になった。同じPAGに属する「アストンマーティン」のイメージに近づいてしまったようで、もっと独自性を際立たせたほうがいいのではないか、などとおせっかいなことを考えたのである。
結論から言うと、新しいXKは決して軟弱なクルマにはなっていなかった。実物を目にし、走らせてみると、先代で感じた硬派なイメージは確かに受け継がれていることがわかったのだ。もちろんデザインにも乗り味にも洗練が加わっているのだが、それでも益荒男ぶりは隠しきれない。依然として、XKは荒々しい男のクルマである。
写真ではどこか無機質で安っぽく見えたフォルムだが、陽光の下で陰影に富んだ面を間近に眺めると、そのボリューム感に圧倒される。全幅1895ミリという数値から想像される以上にふくよかでグラマラスな起伏が形作られ、角度によって豊かに表情を変える。エレガンスとマッチョ感という相反する要素をともに盛り込むという困難な作業を、「Eタイプ」のイメージをモダンさで包み込むことで成し遂げた。ヘッドランプの形状に力強さが欠けていることから、幼体成熟の両生類の顔つきとの類似を指摘されているようだが、これはデザイナーが意図的に導入した「破綻」であるらしい。ちょっと眉毛が下がり気味に見えるこの表情は時代に合っていると思うのだが、違和感を持つ人がいるのもわかる。
アルミテクノロジーがさらに進化
インテリアの印象は、さらに強く変化を感じさせる。モニターを中心に据えることを前提としたために、前面をウッドのパネルが覆う形状は廃され、左右二分割の一般的なデザインが採用された。
もちろん、レザーとウッドの質感の高さは受け継がれ、よりエレガントな風合いを醸し出す。ベースモデルの受注が始まる9月まではパッケージオプションを付加した「スタイルセレクションズ」と名付けられた3モデルのみが販売されることになっており、今回試乗したのは「Luxury」というタイプだ。もっとも伝統的な設えが施されたもので、ほかにファッショナブルさを強調した「Contemporary」、スポーティイメージの「Sports」がある。すべて、ベースモデルよりも50.0万円高となっている。
室内がすっきりとしていると感じられるのは、電子式パーキングブレーキが採用されたことも影響している。なにせ、先代XKには英国車の伝統を感じさせるフライオフ式のパーキングブレーキが装着されていたのだ。エンジン始動はセンターコンソール上のスタートボタンによって行われるようになっており、このあたりは最近のプレミアムカーのトレンドに沿った変化といえるだろう。
エンジンは従来から採用されている4.2リッターのV8で、大きな変更はない。トランスミッションも定評のあるZF製6段ATが踏襲されている。とはいえ、走り出してすぐさま加速の鋭さを感じるのは、軽量化されたボディによるところが大きい。「XJ」から取り入れられたアルミニウムモノコックボディがXKでも採用され、ボディの大型化に対して重量増を最小限に抑えた。さらに先代に比べ、クーペで31%、コンバーチブルで48%もねじり剛性を向上させたというから、アルミテクノロジーの進化は続いているのだろう。
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贅沢を楽しむためのクルマ
始動時から心地よいサウンドが伝わってくるが、その音質はきめ細かに整えられたもので、荒々しさは排除されている。しかし、アクセルを踏み込むにしたがって湧き上がるパワーは音から想像されるレベルを大きく上回るもので、そのギャップが心地よいのだ。軽やかな身のこなしは、先代の重厚な印象とはやはり異なっている。ワインディングロードでの軽快さがもたらす快楽は、ひとつ上のステージのものだ。ステアリングホイールに装備されたパドルで素早いシフトを行いながらコーナーを駆け抜けていくと、ファットなボディサイズをつい忘れてしまう。
高速道路では、シフトなど気にせずにアクセルを踏みつければどこまでもスピードが増していきそうな感覚にとらわれる。高速コーナーで素直に曲がっていく振る舞いは、このクルマの最大の美点のひとつだろう。XJで感じる上質な心地よさと似通っているが、XKをドライブすることには、どこかよりエキサイティングな感覚がある。贅沢な乗り物に乗っているという気持ちが、そう思わせるのだろうか。屋根が開いていればもっと気分が良いだろうが、残念なことに、今回コンバーチブルは撮影用のクルマしか用意されていなかった。
価格設定を見ると、クーペとの差はちょうど100.0万円である。クーペの出来も素晴らしかったが、重量差がわずか40キロだということを考えれば、コンバーチブルの走りが極端に劣るとは考えにくい。だとすれば、コンバーチブルモデルはかなり魅力的な存在となるように思える。クーペでも後席の狭さはエマージェンシーでも使えないほどのものだから、実用性ということではオープンだって変わりはない。XKは、贅沢を楽しむためのクルマなのだ。クーペの出来が良かったからこそ、早くコンバーチブルに乗りたいという思いを強く持ってしまった。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=荒川正幸/2006年7月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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